38.回想-ゼロファイブが行ったことについて-
全46話予定です
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当たり前だが、一杯いっぱいな孤児院にふらりと現れて[どうか入れてください]と言ってもそれは当然ながら無理な話である。それくらいの知識はゼロファイブだって分かるし持っている。じゃあどうすればいいか。
そこでふとゼロファイブの脳裏をかすめたのが[空きがなければ空きを作ればいい]という発想である。
――私だけが何でこんな目に遭わなければならないの。だったら。
孤児院は日中は定期的に門を開放している。もちろん、それは孤児たちの運動も兼ねているのだが、そこでゼロファイブは開放時間にこっそりと忍び込んだのである。
九歳にして初めて人を手にかけた。もちろん見知らぬ相手だった。背格好が似ている、ただそれだけの為に人を一人殺めたのである。自分でも信じられないくらい手際よく、少女が一人になったところを見計らって手にかける。それは叫び声一つ上げさせる間も与えなかったのだから素人にしては上出来なのだろう。その手にはガラクタ置き場で拾った鋭利な鉄くずがあった。
その日、門が閉まる前にゼロファイブは塀の中の住人になっていたのである。
ここで一つ疑問に思うのは[何故ゼロファイブと件の少女が入れ替わったのに誰も何も言わないのか]という点と[何故ゼロファイブはそうも簡単にすり替われると思い立ったのか]であろう。
だが、この二つは元をただせば一つの点にと突き当たる。それは[誰もお互いのことを知ろうとしていないのか]という点だ。これには彼や彼女たちが置かれている環境というものが関係してくるのである。
それは一言でいえば[誰も見知らぬ隣人の事を知ろうとしない]という話に行き着くのである。これは孤児だけでなく難民にも言える話なのだが、他人はあくまで他人、友達でも何でもないのだ。そして、自分が生きていくためには友達など作っている暇はないというのが実情なのである。そんなものにすがる暇があれば、その子の配給皿をかすめ取る、それくらいしないと生きていけないのだ。
これはどこの孤児や孤児院にも多かれ少なかれ言える話で、だからこそゼロファイブもこんな明らかに不自然なやり方を堂々と実行したのだから。
基本的に孤児同士でつるむというのは、まず栄養が潤沢に行き渡ってからなのだし、それを監督する立場である孤児院の職員にしたって、誰が誰と入れ替わっていようが関係ないのである。だからこそレイリアやトリシャたちが、もっと言えばその後のゼロファイブが入っていた孤児院くらい栄養が行き渡ればやっと友達を、という考えに至るのである。しかし、そこにたどり着く前、つまりは現在の大多数の孤児院の状況でいえば、孤児たちはまず自分が生き残る事を最優先に考え、他人は利用こそすれど構うものではない、そんな風潮があった、いや現在も進行中なのである。
現在の三国になって、確かに内戦は減少傾向にある。だが、まったく無いわけではない。更に言えば三国間になるまでのの戦闘、それも内戦というオマケ付きの戦乱は難民や孤児たちを大量に生み出した。そして三国ともそれら難民や孤児という問題を、この二〇五〇年になってもまだ完全に解決するには至っていないのである。
そんなゼロファイブは半ば[必要に迫られて]人を手にかけたのだが、不思議とその罪悪感に襲われ続けるということはなかった。それは、彼女が他人の死をそれほどドライに捉えていたのか。いやどちらかと言えば先の話ではないが、孤児である彼女には当時、友達を作るなんて発想は、他人を気遣うという発想は生まれなかったのだ。それは当時のゼロファイブにとっては至極[当たり前]の話であり[あぁ、悪いことをしたな]と、思いを巡らせてもせいぜいがそこまでなのである。
ゼロファイブが行ったことについていえば、良いことか悪いことかはあくまで当事者が決めるべき問題だろう。そこに裕福な人間が出て行って[人を殺しておいて何を]と言っても、当の本人たちはそれくらい今を生きるのに必死なのだ。
そんなゼロファイブが上手く孤児院に入れてから数か月もたたないうちに、例のテストが実施されることになった。
ゼロファイブはそこで上位の成績を誇り、もっと[待遇のいい]孤児院へと移動になる。そこで五年半を過ごし、別の棟にある部屋でほぼ監禁状態で二年半を過ごして今の姿になったのである。
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――私はこれで良いんだ、これからは部隊の人たちを守って生きていこう。
そう思って出た矢先の、エレン准尉の死である。それはゼロファイブでなくとも[また守れなかった]となっても仕方のないことであろう。
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