5杯目.貸し借りの清算
どうも、ノウミと申します。
まだまだ作品数、話数としては少ないですが、これから皆様の元へ、面白かったと思って頂けるような作品を随時掲載していきますので、楽しみに読んでいただければと思います。
沢山の小説がある中で、沢山の面白い作品がある中で私の作品を読んでいただけた事を“読んでよかった”と思っていただける様にお届けします。
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あぁ…頭痛がひどい、気分が悪い。
いつもの家の天井を見上げながら、目を覚ます。
時計を確認すると昼を過ぎていた。
昨日は日付が変わるまで付き合わされていた。
二軒目に入ったあたりから、記憶が無い。
不思議なもので、自宅に戻りベットに入っていたみたいだ、スーツはそのままだが。
「またクリーニングに行かなきゃ、この前のを取りに行くついでだ、ちょうど良いか」
身体にお酒の香りが残っている気がした。
重く沈んだ身体を無理矢理起こしながら、シャワーを浴びるため風呂場へと向かい、お酒の匂いを流す。
口の中も酷いことになっているので、歯磨きも一緒に済ませる。
外に出かける為に着替えをしていると、ある大変な事に気がつく。
「あれっ?ない?……ない!財布がない!」
鞄はある、スーツも全身揃っていた。
スマホもや定期入れと名刺入れも…財布以外は全部手元にある。
「やらかし…た〜…財布落とした」
起きてからずっと気分が落ち込んでいた。
お金やクレカもそうだが、あの紙も無くしている。
スマホに登録すらできていなかった。
色々な意味で最悪だ。
「やばいな、クリーニングすら出せない。取り敢えず、落とし物で届いていないか交番に向かうか」
僕は急いで部屋を飛び出す。
息を切らしながら、交番へと走り向かう。
駅の近くにあるので、少し家からは離れている。
もうすぐで交番に着こうとする時、声をかけられる。
「真田さーん!おーい!」
道路を挟んだ、向こうの歩道から声をかけられる。
聞き覚えのある声に、思わず振り返った。
「お久しぶりでーす!お元気ですかー!?」
周りに見られているので、向きを変え彼女の元へと走り向かう。
「はぁー…はぁー…はぁーっ…久し……ぶり…」
かなり息を切らしていた、話すのすら苦しい。
膝で上半身を支え、下を向きながら答える。
「声…大きい…はぁー…周り…はぁー…みて…」
「すごいね?めっちゃ走ってたね?とりあえずお茶でも飲む?さっき買ったから口つけてないよ?」
鞄からお茶を差し出してくれる。
飲み会明けなのと、走った後に飲んだお茶はたまらなく美味しかった。染みわたるとは、この事だろうか。
「ふぅーっ!……あ、ありがとう…」
「どういたしまして!それで、もしかして急ぎだった?思わず声かけちゃったけど…」
「いや、急ぎといえば急ぎだけど…大丈夫だよ。お茶ありがとうね」
「どういたしまして!…ねぇ、間接キッスじゃなくてガッカリしたり…した??」
「ぶっ…ごほっ…そ、そんなわけないだろ!」
予想しなかった言葉に思わずお茶を吹き出した。
彼女は腹を抱えながら笑っていた。
朝のどん底に落ち込んだ気分が、一瞬で上がる。
やはり彼女と歯車が合うのか、落ち着く自分がいる。
「では、真田さん!」
「は、はい!?」
「真田さんに聞きたいことがニつあります!」
「なんでしょう?」
「まず、ひとーっつ!なぜ電話をくれない?」
「ふたーっつ!どこに行くところですか?」
心臓がぎゅっと締め付けられる。
走った後だからと思いたい。
流れる汗も外の暑さだと思いたい。
だが、彼女の瞳はそれを許さなかった。
こちらをじっと見つめて問い詰める。
これでは下手な刑事より自白すると思う。
僕は事の経緯を説明する。
飲み会に参加していた事、記憶を無くすほど飲み明かしていた事、財布をどこかで無くした事。
財布の中に紙を入れていた事。
「よろしい!ニつ目の回答は分かりました…」
「あれ、一つ目……」
「でーも?、一つ目の回答がまだです!紙を無くしたのは昨日、そうねすよね?では、それまでは時間があったのでは?」
痛いところを突かれた。
なぜ?とは答えれるはずもない。
緊張して電話できなかったなど言えない。
何と答えようか悩んでいると。
「…いいでしょう、仕方ないです。まずは財布が届いているか見にいきましょう!行きますよ!」
そう言うと、彼女は交番の方へ歩き始めた。
「え?一緒に行くの?」
「勿論です!まだ尋問は終わっていませんから!」
重たくなっていた足を持ち上げ、後を追いかける。
必死に、頭の中で言い訳を組み立てながら。
交番に着くと、警察に財布の有無を尋ねる。
どうやら、落とし物として届いていたそうだ。
ありがたい、さすが日本だと感心をする。
手続きを済ませ、財布を受け取り確認をする。
が、さっきの感心を半分返してほしい、現金がごっそり無くなっていた。
カード類は無事なので、半分の感謝をする。
無くした自分にも落ち度はある。
痛い授業料だと思う事にした。
そして、財布を手に持ったまま交番を出る。
「良かったですねー!財布は見つかって」
「あぁ、痛い授業料も払ったけどね」
先ほどから、隣を歩く彼女がこちらを見つめ、笑う。
顔に何かついているのだろうか?
「真田さんって…今…」
「な、なに……?
