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ep 9

『ブレイブ勇機!鬼神龍魔呂伝』

第三話:兎の隠れ家(続き)

たつまろの短い指示を受け、三者(と一機)は新たな目的地である地下施設へと向けて移動を開始した。先導するのは、たつまろが駆るバイク。その後ろを、光学迷彩で姿を消したラビークが、巨体にも関わらず驚くほど静かに追従する。ルミナス姫は、再びラビークのコックピットに収容されていた。先ほどまでの怒りは、今は不安と疲労の色に変わっている。

「…ねえ、本当に大丈夫なの? そのガジェットって人、信用できるの?」

コックピットから、通信越しに姫が尋ねる。声には隠しきれない不安が滲む。

「さあな」バイクのヘルメット越しに、たつまろのそっけない返事が返ってくる。「だが、今の俺たちに選択肢はないだろう」

「それは…そうだけど…」ルミナスは言葉を濁す。窓の外を流れる地球の景色――緑豊かな山々、点在する民家、どこまでも続く青い空――は、彼女の故郷ルミナーミとは全く違う、未知の世界だった。美しくもあるが、同時に自分たちが異分子であるという現実を突きつけてくる。

『マスター、前方、指示されたポイントに接近します』

ラビークAIからの冷静な報告。たつまろはバイクの速度を落とし、脇道へと入っていく。そこは古びた鉱山の入り口のように見えたが、明らかに人の手が加えられた形跡はなく、ただ自然に還りつつある廃墟といった風情だった。

「ここか…?」

たつまろがバイクを降り、周囲を警戒する。姫もコックピットから降りてきた。

『ガジェット様からの情報によれば、この岩壁の一部が入り口になっているはずです』

たつまろがスマホを取り出し、ガジェットに再度通信を繋ぐ。

『おお、着いたようだね! ちょっと待ってて、今、遠隔でロックを解除するから…えーっと、パスコードは確か…あ、これだ! よいしょっと!』

ガジェットの声と共に、ゴゴゴ…と重い音を立てて、目の前の岩壁の一部がスライドし、巨大な金属製の扉が現れた。

「開いた…本当に隠し通路だったのね…」

ルミナスが息を呑む。扉の向こうには、暗く、埃っぽい地下へと続くスロープが見えた。

「ラビーク、入れるか?」

『…はい、マスター。通路のサイズ、ギリギリですが、通過可能です』

ラビークが慎重にその巨体を滑り込ませ、たつまろとルミナスもそれに続いた。扉が再び閉じられると、外界の光は完全に遮断され、非常灯だけが通路を照らす。しばらく進むと、広い空間に出た。そこは、かつてシェルターか、あるいは何かの研究施設として使われていたであろう、広大な地下空間だった。壁際には古いコンピューターや機械類が並び、中央には大型の機体を整備できるようなドックらしきスペースもある。しかし、全体的に埃をかぶり、長年使われていないことがうかがえた。

『どうかな? なかなかいい場所だろ?』

施設内の通信システムが起動し、スピーカーからガジェットの声が響いた。

『電源とネットワークは僕が再起動させておいたよ。水や最低限の食料備蓄もあるはずだけど…品質は保証しない! あと、そこの整備ドック、ラビークみたいな特殊な機体をいじれるかは未知数だけど、基本的なメンテナンスくらいならできるかもね!』

「助かる」たつまろが短く礼を言う。

『どういたしまして! それじゃ、僕はこれで。奥さんに夕飯の買い物頼まれてるから! くれぐれも! 僕のことは内密にね! じゃあ!』

一方的にまくし立てると、通信は切れた。嵐のような友人だ、とたつまろは内心で思った。

「……」

「……」

後に残されたのは、再びの沈黙。しかし、それは先ほどまでの気まずさとは少し違う、ようやく一息つけた安堵と、これからどうなるのかという漠然とした不安が入り混じったものだった。

「…とりあえず、食うか」

たつまろは、近くにあったレーションらしき箱を見つけ、それを開け始めた。

「え…こ、これを…?」

お姫様育ちのルミナスは、その無骨な保存食に顔をしかめた。

『プ、プリンセス…ワタシのエネルギー効率なら、しばらく補給は不要デスガ…』

ラビークAIが、気を遣うように(しかし少し的外れに)口を挟む。

「文句があるなら食うな」

たつまろは、レーションを無言で姫に一つ差し出した。

ルミナスは、少し躊躇った後、おずおずとそれを受け取った。空腹には勝てない。

埃っぽい地下施設の中、言葉少なにレーションを口に運ぶ元・鬼神と、異星のお姫様。そして、その傍らで静かに自己診断を開始する、心優しい臆病な兎ロボット。

彼らの奇妙な共同生活が、そして地球を舞台にした戦いが、今、この場所から静かに始まろうとしていた。

第三話 了

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