39.また守ってあげられなかった-あぁ、きみを処分なんかしないよ-
全46話予定です
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――また守ってあげられなかった。
ゼロファイブは喪失感に包まれていた。その喪失感は以前に味わったそれである。そう、大切な弟を失ったとき、そこまで遡るのである。彼女にとってそれはとても、とても大きな喪失なのである。以前に手にかけた人間とは重みが違う、それほど大切な[相手]なのだ。
ゼロファイブがそんな風に思ったのは、もしかしたらあの孤児院の[お陰]かも知れない。孤児院で、いや孤児院の別の棟でまさしく[調律]されている時に繰り返し脳内に響いたのは[マスターの命令は絶対だ。そのうえで出来るだけ仲間を守れ]というものだった。普通の孤児であれば[あぁ、仲間は大切だ]と思うだろう。だが、心に傷のある娘、それがゼロファイブとなれば仲間イコール身内となるのである。その喪失感というのは推して余るものがあるのだ。
そして今回、その身内であるエレン・エイントホーフェン准尉は残念ながら死亡が確認された、とある。マスターが言うのだからそれは確認済みの事項なのだ。それくらいマスターの言葉一つ一つは絶対であり、マスターという存在自体が何においてもまず最優先される事項なのだから。
そんなゼロファイブに、
[パイロットはちょっと保留中だけど、新しい娘が配属になる、かも知れないしならないかもしれない]
と言われた時には[あぁ、無能な私はここで処分されるのだろうな]と思った。それは仕方のない事であろう。それくらいゼロファイブにとっては[身内]の喪失というのは耐え難いものなのだから。
しかしそんなゼロファイブを見越してか、それとも思考ログを見たのか、
[あぁ、きみを処分なんかしないよ。きみは大切な部隊の一員なんだから。もしもきみが何か思うところがあるのなら聞こうか]
と言われては[それでは]と、身の上話を始めざるを得ないだろう。
カズはそれを黙って聞いていた。マスターであるカズにしてみれば身の上などはとうに調査済みなのは間違いないのだろうが、その当の本人が[聞こうか]と言っているのだ。みっちりと[調律]を受けている二期生のゼロファイブにとってみればそれは絶対の命令に等しいのだから。
[なるほどね、弟くんにオーバーレイしてしまうのか。だけどそれは悪い事じゃあない。仲間を守るのはとても大切なことだ。今回は失敗してしまったけど、次回はそれを頑張ればいいと思うよ]
という言葉のあとに、
[パイロットを乗せないというのは、ちょっとこちらとしても考えがあるんだ。もしかしたらきみは単独運用される可能性も捨てていない]
――私は、まだお役に立てるのですか?
心に思った言葉がそのままチャットへと流れる。それはチャットをしなくてもカズが繋いでいるタブレットを操作すればどんな情報だって筒抜けなのだ。サブプロセッサーである彼女が今何を考えていて、どんな心理状態であるかすべてを見通せる力があるのだから。
[きみは悪くない、とは言わないよ。オレがそう言ったところで無意味だろうし。ただ、もしもエレンを守れなかったという自責の念があるのなら、オレの立てたプランに乗ってくれるとありがたいな]
カズはそう問うてきた。
――そんなの、私には一つしか道はないし、選ぶのも一つだ。
[私は何をすればよろしいのでしょうか、マスター]
ゼロファイブは確かにそう聞いたのだ。
[それはね、きみは現段階では単独運用される可能性が高いんだよ。レイドライバーの仕組みは理解してると思うけど、各部に配置している[子供]たちも、パイロットすらも載せない、純粋にきみだけが操る機体を作るつもりでいるんだ]
と聞かされても、動揺はなかった。あるのは、
――私にはまだ仲間を守れる力を与えてくださるのですね。
という希望だけだ。
そんなゼロファイブにカズは、
[ちょっと機体を乗り換えるかもだけどね]
と伝えてもゼロファイブの意思は揺らがなかった。
――今度こそ、私は守って見せる。死んだらまた、逢えるかな……。もう名前も思い出せない、私の大切な弟。生きていると、いいな。
そんな事を[考えて]いたのである。
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