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ユタ 〜継母にも格の違いを見せましょう〜

僕はユタ。今は孤児だ。両親は商会を経営していた。


毎日物乞いをしたりしてなんとか過ごしている。


ある日、僕は路地を歩いていた。そしたら、小綺麗な服を着た人が歩いていた。いいなぁ、って思って見ていたら、突然声をかけられたんだ。


「お前!」


「え?え?一体…」


まさかの僕に声をかけてくるなんて思っていなかったから驚いた。


「このお金で働かない?」


そのお嬢様風の少女は、僕に金貨を1枚渡してきた。


金貨を1枚なんて…

今まで孤児として過ごしていた僕にとっては、いや、誰にとっても大きいだろう。


「え!?どんな仕事ですか?」


「私の役に立つ仕事。」


なんだよそれ、って思った。

お嬢様だしメイドみたいなものが欲しいんだろう、そう思った。


僕は別に構わなかった。


「時間は?」


「そうね…とりあえず3日くらい?」


3日働くだけで金貨1枚!

これは基準をはるかに超える相場だ。


そして、


ー これを成功すれば、次からも雇ってもらえるかもしれない。


そういう思いがあった。


「働きます!」


「汚いね。早く洗ってきてくれない?水はあげるから。」


「え?どこに?」


水なんて貴重すぎて雨の日以外身体を洗えない。


「ウォーターシャワー! ほらね。」


「凄いです!」


凄いと思った。


まず、魔術を使える人が限られているからだ。

しかも、量も多い。


これで感動しないわけがなかった。


「ほら早く!」


せっかく水があるからと、丁寧に体を洗い流し、髪も軽く濡らす。石鹸はないけど仕方がない。


「遅い!」


「すみません、丁寧に汚れをとっていたらこんな時間に…」


「これを着なさい」


少女は、いつの間にか服を持っていた。きっと…誰かに頼んだのだろうと今ならば思える。


「ありがとうございます!」


「仕事内容はあなたの役に立つ…でしたよね?内容は?」


「そうね…今、住む場所に困っているの。探してきてくれる?」


「はい!いい場所を知っています!ついてきてください!」


やった!これなら役に立てる!


「ここです。」


「狭いし汚い!もっと綺麗な部屋はないの!?」


ひぃぃ…怒られた。


「すみません。じゃあこっちに!」


「ここでいい。入っていいの?」


「少し待っていてください。」


「はやくしてよね。」


「あの…」


「何?」


「お金を…この家は借りるのにお金がかかるんですよ。」


「はぁ…これくらいでいい?」


金貨を10枚くれた。


金銭感覚がないお嬢様なのかな、と思った。


「ではとりあえず3日分借りてきます!」


簡単に借りることが出来た。


「借りれました!」


「遅い!」


「すみません!」


「まあいいや。入っていいの?」


「はい!あと、これが余りのお金です。」


「余ったの?じゃあもらっておくわ。」


「あの…」


このお嬢様は、お金はたくさんあるようだ。だが、それだけではいずれ尽きてしまう。


「何?」


「お金は…稼がなくていいんですか?」


「お金?稼いだほうがいいの?」


「もちろん!」


何を言っているのだろう?働かなくてどうすると言うんだ?


「ではやるわ。あなたに任せていいの?」


つまりこのお嬢様に雇われて僕が働くということか。十分だろう。


何にしようか…

僕だったら…安価な水が欲しい。


「ええと…水を魔術でくれませんか?」


「水?それだけでいいの?」


「はい!十分です!」



次の日から、早速働くことにした。


「水はいりませんかぁ!」


「水はいりませんかぁ!」


そう声を出しながら、通りを歩く。


「とてもきれいな水です。安いですよー!」


親の商売を少しは見てきた。だからある程度は分かる。


昼食の時間には、いったん戻って食事を作った。


少しはうまくなったのではないか。だけど…


「まずい!」


と、声を荒げられてしまった。



そして、夕方、帰った。大量の銅貨をもって。


「これは何なの!?」


「銅貨…ですけど。」


「これが銅?銅はこんなにみすぼらしくないわ!」


何を言っているんだ?こんなに光を反射している。そしてこんなに茶色っぽいのは銅以外にありえない。


「いえ、これが銅です。」


「本当にこれが銅貨?」


「はい、そしてこっちが銀貨、さっきあなたが持っていたのは金貨です。」


分かっていることのつもりでいたが、驚いた顔をされた。

知らなかったのか?


