26杯目.初恋は甘くほろ苦いコーヒーの味
どうも、ノウミと申します。
こちらで最終話となります。
最後までお付き合いください。
まだまだ作品数、話数としては少ないですが、これから皆様の元へ、面白かったと思って頂けるような作品を随時掲載していきますので、楽しみに読んでいただければと思います。
沢山の小説がある中で、沢山の面白い作品がある中で私の作品を読んでいただけた事を“読んでよかった”と思っていただける様にお届けします。
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僕は、最後のページに挟まっていた手紙を読む。
彼女が最後に宛てた、僕へのメッセージ。
〔真田さん、この絵日記を受け取ってくれてありがとう、必ずあの喫茶店に行くと思ってたよ。
真田さんと出逢ってからは、色々苦しい事もあったけど、それ以上に心が幸せで満たされていく、そんな日々の方が多かったんだよ。
会えない日は、会えない日で想っていたし。
会えた日にはうるさいぐらいに、心臓が鳴るし。
この手紙はね、最後に電話をした日に書いたんだ。
ちょっと未練がましいのかな?これって。
それでもね伝えたい事があったんだ。
真田さん、あなたの事が好きでした。
大好きでした、この胸が苦しくなるほどに。
慌てているあなたも、見栄を張っているあなたも。
コーヒーが苦手で、子供っぽいあなたも。
全部、全部、大好きでした。
私の初めての恋、これで終わりになる恋。
ありがとう好きにならせてくれて。
初めて、恋をする事がこんなにも景色が変わるのかと、毎日の見慣れた道さえ輝やいて見えていた。
毎日の道でね、真田さんいないかなって探したよ。
土日に用事もないのに、外に出かけたり。
大概会えないんだけどね。
用事がある時に会えたから、嬉しかったよ。
一方通行で、酷いって思われるかもしれない。
それでもこの想いは伝えたかった。
知って欲しかったんだよ。
出逢えて幸せでした。
短い時間かもしれないけど、私にとって大切で、愛おしいあの時間が一生忘れたくないって思うほどに。
あまり長くなるとあれだから、最後にするね。
本当に大好きでした、ありがとう。
そして、さよなら初恋の人。〕
また、涙が溢れていた。
昨日流し尽くしたはずなのに。
止められない涙が、ずっと。
彼女のことを想いながら、流す涙は切ない。
「ずるいよ…こんなの、一方的じゃん」
それでも、苦しめていただけじゃない。
そう思えることで、僕の胸も暖かくなる。
心の奥が熱くなる感じがする。
「僕も大好きでした、ありがとう、初恋の人」
そうして手紙を絵日記に戻す。
その絵日記は、絵と共にしまう。
いつの日か、この気持ちに区切りをつける日が来たのであれば…そう想いながら。
部屋の中で一人。
今は一人が嫌いじゃない、自分の想いに浸れるから。
壊れていた歯車は、噛み合うことなく終わる。
いつの日か、昔の失恋話として思うようになる。
そんな気はしないが、それでもその日は来るだろう。
僕にとって初恋の味は、苦いコーヒーのようで、甘さを注いであげると美味しく飲める。
そんな思い出になる。
苦手だったコーヒーが好きになれていたのは、甘い彼女との思い出が残されていたからだろう。
時計の時間を確認する。
「おっと、もうこんな時間か」
私は会計を済まし、店を出る。
今日見つけた喫茶店も中々良かった。
それでも、私にとってはあの喫茶店が一番だ。
今となってはもう、無くなってしまったが。
今日は、廣瀬と和田垣先輩の結婚式。
よく三人で呑みに行っていたが、付き合い始めた時から色々話は聞いていた。
それが結婚までいくのだ、おめでたい事だと思う。
刈谷さんはもう仕事を辞めているので、結婚式にも呼ばれる事もなかった。
まぁ、呼ばれても来づらかっただろうが。
あの日から私は、仕事だけに打ち込んでいた。
抱えてしまった想いを、忘れようとしていた。
未だにこうして、鮮明に思い出すのだ。
未練がましく、忘れてない証拠なのだが。
あれからは、誰かを好きになる事もなかった。
理由は分かっているが、あえて考えないようにする。
今日は友人の結婚式だ。
精一杯祝ってやろう。
次の日、私は会社に辞表を出していた。
幸いな事に、今の上司とはそこまで仲が良くない。
二人には散々止められたが、やりたい事がある。
そう伝えると、応援してくれた。
辞表も難なく受け取ってもらい、一ヶ月に退職。
それからは、引き継ぎもやりきる。
後輩からは最後まで引き留められていた。
流石に、辞める理由までは伝えなかった。
本心を伝えるのは一部の人だけでいい。
退職に合わせて、やりたい事の準備をしていく。
そう、喫茶店を開店したかった。
僕にとって人生の全てと言ってもいいだろう。
色々な思いが詰まった喫茶店を、自分の手で。
勿論、レトロな雰囲気に仕上げる。
