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24杯目.人生の迷い道

どうも、ノウミと申します。

まだまだ作品数、話数としては少ないですが、これから皆様の元へ、面白かったと思って頂けるような作品を随時掲載していきますので、楽しみに読んでいただければと思います。

沢山の小説がある中で、沢山の面白い作品がある中で私の作品を読んでいただけた事を“読んでよかった”と思っていただける様にお届けします。


X(旧:Twitter)でも情報更新しています。

↓是非フォローください↓

https://x.com/noumi_20240308?s=21

アラームの時間より、ずっと早くに目が覚めた。

昨日の服装のまま目が覚める。


夢だったのではと思うが、夢ではない。

スマホを見ると、着信履歴が昨日で終わってる。

昨日彼女と話していた証拠だ。

本当に終わってしまったのだ。


ただ、不思議と気持ちは軽くなっていた。

納得したからなのか、本心を話したからなのか。


それでも、また今日がやってくる。

仕事に行かないといけないので、急いでシャワーを浴びて、着替える事にする。

鏡を見ると、目が充血して腫れた酷い顔だった。


「ははっ、酷いなこれは」


でも仕方がない。

昨日の今日で休むわけにはいかない。

言い訳をどうしようか、と考えながら家を出る。


いつも通りの満員電車、とはいかず。

家を出る時間が早かったのか、空いていた。

珍しく、席に座り電車に揺られる。


正直、まだ引きずってはいるが仕事に持ち込むと、何もいい事はないと痛感したばかりだ。

何とか気持ちを切り替えて、電車から降りる。


会社へと向かい歩いていく。

この顔の言い訳は、何も思いつかぬままに。


意を決して事務所に入る。


「おはようございまー…」


事務所には刈谷部長だけだった。

どうやら、来るのがかなり早かったらしい。

こんな事は初めてだ。

僕の顔を見て驚いた顔を向けている。


「おいおいおい、大丈夫か!?」


顔を見るなり、駆け寄って心配してくれる。

それが少し気まずい。


「まさか昨日のこと、すまん、そこまで…」


「あ、や、違いますこれは!」


「だったらどうした、この顔は!?」


昨日の喫茶店の事が、まだ頭に残っていたのか。

つい本当のことを喋ってしまった、少し嘘を混ぜ込んで話はするが。

二人しかいない、という事もあった。


「初恋の人に振られたってか!?」


「は、はい…恥ずかしいので言わないでください」


「くっくくくくっ……」


「あっ!笑いましたね!」


「いや、すまん、お前にもそんなことがあったとは知らなくてな、興味がなさそうに見えたから」


「僕だって初めてだったんですよ…」


「大丈夫、俺だって経験あるさ、それに何回女性に振られたか!時間が解決してくれるさ」


妙に説得力がある。

肩を叩かれながら、笑われていたが嫌な気はしない。

むしろ、また少しだけ気分が軽くなる。


「それにここだけの話だがな…」


二人しかいないのに、耳元で話している。


「俺な、和田垣に振られてんだよ」


「えっ!?」


「二人だけの内緒だ…あ、三人か」


そんな事を話していると、続々と人が増える。

僕は席につき、仕事の準備をしていく。


顔を見て驚く人はいたが、声はかけられない。

今は、その方がありがたい。


隣に座った廣瀬も、何か聞きたそうにしていた。

事務所の中では聞けないと感じたのだろう。

その代わり、昼ごはん一緒に行こうと誘われた。



そして昼休憩になり、廣瀬と二人で食事をしていた。

同じく、一部分を隠しながら顔の経緯を説明をする。


「そっか、そんな事が、お前忙しいな」


「なんだよそれ」


「謹慎になって、大ミスやらかして、初恋に振られてって、この一週間濃密だな」


「確かにな、それを言うなら廣瀬だって、仕事辞めるぐらい思い詰めていたじゃないか」


「それもそうだな……」


「ふふっ」


「ははっ」


「あ、そういえばあの先輩のこと聞いたか?」


「いや、そういえば今日は顔を見ていないな」


「刈谷部長と、和田垣先輩が話しを回してくれてな」


「う、うん……」


「別の場所に異動になったよ」


