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サナ 〜私、才能がないとは言っていません〜

「魔法を私も使えるの!」


「ではここで使ってみなさい。」


「ここじゃ何故か使えないの!」


「だったら貴方に用はないわ。」


私は宮廷魔術師の両親から産まれた。宮廷魔術師はエリート中のエリートで、その二人の子供である私たちも期待されているのだという。


ー そして、実際私は両親より遥かに強い魔術を使える。


もともと両親は、自分たちよりも強い子供を産むために結婚したそうだ。その期待のもとで産まれたのが兄、デアメンだ。しかし、彼が使えたのは両親と同じくらいの魔術。だけどもちろん両親は満足しなかった。


そして次に産まれたのが私、カエミナだ。


私は期待通り両親以上の魔術を使えた。だけど、それは両親の前では使えなかった。だから、私がいくら魔術を使えるのだと訴えても、その場で試してみると出ないために、信じてもらえなかった。


自分の実力が出ないことに対して泣いてしまったこともあった。始めの頃は毎回泣いていた。

それをみた両親は、「私たちのために…」などとはじめは感動してくれていたようだが次第にため息をつかれるようになった。


それでも訴えた。

今日みたいに。だけど信じてもらえない。


そして、いつしか私は嘘つきと呼ばれるようになった。


それからは今まで何回も考えた疑問をまた再び考えるた。



ー 何で使えないの?



何度問いかけただろう?


しかし未だに理由は分からないのであった。



どうして…どうして…想いは募るばかりだ。




次の日、私は両親のもとへ向かっていた。



ー 今日こそ使ってみよう。



「ウォータードロップ」


小さく呟く。


目の前には小さな一滴の水が表れていた。


かなり小さいやつだ。

これくらいを出すのには、かなりの技術が必要だ。



ー だからこれを見たらきっと両親は私の才能に気付いてくれる。



そう考え、そして今はまだ魔術を使えることに安心する。

このまま魔術を使えるままでいたい。


どうか両親の前でも使えるままにして欲しい。



……そうだ!



これを維持してそのまま両親のもとへ向かおう。


いい考えのような気がした。だけど、その水滴は両親の姿を見た途端消えてしまった。


私は絶望し、そのまま、部屋に戻った。




そして4年がたった。


私には新しい妹が出来た。

私は、とても可愛がった。

名前はマリー。

とても可愛い女の子だった。


兄は、もう魔術師として独立に向かっているため、あまり関わってこない。


両親も、私に少しは希望を抱いているみたいだった。



もしかしたら私…カエミナが私たちの目当ての魔力を持った子供かもしれない、と。



だけど、昨日妹が優秀な魔術を使った。


ー 親は、一気に妹に傾いた。


この家は、宮廷魔術師同士が結婚したということである程度の注目は集めているが、所詮は貴族ではなく平民だ。私は引き取りたいという人物が現れた、というのを名目に、捨てられた。

幾ばくかのお金をもらって。


体のいい厄介払い、という言葉を聞くことがあるが、これはまさにそれだった。


両親の最後の言葉は、



「もうお前に用はない、2度とこの家の敷居をまたぐな。」


だった。



その瞬間、私が今まで両親に感じていたものがなくなった。


それは承認欲求だったのか、それとも子供らしく親の愛情を求めていたのか。

もう分からなかった。


そして、当たり前だがこの感情がなくなった今、この家に再び戻るつもりも全くなかった。



一つ心残りはマリーだけど…


きっと彼女なら親の愛情を受け、素晴らしい人生を歩むだろう。


だからきっと私が何かを思う必要はない。


だったら…もう、私の存在は消してしまおう。



ー そうだ!名前を変えてみようか。



そして、名前を変えた。カエミナからサナに。


だけどそこで気付いてしまった。


両親から名前を全然呼ばれたことがなかったことに。

そう考え、また悲しくなった。


10年も私はあの人たちにとらわれていたんだ…。そう思うと、悔しくもあった。



そして…仕事に就くなら何がいいだろうか?


魔術師…宮廷魔術師かな?


