1話 オオカミ少年と赤ずきん
昔々、とある森の中で、女の子がオオカミさんと一緒に住んでいました。
女の子は才色兼備で、運動も勉強も出来て、異性を問わず憧れの的でした。
当然、女の子に好意を寄せる男の子もいて、女の子は告白をされました。
しかし男の子が好きではなかった女の子は、この告白を断りました。
それに怒ったのが、男の子が好きだった蛙さんでした。
蛙さんは女の子を妬み、仲間と一緒に女の子をイジメ始めました。
それに気付いたのが、オオカミさんでした。オオカミさんは女の子と蛙さんの間に割って入り、蛙さんの顔を殴り飛ばしました。
『女の子を傷つけるなら、これ以上に痛い目を見るぞ』
オオカミさんは怒り心頭。
普段は言わないような罵倒を口にして、女の子を守りました。
しかしそれを見ていた他の動物さんたちは、オオカミさんを悪者にして怖がり、森の中から追放しました。
女の子は別のところで、オオカミさんと幸せに暮らしました。
めでたし、めでたし。
ーーー
非日常って何だろう。
そう思うことが多々ある。
異世界とか行ったら、それは確かに非日常だが、そんなことが現実で起こるわけがない。
かと言ってラブコメ的な展開に巻き込まれる、とかそんなことも中々ないだろう。だって今時、草食系しかいないし。
かつて異世界に夢を見て、剣を振る練習なんかもした。ファンタジーのお姫様と仲良くなる練習もした。
報われない努力だと思っていても、諦めきれない自分がいた。もうそんな夢は、黒歴史ノートと一緒に清掃工場で灰になっているが。
だから俺はリアリズムに生きようと決めた。
現実を見て、現実に生き、今起こっていることだけを考えよう。そう、思っていたのだ。
「あー……良ければ警察に電話するけど?」
「は? まじ勘弁だし! 行こ、みんな!」
――イジメの現場に居合わせるまでは。
三人で一人の女の子を取り囲む女子軍団を見送り、取り囲まれていた女の子を見る。
黒髪の短いボブカット。小柄で華奢な体格からは、弱々しい雰囲気を見受けられるが、実はこの女子、我が校自慢の優等生である。
森ノ宮朱音。
博学篤志と運動神経抜群を兼ねる、才色兼備の一軍女子である。
その森ノ宮が、腰が砕けたようにへたり込み、大きな溜息を吐いたのを見て、俺は声を掛ける。
「……大丈夫だったか? どっか痛いなら、救急車を呼ぶぞ?」
「大丈夫です……お世話を掛けました。それでは……」
子鹿のように足を震わせて立ち上がり、歩いて帰ろうとする森ノ宮を見送ろうとするが、すぐに壁に手をついたので致し方なく肩を支える。
「おい、本当に大丈夫か? 流石に見てらんねぇぞ?」
「大丈夫です、オオカミ先輩も気をつけて」
「おおがみ、な。大上真」
昔からオオカミさん、と呼ばれることはある。
別に気にしてないのだが「あ、ご、ごめん……」と、少し気不味くなるのだけはやめてほしい。この森ノ宮に限っては、そんなことはなさそうだが。
「そうですか。では送り狼先輩、さようなら」
「その言い方は永遠にのそれだろ。明日も普通に会うんだからな」
「そうでした。不覚です……明日も会うなんて」
「不服そうだな。あと俺、送り狼じゃないからな」
この森ノ宮朱音、俺のことを毛嫌いしている節がある。一応、同じ生徒会に所属している仲間のはずなんだけどなぁ……なんでかなぁ……。
「そもそも助けはいりませんでした。オオカミ先輩はむしろ邪魔だったんです」
「ほう。言うじゃないか。俺の助けがなかったら、どうやって窮地を脱したんだ?」
「人は蹴られれば痛がるものです。囲まれても無防備な股ぐらを蹴り飛ばせば、自ずと道は開かれ……」
「暴力ダメ、絶対」
やっぱり止めて正解だった。喧嘩上等すぎるだろ森ノ宮嬢。
喧嘩して停学だけで済むのは二次元だけだぞ。普通は退学、或いは村八分だ。
「はぁ……とにかく森ノ宮が無事でよかったよ。また明日な」
「はい。……ありがとう、ございます。オオカミ先輩」
「おう、気をつけて帰れよ」
そして俺は帰路に着いた。