「あ、そうなのか」


「元からあんな性格だからさ、周りからも良く思われてなかったみたいで、誰も庇う事なくな」


「なら、平和だな今の事務所は」


「だな」


「またお礼をしないと」


「三人で飲みにでもいくか?」


「うん、また今度よろしく」


お昼の休憩を終え、事務所に戻る。


戻るとすぐに、和田垣先輩から別室に呼ばれる。


「早速ですが、廣瀬くんから話は聞いたかしら?」


「はい、あの先輩のことでしょうか?」


「そう、ならいいわ…」


「あの、失礼かと存じますが、なぜここまで…」


前から気にはなっていた。

我関せずで、無視する事もできたはずだ。

僕の本心を聞こうとしたり、助けようと知らぬところで動いていてくれたり。



「何人も見てきたからよ、真田くんみたいに辞めそうになって苦しんでいる人を」


「刈谷部長のせいですか?」


「ううん、あれは真田くんだけね」


「あ、そうなんですか」


少しだけ寂しい気持ちになる。

僕だけだったんだ、あの感じはと。


「前にいた部長がね、もっと酷かったの、それこそ刈谷部長に暴言や暴力など…」


「そうだったんですか…意外ですね」


「でしょう?だから、私が出世した時には、後から来た後輩だけは、守れる範囲で守ってあげたいって」


これが本心を聞くという事だろうか。

初めて、和田垣先輩とちゃんと話しをした気がする。

これまで皆と、関わろうともしなかったのだから。


「ありがとうございます」


「いいのよ、私の勝手なお節介だから」


「そのお節介に僕は救われました」


「……これからも、頑張ってね」


「はい、これからもよろしくお願いします」


僕は、そうして部屋を出る。

今日だけで色々な人と話しをした。

ただの雑談かもしれないが、僕にとっては人と人との繋がりを感じれた話しだった。


それは、僕にとって大事な繋がりだ。

そう思える事ができたのは、僕がほんの少しだけ大人になったからなのかと、そう思っていた。


今日は定時に帰る事にする。

少しだけ、大事な用があるのだ。



そう、ここにくるために。

彼女と出逢ったあの喫茶店に。


足取りは軽く、扉を開けてベルを鳴らす。

いつものように挨拶をしてくれる。


「いらっしゃい、いつもの席だね」


「はい、失礼します」


僕はカウンターの席に腰掛ける。

奥のテーブル席には誰もいなかった。

それでも構わない、今日は店主に用事があった。


「ご注文は、いつものかい?」


「はい、でも今日はブレンドコーヒーだけで」


「かしこまりました」


店主は、ブレンドコーヒーを用意する。

後で知ったのだがサイフォン式という、淹れ方らしい、機器もフラスコだったようだ。

口に出さなくて正解だった。


「はい、お待たせ」


肌寒くなっている季節にはぴったりの、ホットコーヒーが目の前に運ばれてくる。

僕は一口飲み、美味しいと感じていた。


「あの、少しよろしいでしょうか」


「はい、なんでしょう」


「覚えているか分かりませんが、以前に僕に伝えてくれた内容についてなのですが」


「覚えていますよ、“あなたは大人です”とお話しした事であればですが」


「その事です、その事について詳しく伺いたく…」


昨日の晩、別れを告げてから気になっていた。

彼女からの話を聞いて、僕は大人なんだと。

相手の事を考える、それが大人だと聞いたばかりだ。


それでも、店主の言葉には違う意味に聞こえていた。

それだけが、ずっと引っかかっていたのだ。



「では尋ねますが、大人とは何だと思いますか?」


「相手の事を考えて行動する事だと教わりました」


「確かにそれもあります、でも私にとっての大人とは少し考え方が違います」


「それは一体…」


「大人とは責任を持つ事です」


「責任…ですか」


「何をするにしても、責任を負うのは自身です。子供のうちは親が責任を負いますよね?」


「はい」


「では,大人になってからは自身の行う行動に対して責任を持つ事です。自由に何してもいいですが、それには全て責任がつきまといます」


「確かに、そうですね…」


「その責任を感じ、責任の意味を知る事です」


「責任の…意味、ですか」