「そう、じゃあいいわ。」


「では、夕食を作るので少し待っていてください。」


「できるだけ美味しくしてよ。」


「気をつけます!」


頑張って作った。だけど、今までずっと美味しくは作れなかった。


大丈夫かな…?


心配しながら出す。


「ええと…出来ましたが…」


「いただくわ。」


「まずい!」


やっぱり言われてしまった。


「すみませんっ!」


「だけど、さっきよりは美味しくなっているわ。もっとこれから頑張りなさい。」


「はい!」


嬉しかった。


このお嬢様。意外と悪い人ではなさそうだ。そんな気がした。




「少年!」


呼ばれた。


「何ですか?あと僕はユタです。」


「これからどうするのがいいか、教えてくれない?」


「そのためには…あなたのことを知る必要がありますね。」


僕達はまだお互いの名前も知らない。そんな関係だ。


今回僕は少し踏み込んでみることにした。


「分かったわ。」


あっさりと教えてくれた。


彼女…マリーは親に捨てられたそう。魔術は得意で、宮廷魔術師である両親からも目をかけられていた、などなど。


だったら…


「名前を変えてみたらどうでしょう?」


「え?」


「だって、マリーでいる限りあなたはその両親に囚われていることになる。だったら名前を変えて、新しい自分になってみるといいんじゃないですか?」


「面白そうね、やってみましょう!では…私の名前はエイナ。平民。そして姉と兄はいるけど両親は知らない。そんな感じでどう?」


「いいんじゃないでしょうか?」


「まって、ユタ。私は平民よ。かしこまられる必要は…」


「けれど雇い主です。」


「では命令します。あなたは私に敬語を使わないで。」


「はい…いや、うん。」


無茶苦茶なお嬢様だ。



あれからも働いた。水を売る他にもものを売ったりもするし、エイナもついてきてくれたときには、火を付ける…という商売もやったりしている。


手頃な価格で売っているため、受け入れてもらえたし、時々はボランティア孤児たちに水をあげたりしている。



僕は、情報を集めて、できるだけエイナの役に立とうとしている。



あと、最近は給料を少し減らしてもらっている。


だって住み込みで食事はエイナ持ち。僕は働くだけ。

それだけの仕事で3日で金貨を1枚もらうのは申し訳ない。


やっと、1ヶ月1金貨に最近はなってきた。それでもまだ十分多い方だと思う。


しかも、昼食さえ作っていれば休暇を取ることもできる。


その時はよく孤児を見に行っている。


ただ、喋る相手をしているだけしか出来ないけど。




それから1年が経った。


僕は、ある情報を手に入れた。


ー 魔術師団入団試験がある。


そんな情報だった。


早速エイナに伝えた。エイナならきっと受かると思うから。


エイナに手続きは任されたため、お金を持って出ていく。無事、手続きは終わった。


「ねえエイナ、魔術師団には両親がいるんでしょ?だったら髪と目も変えたほうがいいんじゃない?」


「そうね。良さそう。」


エイナは素直だ。


僕の助言もちゃんと聞いてくれる。


こんなに素直な子を捨てた両親が信じられない。



通知が着た。


「エイナ、合格だってよ!」


「本当?」


「あぁ。」


「では、私は魔術師となるのね。」


「そうだよ!名誉なことだよ!1週間後に入団式があるらしい。」


「そう、それに参加すればいいのね。」


なんでかすごいことのように思っていないんだよなぁ…。

まあエイナらしい。


「そうだよ。国王陛下も現れるんだって。」


「分かった。準備物は?」


「特に無い」


「楽しみね。」


「うん。見に行けないのが残念だ。」


あぁ…エイナの晴れ姿、ぜひ見てみたかった。


「ふふ、ありがとう。」



噂話で、今年は話題になっているという情報をつかんだ。


昔…8年前、サナという少女が11歳で合格したそうだ。

そして今回が、エイナの11歳での合格。


期待できると思うのは無理もない。


だって、そのサナという少女は1ヶ月の演習期間後、宮廷魔術師団に入るという大出世を果たしたからだ。



「たくさん噂されているね。」


「そうね。」


「最近は売り上げがさらに増えているよ。エイナのお陰だ。」


「そのことだけど、私が魔術師団に入った後どうするの?」


「続けなさい。この1年で、みんなの生活にも溶け込んでいるのに、なくすのは駄目よ。」


「分かった。」


さすがエイナだ。みんなのことも考えている。




「入団式お疲れ様。」


「ありがとう。」


「明日から演習期間か。頑張るんだよ。」


「一生懸命しろ、って言うんでしょ。」


「分かってるならいいや。」





そして、しばらくがたった。エイナは第1魔術師団として日々を過ごしている。


「ねえユタ。」


「何?」


「私、今日お姉ちゃんとお兄ちゃんに会えたの。」


「え?誰だったの?」


「サナさんとデアメンさん。デアメンさんが兄なのは知っていたから、サナさんがもしかしたらサナさんも姉なのかな、とは思っていたんだけど、本当にそうだった。」


「喋ったのか?」


どういうことだ?


今のエイナは変装していて名前も変えている。なのに妹だと認められたということか?

