3杯目.僕の寿命は君次第
どうも、ノウミと申します。
まだまだ作品数、話数としては少ないですが、これから皆様の元へ、面白かったと思って頂けるような作品を随時掲載していきますので、楽しみに読んでいただければと思います。
沢山の小説がある中で、沢山の面白い作品がある中で私の作品を読んでいただけた事を“読んでよかった”と思っていただける様にお届けします。
X(旧:Twitter)でも情報更新しています。
↓是非フォローください↓
https://x.com/noumi_20240308?s=21
今日は残業をしていた。
周りには誰も残っていない、世界に僕一人だけが取り残されたように感じる。
こんな時は時間の流れが早く感じる、僕だけの時計が、僕だけの為に時間を刻んでいるような気が。
早く帰りたいのに、終わらない仕事(雑用)は、より一層時間の流れを早くする、それは、焦るほどに。
こんな話を聞いた事がある、“人は一緒のうちに心臓の動かす回数が決まっている”と。
その話で行くと、何も感じなく生きている僕は100歳を超えても、長生きするのだろうか…と。
長く生きたくないと思う人ほど長生きなのか。
世の中は不公平だ。
すると、スマホが鳴る。
『おぉーっす!久しぶり!元気?』
高校時代の同級生からの電話だ。
懐かしくも、変わらない声が聞こえている。
『何してんの?こんな時間まで仕事?やばいな!』
「んで?何の用事?」
『おっと、悪ぃ!今度さ、みんなで旅行でも行かないかって話しなんよ!!』
やたらとテンションが高い。
取り残された残業で、先程まで孤独を感じていた僕にとっては、少し苦痛だった。
「悪いな、中々休みが取れない…」
『一泊二日でも?』
「ごめん、土日も仕事呼ばれるし、余裕がない」
嘘だ、土日も休みがあるし余裕もある。
思わず返してしまった言葉は、イラついていたからなのか、本気で行きたくないと思うのかは分からない。
『忙しいんだな、悪いなそんな時に』
「こっちこそごめん、誘ってくれてありがとう」
『おうよ!また余裕ができたら声かけて!』
「もちろん、その時はよろしく」
当たり障りのない返事をし、電話を切る。
また孤独に引き戻された僕は、デスクの前に座りながら、天井を見上げる。
旅行に行きたくない事はない、ただ…そうじゃない。
僕は今の話しを忘れるかのように、残業を片付ける。
家に着いたのは、日付が変わった頃だった。
ソファーへと、倒れ込むように寝そべる。
お腹が空いてるはずなのに、何もいらない。
風呂にも入らないといけない、スーツもハンガーにかけておかないと…と考えてるうちに意識が遠のく。
いつのまにか眠ってしまったようだ。
昔の夢を見た、学生時代にそれなりに楽しんでいて、何も考えずに遊んでいた時の夢だ。
近所の公園で遊ぶだけでも楽しかった、ちょっと遠出するとなれば、大騒ぎだった。
懐かしくも、戻れない思い出に苦みを覚えながら。
窓から光が差し込み、ふと目が覚める。
アラームを設定していなかったからなのか、時計を見ると12時を回っていた。
ボンヤリとする頭を起こしながら、スーツのまま寝ていた事に気づく。
「はぁー…やらかした、またクリーニングか」
僕はスーツを脱ぎ、近くにあった紙袋に詰める。
シャワーを浴びて、昨日の汚れを落としていく。
夢の事はもう思い出せないでいた、なんとなくだけど、シャワーと一緒に流されている気がする。
外はまだ夏本番、白いシャツに袖を通し、黒いハーフパンツを履き、それなりの身支度に整える。
髪は…めんどくさいからこのままでいいか。
夏の暑さに堪えながら、涼しい部屋を出ていく。
今日はクリーニング屋に行って、近くの本屋さんに寄る事にする。
学生の頃から買い続けている漫画の発売日だ。
数ヶ月に一回の、楽しみ日だから。
今日は、お菓子と飲み物を買って、涼しい部屋でゆっくりと新巻を読もう。
なんなら、今までの分も読み返そうかと楽しみにしながら向かう。
「部屋の事は…明日やればいいっか」
嫌な事は後回し、素晴らしい一人暮らしのメリット。
そうこうしてるうちに、クリーニング屋へスーツを預け、本屋さんへと向かう。
本命の本屋さんまで歩き、店内に入る。
目当ての新巻を無事に見つけ、手に取った。
すると、聞き覚えのある声で、後ろから呼ばれる。
「さーなーだーさんっ!」
「うおっ!」
静かな店内に大きな声が響き渡る。
後ろにいた彼女と一緒に、口を手で覆う。
少しざわついたが、元通りの静かさに戻る。
(急にびっくりしたじゃないか)
(すみません、まさか、あそこまで驚かれるとは)
(それは…ごめん?ん?)