「お財布はあるのに、お金がない!そうですね?」
「はい、そうですが…」
「むふふっ、なら行きましょう、いつもの喫茶店へ!これで私が借りていたものを返せます!」
なるほど、それで先ほどから笑っていたのか。
私は忘れてはいたが、彼女は覚えていたらしい。
初めて出会ったあの日、財布を無くした彼女の代わりに会計を済ました事を。
「いや、大丈夫だよ…さっきお茶もらったし、これでチャラって事でいいよ」
「それでは私が納得いきません!」
しかめっ面なのに可愛い。
背伸びをしながら、顔をこちらに近づけてくる。
「わ、わかった!分かった…行くよ」
「分かればよろしい、それではいざ行かん!」
すぐに彼女の機嫌が戻った。
僕の隣を、鼻歌まじりに歩き始めた。
喫茶店は近かったのですぐに着いた。
聞き馴染んできた、ベルの音、店内の匂いや雰囲気。
常連さんだと言われても過言ではない。
ただ今日は、お客が多いようだ。
テーブル席しか空いていなかった。
満更でもない様子で彼女が座り、私が隣に座る。
勿論、注文はいつもので。
ブレンドコーヒーをニつお願いする。
「いいんですか?コーヒーだけで、欲しいものがあったら言ってくださいね」
「十分だよ、ありがとう」
少し不服なのか、真顔に戻りコーヒーを待つ。
店主の肩が震えていた気がするが、気のせいか。
変わらない香りを漂わせ、二人の間に置かれる。
いつも通りの苦味に、まだ慣れないなと感じる。
彼女も同じらしい、すぐにミルクと砂糖を入れる。
「さて、真田さん?なぜ連絡をくれないのですか?」
「やっぱりその話に戻る?」
「もちろんです!気になりますから!」
「何を話していいのか、悩み…今日に至ります」
「…それだけ?」
「それだけ」
「本当に…?」
「本当に」
また彼女が笑う。
「良かったー、嫌われたのかと思いましたよ〜…」
「そんなわけないじゃん!」
「だって、女の子から連絡を渡したのに、何も無かったらそうなりますよー?」
「たしかに…すみません」
「社会人の基本!報・連・相…ですよ?」
「おっしゃる通りでございます…」
「では!私に電話をして下さい!」
「え?今ここで?」
「はい、今ここで」
「目の前にいてるのに?」
「はい、目の前にいるのにです」
僕は彼女の言葉と視線に慌てて、鞄をさぐる。
鞄からスマホと財布を取り出し紙を広げる。
数字を打つ手が少し震える。
なんとか打ち終え、電話のマークをタッチする。
すると、彼女の鞄から店内に着信音が鳴り響く。
どうやら、マナーモードを切っていたのを忘れていたようだ、彼女も慌てて鞄をさぐる。
「はい、もしもし本城です」
「もしもし、真田です」
スマホから聞こえる彼女の声と、目の前の声が同時に入ってくる。
不思議と普通に会話するより緊張する。
「ご用件はなんでしょうか?」
「え?…えぇーっと…コーヒーは好きですか?」
「はい、大人の飲み物って感じが好きです、苦さにはまだ慣れていませんが」
彼女が笑っている。
それでけで、ここまで心躍るものだろうか。
スマホの声も、彼女の声も心臓に悪い。
この電話はまだ続くようだ。
「では、私から…今度、夏祭りに行きませんか?」
「え!?僕と!?」
「今、電話してるのはどなたでしたっけ?」
耳がどんどん熱くなる。
鼓動がどんどん早くなる。
彼女の目が、声が、頭から離れない。
「私は当日、夏祭りに行きたいです。一人では寂しいですが、友達と行くのは気を遣います…なので…」
「僕でよろしければ、ご一緒させてください」
彼女の顔が喜んでいた。
必死に抑えているようだが、伝わる。
それほどに嬉しいみたいだ。
「では、駅にて待ち合わせです、送れないように」
「かしこまりました」
ひと通り終えたのか、彼女が電話を切る。
彼女の耳もほんのり赤めいているのに、今の僕には気づきもしなかった。
本気なのかどうか、電話の練習の一環なのか、それを確かめる事で頭がいっぱいになっていた。
「あの、これって…」
「ふ、二人分のお会計をお願いします!」
慌てて会計を済まして飛び出す彼女に、呆然とする。
店主から声をかけられるまで動けずにいた。
「お客様?お二人分、本当によろしかったので?」
「あ、っはい!実は財布を落として、見つかったんですが、現金が抜き取られていて…」
「それは災難でしたね…」
「この前の借りを返したいって、それで今日は連れてこられてたんです」
「なるほど」
「すみませんいつも騒がしくして、お邪魔しました」
「とんでもないです、いつでもお待ちしております」
そう伝えると、僕は席を立ち荷物を整える。
今日は一度家に帰り、スーツをクリーニングに出す事だけを考える事にする。
「あの、お客様」
「はい?なんでしょう?」
「差し出がましいようですが、老婆心ながら一言だけよろしいでしょうか」
「はい…」
「お二人の間柄をとやかく言うつもりはありませんが…あなたは“大人”です。節度ある行動と、責任がつきまとうことを、お忘れなきように」
「は、はぁ…」
「……ありがとうございました、またのご来店お待ちしております」
この時の僕にはよく分からなかった。
店主の言った言葉の意味が。
僕が気づくのには、もっと後の事となる。
もう少し、この言葉を受け止め、よく考えていれば。
5話の完読ありがとうございます!
徐々に近づく距離感に気づいているのでしょうか。
そんな事を考えながら、描いております。
2人の物語を想像しながらかいているので、こっちもドキドキしながら書いています。
また次話でもお会いしましょう!(^^)