だったら両親にバレないように変装しよう。魔術で普段から目と髪の色を変えるんだ。


調べると、まず宮廷魔術師になるためにはその前身として、宮廷に所属する魔術師にならなければならないそうだ。

これをただ単に魔術師と略そう。面倒くさいし。


そして、その魔術師になるためには、年一回の試験を受けなければならない。


今年はもう終わった。だったら来年だ。


しかもお金が必要らしい。だったら仕事を見つけて働こう。



そこからは、とても上手くいった。仕事がすぐ見つかった。


私の魔術の才能は類稀なるものだ。


教える場合も全てを見せる訳では無いが…すぐに教師を頼まれた。

もちろん実力だけでなく、同年代だということも影響しているのはわかっている。


それでも、そういうような仕事は、私が暮らしていくのに、そして魔術師になるための試験を受けるために必要なお金を貯めるのに十分だった。




1年が経った。


試験は、ただ魔術を使い、その実力を見て判断されるらしい。


そして、私は大きな力ととても小さいものを見せて、制御力も示しておいた。他の受験者を見れなかったのは残念だが、多分一番じゃないか、そう思った。


そして、試験官の中にはあの両親もいたのだが、魔術を使うことが出来た。



ー それが、何より嬉しかった。


両親の前で娘以外として…道具ではないものとして、自由に使うことが出来た。


あのころ、思えばいつも重いものが肩にのしかかっていたような気がする。それはプレッシャーだったのか、ほんのかすかな期待がああなって現れたのか、あれも一種の愛情だったのか…それは今となってはわからない。