雰囲気は昔ながらの喫茶店だ。
メニューに関しては、これから増やしていく。
あの日食べた、ハンバーガーもいいなと考える。
ナポリタンだけは、絶対に外せない。
コーヒーだって。
その為に喫茶店巡りをし、勉強をしていた。
この日のために、ずっと。
私が叶えたい夢を抱き、その為に頑張るとは。
あの頃の僕には想像も出来ないだろうな、
やる気が無く、自堕落に生きていたあの頃の僕に。
店の景観は問題ない。
後は、お客様が来てくれるかどうか。
このまま、売り上げも上がらず潰れる。
そんな可能性だってあるのだから。
新しいことを始める時は不安で潰されそうになる。
それでも、自分で選んだ道なのだから。
自由に楽しく生きてみようじゃないか。
私は、もう大人なのだから。
そうして、開店時刻になり店を開ける。
緊張しながら、扉を開けるが、外には人はいない。
仕方ないと思いながら、少し落ち込む。
まだまだ、何も始まってすらない。
そう考える。
夕方頃には、友人たちが来てくれる予定だ。
それまでは気長に待つ事にしよう。
そうして、自分で読むようにコーヒーを淹れる。
一口飲もうとした時に、ベルの音が鳴る。
私の好きな、扉についたベルだ。
一人の女性が、扉から入ってくる。
「あ、あの…入っても大丈夫ですか?」
「は、はい、大丈夫です、今開店したとこです」
初めてのお客様様が入ってきてくれた。
それだけで胸が熱くなる。
入って来てくれて良かったと。
「どこでもお好きな席へどうぞ」
私はそう伝えながら、水とおしぼりを用意する。
が、入って来た女性は動く気配がない。
どこに座ればいいのか分からないのか?
「あ、あの?」
「あ!いえ、ごめんなさい!用事ができて!」
そう言いながら、女性は走り去っていく。
用事ができて?思い出してではなく?
人がいないから嫌になったのだろうか。
思っていた雰囲気と違ったのだろうか。
この感情の浮き沈みは、どうしたらいい。
少し酔いそうだ。
そうしていると、何人か入店される。
忙しいとはいかないが、初日としてはいいだろう。
動きとしても、問題ないと確認できた。
夕方に来てくれた友人も楽しんでくれた。
その中には、刈谷さんや、権田社長もいた。
あの頃の私の話で盛り上がっている。
お二人とはあれからも、付き合いが続いてる。
こうして、仕事を辞めても会うほどに。
そうしてると、一日が終わろうとする。
閉店の時間間際になり、人がいなくなる。
それなりに来店もあった。
あとは、何度も来てくれたらいいのにな。
緊張の糸が切れたのか、カウンターに腰掛ける。
「ふーっ、疲れたーっ…でも良かったな」
今日の事を思い返す。
初来店の女性の事はあれだが。
何故か、頭から離れなかった。
また来店しそうな、そんな気が。
それでも、始まりとしては良かった。
これからも頑張れると思う。
不安はまだまだ残っているが。
店を閉めようと立ち上がると、ベルが鳴る。
こんな時間にお客様かな?
振り返ると、朝の女性が立っていた。
「す、すみません、もう閉店でしょうか?」
「あ、いえ、大丈夫ですよ」
また来てくれたのだ。
閉店時間間際といえ、迎え入れたい。
女性はカウンターの席に座る。
私は水とおしぼりを用意し差し出す。
「またのご来店、ありがとうございます」
「あ、いえ!こちらこそ、変な事してすみません」
女性はスーツ姿だった。
私も少し前まで同じ姿だったのに、懐かしく感じる。
仕事終わりに寄ってくれたのだろうか。
「ご注文はいかがなさいますか?」
「ブレンドコーヒーを一つ、お願いします」
「かしこまりました」
私はコーヒーを準備する。
あの喫茶店と同じ、サイフォン式で淹れていく。
最後のコーヒーの香りが立っている。
「お待たせしました、ブレンドコーヒーです」
「ありがとうございます」
女性はコーヒーを飲んでいく。
香りを楽しみながら、少しずつ。
「美味しいですね」
「ありがとうございます、コーヒーがお好きで?」
「はい、好きです、懐かしい味なので」
「懐かしい…そうなんですか」
そうして女性は、少しずつ味わうように飲んでいる。
本当にコーヒーが好きなんだろう。
もう一杯、申し訳なさそうに注文する。
私は、快くコーヒーを準備する。
「あの、あそこの絵はなんですか?」
指差す方向には“氷の華”の絵が飾られている。
私にとって未練の一つだが、飾りたかったのだ。
「あれは、昔に頂いた大切な絵です」
「頂いた?どなたからですか?」
絵の事を聞かれることはあったが、話を避けていた。
それでも、この女性には正直に話してしまう。
「はい、私にとって、とても大切な人からです」
「恋人とかですか?」
「いえ、違います、片想いではありました」
何故、こんな話しをしてしまったのだろうか。
先ほどから、昔の思いが湧き上がってくる。
この女性と雰囲気が似ているからだろうか?
