9.ズルッ-これは……ダメかもしれない-
全46話予定です
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トリシャは例の敵部隊と遭遇していた。幸いだったのは遮蔽が取れる地形だ、というところだろう。この辺りは岩場になっていてレイドライバー一体を潜ませるくらいの大きさがあるのだ。
だが、機械化部隊が今まさに通って来たところというのは平地、つまりは道路である。道路と言っても舗装はされていないが、それでも長年踏み固められたその大地というのは、戦車の重量が乗ったくらいではびくともしない固さを誇っている。
――とは言ったものの、どうしようかしら。
トリシャは今更ながらに攻めあぐねていた。正面から行ったのではこちらの弾丸は弾かれ、敵の砲弾の集中砲火を浴びておしまいである。では側面からか? と言えば回り込むにしても距離がある。
「とは言ってもそれくらいしか思いつかないんだけども」
と独り言ちてみるものの、
「あーしはその考えで良いと思うぜ」
と考えていた事をそのまま肯定されてしまう。
――でもこのまま行けば私の機体は発見されてしまう。どの道分が無い勝負なのは分かってる。分かってるんだけども。
トリシャはそこで考えを止めた。彼女は既に上気しているのだ。それ以上の思考は、ネガティブ思考は自分にとって燃料でしかない。そして燃料を垂らされた自分はおそらく歯止めが効かなくなるだろう。
だから、
「とりあえず生き抜く事を考えようぜ」
とゼロツーに言われた時は少し安どしたのだ。分が悪いこの戦いでも、何とか生き残ろうと画策してくれる相手がいる、それがトリシャの上気を平静に保ってくれる唯一にして無二の存在なのだから。
「確認しとくわ。こちらの武装は、リアクティブアーマーにマシンガン、それからサブウェポンにグレネード装備、あとはスモークグレネードが四つにスタングレネードが二つ。バッテリーは?」
とトリシャが聞くと、
「戦闘状態で軽く一時間以上は持つだけは残ってる。つっても無茶だけはしないでくれよ。このまま突撃したら間違いなく恰好の的だからな」
とゼロツーが釘を刺す。その間にもトリシャはゆっくりと機体を岩場に沿わせて敵の側面に回り込もうとしている。
幸いだったのは、この遮蔽が取れるポイントにトリシャたちが一歩先に到着していた、というところだろう。まだ敵はこちらに気がついていないようでこのまま行けば背後まで取れそうな勢いである。
――背後、ね。そこまで行ってくれれば良いのだけれども。
こちらはホログラムをオンにしている。例の、帝国の技術を参考に改良した熱線等を遮断するシートも本体には付けられている。じっとしていればあるいは。
そうしている間にも敵機械化部隊はゆっくりと彼女たちの傍を通り過ぎようとしている。
「そうそう、そのままそのまま」
マシンガンに取り付けられているグレネード共に照準を敵戦車に向けて、さあ、といったところで、
ズルッ。
二足歩行の弱点でもある、踏み出した際の片脚にかかる重量が大きいというのが災いして地面を少しだけずってしまったのだ。
それが合図になった。
トリシャは、こちらに近い敵を優先的に狙いを付けてマシンガン、グレネードを発砲していく。もちろんゼロツーの射撃管制が入っているから一番無駄玉を撃たずに最適な照準をしていく。
――これは……ダメかもしれない。
そんな考えに、トリシャは思考を巡らせていた。
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