5.今、こちらが攻勢に出れば相手は怯むはず-ここでご主人様のお役に立てれば?-
全46話予定です
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トリシャはゼロフォーからの通信に少々戸惑っていた。それはそうだ、斥候として自分が北上すると言ってしばらくしたのち[戻って来て]と言われたのだから。
「今、こちらが攻勢に出れば相手は怯むはず」
とは言ってみるものの、当のゼロフォーが[マスターの命令です]と言われれば尻尾を巻いて戻るしかないのは目に見えている。だが、それは圧力で言う事を聞かせるのと同義だ。そんな思考は、少なくとも今のゼロフォーにはない。
「どうも徹甲弾、榴弾共に効果の薄い、いえ、効果のほとんど出ない敵のようです。現在、マスターからの命令待ちですが、撤退の可能性もある、と言われました」
それが真実なのだろう。
そこでトリシャは迷っていた。
――ここでご主人様のお役に立てれば? あるいは……。
「おいおいトリシャよ、流石にそれはマズいんじゃあないか」
ゼロツーがそう語り掛けてくる。トリシャは自ら進んで生体コンピューターを脳に取り付けた。それは自分に絶対的な枷を嵌めるのと同義だし、ゼロツーという[他人]に思考を覗かれるという、昔のトリシャにしてみれば悶絶して、いても立ってもいられなくなるようなこの状況を、自ら進んで望んだのだ。
だから、その思考を監視していたゼロツーから[おいおい]と言われているのである。
「なんであんたが……そうだったわね、貴方にはすべて筒抜けなのね。そう、私はここで南下してきているという例の戦車部隊を迎え撃ちたいと考えているわ。それが少しでも実戦データとして取れれば、あるいは今後の参考になると思うの」
とトリシャは言うのだが、
「その実戦データと引き換えにレイドライバー一体の喪失というのは、果たして釣り合ってるのか?」
とゼロツーに諭されてしまう。
――それはそうなんだけど。ここで点数を稼いでおけば。
と思考すれば、
「点数がどうしたって?」
とゼロツーに言われる始末。そう、トリシャの思考はすべてゼロツーがチェックしているのだ。そして、
「あんた、それ以上の思考をするんならアラートとしてマスターに報告しなけりゃならない。それでもまだゼロフォーの命令が聞けないって?」
と言われてしまう。
「分かってる。ここで撤退、合流したほうがいいのは誰にだってわかる。でもね、合流したところでこちらは機械化部隊とレイドライバーが三体、向こうはレイドライバーが二体に従来型の機械化部隊に加えて新型まで混ざってる。駐屯地で撃ち合いになったら? それこそ全滅の憂き目だって会いかねないの」
トリシャは、冷静にものを言っているのだが、そこに下心がまったくないか? と言われれば少し違うだろう。それは先ほどからゼロツーに指摘されているところである。
それでも、トリシャが言うのもまた事実である。
だからかも知れない。
「もしもこれが撤退、なんて話になってもあーしらは敵の足止めが必要になる。その意味も分かってるのか?」
そうゼロツーに言われたその言葉に少し上気したのも事実である。
――それは、それで、気持ちが良いものかも知れない。
トリシャは何処か自分が壊れているのを感じ取っていた。こんな状況で上気するなどあり得ない話なのだから。
「その時は、貴方も一緒にいてくれる?」
その証拠に、今まで聞いた事のないようなとても甘えた声でトリシャはゼロツーに語りかけた。
「……わーったよ、ったく気持ち悪いな、その声。いいよ、地獄まで一緒について行ってやるよ」
その言葉と共にゼロツーは北上を開始したのである。
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