「それって、コーヒーの苦手な子供ですか?」
「えっ?」
「コーヒーが飲めたら大人だって思っていた」
「うそ…」
「そんな事ないのにね、それだけで大人って…」
「え、いや…え…」
確信してしまった。
大人になって、姿が変わり分からなかったのだ。
女性の変化は凄いと言うが、まさにそれだった。
あまりの変わりように、気づかなかったのだ。
「お久しぶりです、真田さん」
「なぜ、え、どうして…」
「ここに入ったのは本当に偶然ですよ、だから朝は驚いちゃって飛び出しちゃった」
そう笑った彼女の笑顔は、あの日を思い出させる。
花のように咲き誇る、綺麗な笑顔を。
「それにしても、ひどいですね、気づかないってね」
「いや、それは…その…」
「すっかり忘れられたのかと」
「違います!あまりにも綺麗になりすぎて」
「ふふっ、ありがとうございます」
彼女を前にすると、あの日の僕が戻る。
緊張して、上手く喋れなくなるあの日の。
「あの絵を見て嬉しくなったよ、まだ持ってたんだ」
「はい、捨てれるわけ無いじゃないですか」
「それでも飾るのは少し恥ずかしいかな」
「すみません、どうしても」
色々聞きたいことはある。
あれからどうしていたとか、今は何してるとか。
スーツを着てるって事は絵の仕事はとか。
ただ、それよりも気になったのは。
左手の薬指に嵌められた、輝く指輪だ。
「ご結婚なされたんですね、おめでとうございます」
少し恥ずかしくなる。
彼女はしっかりと前に歩いて大人になっていたのに、私はまだあの日の思い出に浸る子供のままだから。
「ふふっふふふふふふっ……」
「どうかされましたか?」
「がっかりした?」
本心を覗かれたようで、驚く。
「い、いえ…?おめでとうって思いましたよ」
必死に取り繕う、バレないようにと願いながら。
「残念、これはただの指輪です、さっき雑貨屋さんで大急ぎで買ってきたのでした」
「へっ?」
先ほどから間抜けな顔と、声が続いてると思う。
「また取り繕ったでしょ?分かるんだよ」
「そ、そんな事ないですよ」
「昔から変わらないんだね、真田さんも私も」
「私も?」
「この指輪はね、罰です!私のことに気づかなかった真田さんへの…私はすぐに気づいたのになー」
「そ、それはさっきも言いましたが……」
「私もあれから変わらない、変われないんだよ」
「それって…」
「ここで会えたのも運命だと思っ……」
「ずっと、好きでした本城さん、今でも」
今度は先に言った。
前は一方的に言われただけなのだから。
今度こそは、こちらから想いを伝える。
すると彼女は涙を流しながら答える。
「どこかへ連れ出してくれる?」
「勿論、どこへだって連れて行きますよ」
そうして私たちは、この8年間を埋めるように、あの日に戻った気分で話しをする。
何をしていたのか、何を思っていたのか。
受け取った絵日記について。
2人の想いも交えて。
この時間だけは二人だけの時間だ。
初めて出逢った、あの喫茶店。
また再会できた、私の喫茶店。
この世界に、二人だけの時間が流れる。
日付が変わろうが、ずっと……。
26話最終話、ご完読ありがとうございます。
二人の喫茶店での話とこれからは、書かずに、皆様のご想像の中でお楽しみください。
本当の事は、二人だけの世界に留めさせて頂きます。
そんなことを考えながらの作品でした。
私にとって初めて完結まで書き切った作品です。
書きながら、何度も修正を繰り返し。
書き切ってから、一から読み返して。
そうしてできた作品です。
是非、皆様のコメント等お待ちしております。
良いなと思っていただけたら、何卒、星も下さい。
自作への励みとさせていただきます。
それではまた…
次作でお会いしましょう(^^)
最後までお付き合い、ありがとうございました。