一体何が…


「そう、あっちから話しかけてもらったんだ。変装しているね、って言われちゃった。」


「え?」


変装がバレたのか…


「それで?」


「私も変装しているんだよ、ってお姉ちゃんが」


「サナさんも変装していたんだ。」


「うん。それで、お姉ちゃんが変装を解いてくれたんだけど、記憶の中のお姉ちゃんと一緒だった。」


「良かったじゃん。」


「ユタのお陰だよ。」


「え?」


「ユタが私に魔術師を勧めてくれたから会えたんだ。」


あぁ…エイナは優しい。


こんな孤児を気にする必要なんてないのに。気にしてくれる。


まあそんなことをいってもエイナははぐらかすんだろうな。


いつの間にかエイナのことに詳しくなっていた。


もう、エイナは大切な存在だ。それは間違いない。


「あ、そうだ。話の流れでユタの話に行ったから今度この家に来るかもしれない。」


「え!?」


「今度から、もっと頑張る。二人に追いつけるように。」


「うん、それがいいよ。」


エイナらしい。


「あ、そうだ。両親にあった。」


「それは…大丈夫だった?」


「なんか絡んできたんだけど、なんか後悔しているみたいだった。」


「自業自得だね。」


「その通り。お姉ちゃんが気持ちよく言い返してくれた。スッキリしたなぁ。」


やはりエイナの親は許せないなぁ。


あんなに優しいエイナがこんなにも怒っている。


「それでいいよ。」





2年後、エイナは宮廷魔術師団所属になった。


兄弟姉妹で三連続で宮廷魔術師になった例は初めてだ。


誇らしい。


「ユタ!」


「おめでとう!」


「ありがとう。お姉ちゃんにもお兄ちゃんにも会えたんだよ!」


「良かったな。」


「で、3日後ここに連れてくることになったから。」


「え?」


「いいでしょ?」


「いや…いいけど。」




そして、その日はやってきた。


「ただいまー、ユタ」


「あ、おかえり、エイナ。この人たちが兄と姉?」


「そう。」


「はじめまして。ユタです。」


「こちらこそはじめまして、姉のサナです。」


「はじめまして、兄のデアメンだ。」


「本物?」


信じられない。次の時期宮廷魔術師団団長と副団長になると思われている2人が目の前にいるなんて。


「そうだよ。」


「すごい!感激しました!」


「良さそうな子ね。」


「あぁ、信頼はできそうだ。」


信頼されてもらって何より。


「あのさ、始めのころエイナがあたり散らかしていたという噂があったのだけど、あれって本当なの?」


そんな噂もあったなぁ。


「違います。まぁあれは…エイナの前では話せませんね。また今度お会いしましょう。」


「そう。では今回は諦めましょう、また今度ね。」


「仕方ないか…」




「遊びに来たよー!」


「久しぶりだな、ユタくん。」


「お久しぶりです。本当に来たんですね。」


「敬語じゃなくていいんだよ?」


「だけどこんな大物を前にして…」