「人を殺しては駄目、人の物を盗んでは駄目、交通ルールを守りましょう、法律を守りましょう」


「………」


「それらは全て、意味があって存在しています。それらを守る行動こそが責任なのです」


「それを破る事は責任を負う事ですね」


「そうです、そして…未成年の子に手を出さずとも、二人でいるところを見られたらどうなるか…とか」


「えっ…なんで…」


確かに常連で、二人で話しているのは知っている。

仲良さげに、楽しそうに話していたのも。

出逢いはここから始まったのだから。


「なので、私はあの時に言いました、“節度ある行動と、責任がつきまといます”と」


「はい、確かに言われていましたね、もう気づいた時には遅かったですが…この手から離れていたから」


「何があったのかは詮索しませんが、時には立ち止まり考える事も必要です。それもまた、大人になるために必要な事ですから」


責任、その事を何も考えていなかった。

無意識に逃げていただけなのだと思う。

彼女の人生を背負う責任、それは僕にとって、支えきれないほどの重さだったのだ。

その事に無意識に気づき、抱える前に逃げた。


もう少し、強くなれたらな。

ほんの少しだけ、大人になれていたらと。

後悔しても遅いが、それでも後悔せずにいられない。


「ありがとうございます、大事な事に気づきました」


「いえ、年寄りの戯言と受け取り下さい」


「本当にありがとうございました」


「いえいえ、またいつでもいらしてください」


僕は席を立ち、会計をお願いする。


すると、店主がカウンターの裏から、一冊の本を僕に渡してくる。

どこかで見たような本だった。


「あ、これは…」


「はい、あの子から渡してくれと頼まれました」


この本は、一回だけ見かけた。

見られて欲しくないようにすぐに隠した本だった。

それを僕に、一体なぜ。


「それで、何か言っていましたか」


「なにも聞きていません、ただこの本を渡してくれませんかと、それだけをお願いされました」


「わかりました、ありがとうございます」


僕は本を受け取り、鞄にしまう。

会計を済まし、扉に手をかける。


「そういえば最後に、今更なんですが、このお店の名前って何ですか?ネットにも、外の看板にも書いてなかったので」


すごく嬉しそうな表情をこちらに向ける。


「このお店はですね、【迷い(人生)】と言います、どうです?変わった名前でしょう?」


「はい、とても、何故どこにも書かないので?」


「昔から人に悩み相談をされる事が多くてですね、悩みがあるという事は、人生の迷い道に迷い込んでしまった時ぐらいだと思うんです」


「確かにそうですね」


「そんな人たちが、気軽に話をできる場所を作りたくて、ここを作りました」


「ふふっ、私も見事に(人生)に迷っていました」


「でしよう?そして、不思議な事に、この店の名前を気になる人は皆、人生の迷い道の最中なんです」


「同じ人がいるんですね」


「そうですよ?そんな人の話を聞いて、相談に乗っているのが私の趣味みたいなものでね。それで、店の名前はどこにも書いていないのですよ」


「とても素敵な理由でしたね」


「ありがとうございます、また迷うような事があればいつでもいらして下さい」


「迷わなくてもくると思います…ではまた」


そう言って、ベルが鳴り店を出ていく。



残された、この本を読むために急いで戻る。

子供が好きなものを買ってもらった時のように。

早く開けたくて、走って戻るように。

家までの道を一直線に、走り抜けていく。


24話ご完読いただきありがとうございます。


長くも短い人生の中で、様々な人と出会うかと思います。その一人一人は、たったの一回だけの出会いだったとしても、その瞬間、その時間は巡り会えた奇跡だと思います。


街の中ですれ違った人も、いつかどこかで会えるかもしれない、話しをするかもしれない。


そんな人と出会えたことは奇跡だと思います。

この作品を読んでくれた方も、奇跡だと思います。

そんな奇跡の積み重ねが、これからの人生を照らしてくれる、そんな気がします。


さて、のこり二話ですが。

また次話でもお会いしましょう(^^)


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