声を落とし静かに話す。
彼女と会うのは、これで4度目だ。
もう流石に緊張感もなく、普通に話せている。
(何を買いに来たんですか?)
そう話す彼女は制服ではなく私服だった。
私服の彼女は、帽子を深く被り、白いシャツに黒いタイトなパンツを履いていた。
学生とは思えない、大人っぽい綺麗さだ。
ついつい見惚れてしまいそうになる。
(もしもーし?)
(あ、あぁ、この漫画だよ、学生の時から買い続けていた新巻が出たからね)
彼女に手に持っていた漫画を見せる。
どうやら、彼女も知っていたそうだ。
(大人になったら漫画とか読まないと思っていたんですけど、しっかり読むんですね)
(本城さんは何を買いに来たの?)
「私はこれと〜、参考書ですね」
彼女は推理小説を手に取っていた。
それこそ、僕は目を通した事もないものだった。
どうやら世間的には、有名な本らしい。
同作家の本が、ミリオンヒットを続けているとか、映像化を続出させているとか。
「確かに、そっちの方が大人っぽい本だね」
「でしょ?だから読んでるの、面白いしね」
また、周りがざわつき始めたのに気がつく。
どうやら声が大きくなっていたようだ。
二人は買い物を済まし、本屋での用事を済ます。
「いや〜っちょっと恥ずかしかったね」
前を歩く彼女は、振り返りながら答える。
「びっくりしましたよ、本当に…」
「ねぇねぇ、その漫画って面白いんですよね?」
僕は手に持った漫画の面白さを力説した。
数々の冒険を繰り返し、増えていく仲間達。
笑いもあり、お涙を頂戴するシーンもあり、一つ一つの話がまとまって読みやすい…と。
つい熱く語りすぎてしまった。
彼女は口を開け、じっとこちらを見ていた。
「わぁお、びっくり、結構熱いんだね」
「ご、ごめん、つい好きなものとなるとね」
「ううん、なんだかいつも冷静なひとーって感じがしてたから、意外だった」
冷静ではない、諦めと無関心でいるだけ。
感情を表に出さないのも無駄だと思っているから。
何も期待しないから、なににも裏切られない。
そう思い始めたのは、いつからだったのだろうか。
「よかったら、いつもの喫茶店でも行かない?その漫画そんなに面白いなら…ね?ちょーっと読ましてほしいなーって思うの」
普段ならこのまま家に直行し、冷え切った部屋の中で、冷えた飲み物と、お菓子を準備して漫画を読み尽くしたいと考えるが。
この笑顔には逆らえなかった。
きっと、夏の朝で頭がやられているせいだ。
そう思う事にして、「行きましょうか」と答える。
いつも通りの隠れた通路、いつも通りの喫茶店いつも通りの彼女と一緒に過ごす時間が、また出来た。
僕の日常になりつつある彼女と、二人で向かう。
ベルを鳴らし、店内へと入る。
冷え切った店内は天国の様に感じる。
いつもの同じカウンター席に腰掛け、いつもの注文を二人分でお願いする。
僕は彼女に漫画を渡し、置かれたコーヒーを飲む。
「おぉ〜確かに、この巻しか読んでないのに面白いと思う!これを、大人も読むんだねぇ」
「でしょ?面白いに子供も大人も関係ないよ」
「確かに…ねぇ、これ全部家にあるんだよね?」
「そうだよ?1巻の初版から買い続けてるんだ」
「今から読みに行ってもいい??」
「もちろ…」
つい嬉しくなってしまい、二つ返事でOKをしそうになったが、思いとどまる。
部屋の掃除をしてないので、汚いと。
そんな状態の部屋を見られるわけにはいかないと。
「また持ってくるのでそれで諦めてください」
「ちぇーっ、ケチー…」
「ケチでもダメです」
「まっ、半分冗談だけどね。それに、いきなり家に行くとか、流石に…ね?」
「そういう事」
どうやら、分かってくれたようだ。
僕は、少し安堵する。
それからまた少しの沈黙に戻る、慣れないコーヒーの苦味を、飲み込むように飲んでいく。
二人でいる時この時間はゆっくりと時間が流れる。
不思議な心地よさに、慣れてしまったのか。
「ねぇねぇ、最近、真田さんは旅行とか行った?」
「旅行?旅行かー…最近行ってないな」
「なんで?遠くに行って、自由に伸び伸びと楽しみたいなーって、ならないの?」