だけど、プレッシャーな気がする。


始めの頃に感じていたプレッシャーは親からだ。そして、その後のプレッシャーは自分が自分にかけていた。今日こそ親の前で使わないといけない、と。



そして、今日、通知が届いた。


受かっていた。

今までお世話になった人に、挨拶とお礼をしに回る。みんな喜んでくれた。


改めて、このような人たちと関われたことに感謝したい。




待ちに待った入団式だ。


「サナ。」


「はい!」


私が一番最初に呼ばれた。


これはまさか年齢順ではあるまいし、一番かビリだったかのどちらかだろうが…多分1位だったのだろうな。


そんなことを思い。立つ。

他の人もどんどん名前を呼ばれていき、立っていった。


今年の合格者は10人だったそう。

例年とくらべるとかなり少ない方だが、それでも話題を呼んでいたらしい。



ー 11歳の少女が、歴代稀なる実力で合格した。



これは史上最年少の偉業であり、皆が注目するのも無理もない。


そして…そうこないとつまらない。当然だ。と考える自分もいた。



「今、名前を呼ばれた10人を魔術師に任命し、魔術団への入団を許可する。」



そう言ったのは、後で聞いたところによると国王陛下らしい。


この日から、私は魔術師を名乗れるようになる。



そして、1ヶ月間、演習期間がある。そこでの様子や実力を見て、どこの魔術団所属かを決めるのだ。



まず、体力の訓練。

魔術師なのに…と思うこともないが遠くに呼ばれるときには、体力がある人が行くべきだろうから、少しは関係あるかもしれない。

長距離を走らされたり、筋トレをされたり……魔術を使うことが許可されていなければ、もっと厳しかったと思う。



他には対魔物戦の練習だ。

他の正式な魔術師が近くについている中で、用意された魔物を倒す。

もし倒せなくても、魔術師が代わりに倒すだけだから問題ない、そういうことであった。


1日目はとりあえず攻撃を当てたら倒れてくれた。


しかし、いまいちしっくり来なかった。


そこで、魔物の本を読んでみた。


すると、魔物には弱点の場所と弱点の属性があるそうだ。


いままで、魔物にあったことがなかったから、全く知らなかった。


とりあえず、覚えることにした。


2日目、まだ覚えていない魔物が出たため、力で殺した。


そして3日目。覚えたばかりの魔物が出た。


弱点とその属性を使って、一瞬で倒した。


確かな手応えがあった。


そこからは調子に乗って、さらに覚えていった。


魔物は少しずつ難しくなっているようで…、それでも、演習期間の最後の方は、すべての魔物を一撃で倒すことが出来た。



主な演習内容はこの2つだった。


だけど、それ以外にも、演習はあった。


それは教養だったり、怪我の手当であったり、様々だった。


日々、頑張った。

休みを取るのは自由だったけれど、私は1回も休まなかった。


治癒魔術も使った。そんな感じで一ヶ月は終わった。



「第1魔術師団所属、ベル」


「はい!」


「第二魔術師団所属、スフィア、マイン」


「「はい!」」


「第三魔術師団所属、カナエ」


「はい!」


「第四魔術師団所属、エクト、ザイル」


「「はい!」」


「第六魔術師団所属、ゲート」


「はい!」


「第八魔術師団所属、マーラ、バント」


「「はい!」」


一体どういうこと?


周りもざわついている。


魔術師団は第八までしか無い。つまり、私はどこにも呼ばれなかったのだ。



「宮廷魔術師団所属、サナ」


「はい?」


どういうこと?


宮廷魔術師団ってなるのはもっと難しいんじゃあ…それなのに11歳の小娘が宮廷魔術師?嘘でしょ?


そう思いつつ、足は紋章をもらうために、前方に進んでいく。


紋章を私に与えてくれる人は、両親ではない宮廷魔術師だった。


「頑張りなさい。」


「はい…」


戸惑う。かくして、私は宮廷魔術師になった。


「紹介しよう、私が宮廷魔術師団長、カインだ。」


「私はナエミ。」


知っている。だって私の母親だから。


「私はゼスタだ。」


知っている。だって私の父親だから。


「私は…」「私は…」「私は…」


全員を覚えられるわけがない。結局、覚えられたのは団長だけだった。


「質問はあるか?」


「はい。なんで私は宮廷魔術師団所属になったのですか?」


「そうだな。そう思うのは当たり前だ。上層部でもはじめは意見が分かれていた。1つ目は、魔術の才能。」


それは分かる。それに関しては理由にない方がおかしい。だけど、それでは足りないだろう。


「2つ目は、その勤勉さだ。常に全力だったらしいではなかったのか?そして対魔物戦において、はじめは弱く、力尽くでやっていたものが、回数を増すごとに、どんどん効率的に倒せるようになったらしいな。それは、勉強なしには無理だろう。さらに訓練を一度も休まなかった。以上の2つが主な理由だ。このような貴重な人材は、その能力をより発揮できるところで活躍すべきだ。それで、同意を貰えた。」


「理解しました。」


「他に質問はあるか?」


「ありません。」


一つ、気になるとしたら…兄が宮廷魔術師にまだなっていなかったことだ。実力的にはなっていてもおかしくないのに…




今日は、任務で遠出している。なんと、ドラゴンが出たそうだ。


正直この人数でも厳しい。


第1魔術師団も今日は連れてきて、もしもの場合は殿しんがりを…囮を務めてもらう。


そして、驚いたことに、兄がその中にいた。


「ドラゴンが現れました!」


「行くぞ。宮廷魔術師団出撃!」


「「はい!」」


「額にある魔石を狙うんだ!」


「「はい!」」


「アクアランス!」


槍がそこまで飛んでいく…も、避けられた。


拘束にかえようか?