「エイナも十分大物よ。」


「それもそうだ。じゃあ普通に。」


「それでいいわ。さっそくあの噂の真偽の程を教えてくれない?」


「分かりました。」


そして、あの噂は違うことを教えた。


実際はエイナは当たり散らかしていないこと、ただ文句を言っていたり、少し命令口調だっただけであること。


そして、エイナはそのことを傲慢になったと思っていること。


「そう、そんな事実があったのね。感謝するわ、ユタ。あなたがエイナにはじめに雇われて良かった。」


「俺からも礼を言う。ありがとう。ところで…君はエイナを好きなのか?」


「かもしれない…という感じです…。」


「そっか、気づかないようにしていただろうに悪かったな。」


優しいな。そう、気づかないようにしていた。だけど家族の前では嘘を言うことは出来ないから、伝えた。



道を歩いていると、声を掛けられた。


「あなた…ユタ?」


昔の記憶が蘇ってきた。僕は…この人に、捨てられたんだ。


「だれ?」


「僕の…母だ。」


「そうなのね。」


「どこに行っていたの!?探していたのよ!」


嘘だ。今までお前らを見かけたことはなかった。しかもあんなに堂々と物を売っていた僕を今まで1回も見つけられなかったのはおかしい。


「エイナ、僕は家出したんだ。」


「そうなのね。では私はあなたの味方に付くわ。」


「いいの?」


何も聞かずに味方してくれるとは思っていなかった。


「あなたは誰?」


「ユタの今の雇い主…いや、友達です。」


「ユタを私に返しなさい。」


「嫌です。ユタは今はもうあなたたちの家族ではない。」


「いいえ、家族よ。」


なぜ!?

あなたたちにとって家族というものはこき使って使い捨てるだけのものだろう!?

僕はあなた達の家族ではない!


「ユタは嫌がっていますので。」


「だから何?家族のほうがつながりは強いわ。」


「だったら、ユタ、私たちも家族になりましょう?私、ユタだったら別にいいわ。」


「エイナ、そんな簡単に決めては…」


「ユタは嫌なの?」


「嫌じゃない! 嫌じゃないけど…」


「では決定ね。というわけで、私たちは家族なのでユタはこちらがいいと言っていいるので、そのままで。ちなみに私は宮廷魔術師のエイナです。先日なった。聞いたことがありませんか?」


「なっ…」


ざまあみろ。


「エイナ…ありがとう。気持ちよかったよ。あの女のあんな顔が見られるなんて。」


「それは良かったわ。私も両親のあんな顔、見たかったなぁ。」


そっか、エイナは自分の親に当てはめてくれたんだ。


「それで、エイナ、さっきのことだけど…」


「あぁ…あれね。私はまだ13歳。まだ早いわ。その時まで待ちましょう。」


「嬉しい!」


「それは良かったわ。私も喜んでもらえて嬉しい。」




両親には復讐でき、想い人と結ばれそうで、今僕は最高に幸せだ。

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