37.回想-ゼロファイブの過去-
全46話予定です
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ゼロファイブに両親はいない。それは内戦という戦争で死亡したからである。気が付いたら孤児になっていた。その当時まだ九歳の幼子には、弟という[連れ]がいる幼子には、世間は少々過酷だった。
この時代の孤児と言えば、孤児院に入れれば御の字なのである。今まで話に散々出て来ている孤児院だが、あれだけ劣悪な環境にあった、いや、少しはマシになったが現在進行形で劣悪なのは変わらないが、そんな孤児院でも入れればそれでもまずは御の字なのだ。
その次が身売りである。これは男子、女子問わずに、需要があれば供給もある、という話になる。そんな風にして身売りに出されて行った子供というのは、自由は完全に奪われるものの運が良ければいい暮らしができる。そういう意味では次点か、もしかしたらそれ以上ともいえるかも知れない。
しかしながら、実際としてはそのどちらでもない子供たちというのが殆どなのだ。その子らと言えば、どこにも行き場が無いため当然ながらスラムに住む事になる。ゼロファイブも初めはそうして暮らしていた。
見よう見まねでくず鉄拾いに、残飯漁り。時には悶着を付けられて顔じゅう殴られて腫らしたり。たかだか九歳の娘だろうと周りは容赦なかった。それはただ単に残酷だ、一言では片づけられない話である。何故なら、容赦などしていれば次に死にゆくのは自分かも知れない、そういう環境では誰が他人に優しくなど出来ようか。それでもゼロファイブは、弟だけは見捨てなかった。
簡単に見捨てられる訳がない。自分の唯一の肉親、言ってみれば[自分が生きてきた証]であるその唯一の存在を手放せるわけがない。
もちろんこの姉にしてこの弟ありである。まだまだ小さいながらも姉に迷惑をかけないように、彼なりに必死で生活していた。姉と一緒に鉄くず屋に行っては難癖をつけられながら一緒に殴られたり。
それでも週に二度ほど、近くの教会が炊き出しを行ってくれていたのは幸いだった。
教会、それは不思議な存在だ。もちろんそこは神を崇める場所であり、その信徒と言えるのが教会のシスターたちであるのだが、炊き出しの場所での争いは不思議と起きないのである。あれほど他人という存在に対して冷たい他者が、教会の炊き出しの時には大人しく配給の列に並びそれに従う。
それは霊的なものを信ずる人間にとって見れは[神のご加護]なのだろうが、実際には少し違う。実のところと言えば、大多数の心の中にあるのは[ここで問題行動が露呈して炊き出し自体が無くなっては身もふたもない]という自浄作用によるものなのだ。
だから、こんな時はゼロファイブは弟と一緒にお祈りしてから固いパンと、決して美味しくはないが温かいスープを貰って、敷地の片隅で並んで食べるのである。
この時間がゼロファイブには一番の幸せな時だった。弟と一緒に食べたパンの味は今でもかすかに記憶にある。それほどほんのひと時のこの時間が何よりも幸せだった。この時間があるからこそ毎日を耐えしのぐことが出来た。幼いからという理由だけで絡まれ、殴られて、折角拾った鉄くずを横取りされても、それでも生きているという実感が持てたのである。
永遠に続けばいいと思ったその時間は、気が付いたら唐突に終わっていた。
ある朝、目覚めるとそこに弟の姿はなかったのである。ゼロファイブは少ないながらも知り合いを訪ねて回った。なぜ忽然と目の前から消えたのか。人さらいなのか、それとも別の何かが関係しているのか。
ひとつ言えるのは前日、珍しく二人で喧嘩をしてしまった、という事実だ。それはほんのささいなきっかけだった。今ではすっかり忘れてしまったが、確か配給の並び方だったとかすかに記憶している。その時は二人とも気が立っていたのだろう。それでなくとも慢性的な空腹状態にあるのだ、姉のゼロファイブは百歩譲って我慢が効くとしても弟の方はまだ五歳である。我慢とか、そんな事を求められる年齢ではとてもではない。
虚無な時間が過ぎて行った。ただただ虚無だった。折角ここまで二人で生活して来たというのに、自分はこれから一体どうすればいいのか。自分は一体何をしてしまったのか。
探した。探しに探し回って、泣き疲れて。
一時は自死も考えた。それが一番楽なのだろうとも。そうすればもしかしたら両親の待つところへと行けるかも知れない。だが、ほんの少しだけ持っていた自意識がそれを許さなかったのだ。[簡単に楽になれると思うな、自分だけでも生きるんだ]そう囁く[誰か]が頭の中にいたのである。
弟という[連れ]がいなくなって、身動きがとりやすくなったゼロファイブは今まで以上に行動範囲が広がったのである。
そして、その行動範囲の中に孤児院があった。
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