みんなはまだ魔石を狙っている。


「ファイヤーロープ!」


「え?助かった!」


はじめは驚いていた団長も、火の縄がドラゴンにまとわりついてくうちに、理解したようだ。


その日の討伐は、無事に終了した。


私は、功労者として、みんなから褒めまくられた。

私の評価は、魔術がすごいだけの者から、機転も利く者へと変わった。




数日後。


「今日から宮廷魔術師団所属になりました。デアメンです。よろしくお願いします」


「ようこそ!デアメン!」


「とうとう宮廷魔術師か!」


ナエミもゼスタもとても喜んでいる。

それも当たり前だ。


今回入ってきたデアメンは私の兄だから。


「君が最年少で入ったというサナ、か。よろしく。」


「はぁ…よろしくお願いします。」


「よろしくな、妹よ。」


「なっ!」


「大丈夫、両親には言わない。嬉しいよ、再び一緒にいられて。」


「本当に?」


「誓ってもいい。」


「分かりました。信用します。改めてよろしくお願いします。」


「あぁ、よろしく。」



かくして波乱の日常が始まった…なんてことはなかった。




また討伐で遠出することになった。


今回もドラゴンの討伐。今度は3匹だ。

2匹の夫婦と、一匹の子供。


心苦しいが、生活に悪影響を与えるようになったため、そのままにしておくことは出来ない。


だが、前よりも厳しい戦いになるだろう。


今回は、第一魔術師団と第二魔術師団に来てもらっている。


国家事業だ。それも緊急度の高い。


これに失敗すれば、この国は多くの優秀な魔術師を失うことになる、だが、民に被害をそのまま与えるのも駄目だ。


そう考えた国王の苦肉の策だった。



「ドラゴンが現れた! 行くぞ、宮廷魔術師団!」


「「おう!」」


「ウォーターロープ!」


拘束することは出来たが、次のドラゴンがやってきた。


「頼む!」


「ファイヤーロープ!」


2つ使っているから、2つ目の方の魔術が少し弱くなって、完全に拘束することが出来なかった。


ー どうしよう?


私以外に十分な技術と魔力を持った者はいない。




だったら…


髪の毛の色と目の色を変えている魔術を解除しよう。



それだったら完全に拘束できる。


なら…やるしかない。




「ファイヤーロープ!」




出来た!





ではあとはそのままを維持するだけ。


1匹目のドラゴンが倒れてくれた。


また魔力に余裕が戻ってきた。


そして、それを子供のドラゴンに使うことにした。



「助かった!」


そう言ってくれた魔術師が私をみて驚いた。


だけどそれを気にする余裕はない。



「「「「終わった〜…!」」」」


戦いが終わる頃にはもうみんなへとへとだった。



「おい!サナ!」


「何ですか?」


「お前、変装していたのか?」



「「カエミナ…?」」



「はい。」


「おい!ナエミ、ゼスタ。一体どういうことだ?」


「サナは…私たちの娘のカエミナです。」


「私はもうあなたの子供ではない。」


「いや、最後に言った言葉は忘れてくれ!お前は私たちの娘だ。」


「だった、ですよね?」


「「違う!」」


「受け取れません。今の私はただのサナという平民です。」


「だが…」


「なるほど、あなた達は約束をどうでもいいと思うような人たちだったんですね。では、私はあなた達と絶交させてもらいます。」


救世主が現れた…と思ったら兄のデアメンだった。


「デアメン…いいの?」


「いいさ、他ならぬ妹のためだからな。」


「ありがとう!」


「私たちは認めんからな!」


「そうよ!」


ナエミ、ゼスタが後ろで吠えている。




「ナエミ、ゼスタは問題を起こしたとして、1週間の謹慎となった。」


「そうですか…」


まあそうよね。


「分かりました。」


私と兄は、いろいろ聞かれた結果、そうなった。


「良かったね。」


「良かったな。」


二人で安心しあう。


「そういえばデアメン、マリーはどうなったの?」


「あの子は…そのまま私みたいに元気に暮らしている…と言いたいところだが、少し傲慢になってしまった。」


「残念…。どうしよう?」


「そのままでいいんじゃないか?」


「そう?だったらそのままにしておこうね。」


「あぁ。」


そう考えた。



それからナエミ、ゼスタは宮廷魔術師の恥になるとして、第一魔術師団に落ちた。


マリーは、見捨てられたそう。


毎日周りに当たり散らかしているそう。



そのままにしていて良かった。


安心した。




そんなマリーの今の居場所は分かっていないとなっている。



私と兄…デアメンは今は団長、副団長になって、この魔術師団をより良くしようと努力している。



そうして、魔術師団のトップの兄弟姉妹として君臨している。


その両親については…だれも触れないそうだ。

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