なんで?と聞かれると返答に悩む。
面倒くさい、次の日も仕事がある、休みは家でゆっくりしていたい、お金もかかる。などなど…
理由はいくつかあれど、旅行に行かない理由として伝えるには、少し格好悪い気がする。
「仕事がさ…忙しくて」
「今日とかは?」
「今日は家の事もあったし、これも束の間の休息」
「ふぅ〜ん…そっか」
彼女は少し残念そうにしている。
僕は、その顔が気になってしまった。
「突然どうして?」
「友達とさ、旅行に行こうって話になったんだけど、話があわないじゃん?道中しんどいなって、それに行きたい場所も全然違うくてさ」
少し分かる気がする。
友達との付き合いとかが煩わしく、一人でいる方が楽だと思う。
でも、一人だと旅行に行こうともならない。
「行ったって楽しくないならさ、行かないほうがいいよ。だから断ったの…それで真田さんはどうかなって思ったんだ」
「ちなみにどこに行きたいの?」
「京都に行きたい!五重塔や、清水寺、金閣寺などを見て回りたい!ちゃんとしたお茶も飲んでみたい」
「着物を着たり、おしゃれなカフェに行ったり、お買い物を楽しんだりとかは興味ないんだ?」
「ないな〜…自撮りとか、皆んなで写真は苦手だし」
「1人で行ったりしないの?電車とかで」
「ううん、親がダメだって、危ないし。来年受験だから、今は勉強しなさいって“そういうのは大人になってからしなさい”って」
確かに、女の子の1人旅は危ないだろう。
彼女のような容姿なら尚更。
「ねぇ、いつか連れ出してくれないかな?」
「へっ?」
突然向けられた笑顔と言葉には、花のような明るい笑顔を見せながらも、冷たい華を感じさせる。
「僕が?本城さんを?」
心臓が軋む音がする、きつく締め付けられながら、鼓動は大きく脈を打とうとする。
彼女のその視線は僕を見ているようで見てない。
冷たく刺さる視線は、儚くも…美しく感じた。
「そんなわけないよね…ごめんね。今日は、変な事ばっかり言ってさ…」
何も言い返せない、言葉が出ていくのを抑える。
このまま吐き出せば、戻れなくなる気がする。
「今日はもう帰るね、ありがとう、いつも付き合ってくれて」
彼女が席を立とうとする。
僕の押し寄せる波は止められなかった、せき止めていた言葉が、彼女の腕を掴むと同時に溢れ出す。
「へ、変じゃないですよ…」
だが、それ以上は出てこなかった…言いたい事があるはずなのに、彼女と目が合うとまた言葉に詰まる。
この気持ちがなんなのか理解できない、ずっと激しく鳴っている鼓動が理解できない。
分からない事ばかりの頭の中は、既に限界だった。
「ふふっ、ありがとうごこざいます」
そう言うと、彼女はメモ用紙とペンを鞄から取り出し、何かを書き始めた。
その紙を僕に差し出して囁くように答える。
「これ、私の電話番号です。電話番号を交換する方が、大人っぽいですよね?」
そういうと、先ほどとは違う温かみのある花の笑顔をこちらに向け、会計を済ましていく。
店主にもお礼を述べると、僕を現実に引き戻すベルの音と共に去っていく。
苦いコーヒーと、甘い香りを残して。
電話番号の書いた紙を片手に、少しうつ伏せる。
彼女と出会ってから、寿命が縮まっている気がする。
人の一生のうち、心臓の鼓動する回数は決まっているらしいのだから。
この紙は、より一層僕の寿命を縮めていた。
滲み始めたインクを眺めながら、心を落ち着かせる。
これはいったいどうすればいいのだと。
家に帰ってからは、さらに悩み続ける事になるが。
喫茶店にいた時間は、永遠にも感じるほど長くゆっくり流れていたのに、一人になった途端に早くなる。いつもと違う、時間の流れに焦りを感じていた。
3話も完読ありがとうございます。
この作品の投稿ボタンを押すときも、私の寿命は縮まっているのではと考えています。
読んでくれるかなとか、間違いはいないかなとか。
伝わった内容になっているかなとか。
それでも押さずにはいられないのです。
前の話から、急展開した感じではありますが、
2人の関係性をこれからも見ていてください。
次話でもお会いしましょう(^^)