23杯目.別れの言葉はありがとう
どうも、ノウミと申します。
まだまだ作品数、話数としては少ないですが、これから皆様の元へ、面白かったと思って頂けるような作品を随時掲載していきますので、楽しみに読んでいただければと思います。
沢山の小説がある中で、沢山の面白い作品がある中で私の作品を読んでいただけた事を“読んでよかった”と思っていただける様にお届けします。
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思わず足が立ち止まる。
少し歩けば家に着くが、スマホの画面を見る。
表示された名前に、また心臓が締め付けられる。
ずっと待っていた、本城さんからの電話だ。
僕は迷うことなく電話に出る。
「も、もしもし!?」
「……お久しぶりです」
久しぶりに声を聞いた。
ずっと待っていたからか、胸が苦しい。
何を伝えたらいいのかも分からない。
ただただ冷静を装って話をする。
「久しぶり、元気でしたか?」
「はい、すみません、連絡できなくて」
声に元気がない。
それはそうだ、無理して電話している可能性もある。
ただ、これが切れたら終わりだと、そう感じる。
できるだけ会話をする為、考えて話す。
相手の気持ちを考えながら。
「忙しかったでしょうから」
「はい、修学旅行に行ってたので」
確かに言っていた。
それで電話できなかったのかと、少し安堵する。
「……あ、あの日は急にすみませんでした」
「いえ、こちらこそすみません。何も考えずに無責任な事を言ってしまっていました」
「あれは私が悪かったので…」
気まずい、会話が続かない。
またいつものような感じになってしまいそうだ。
「色々、思い悩む事があったんですよね?」
「うん、ちょっとね…」
「それで…」
「あのね、実はね言ってなかった事があるんだ」
「言ってなかった事?」
「うん、もう会えないって」
飛び込んできた言葉に、耳を疑う。
全身が脱力した感じがした。
会えないとは、どういう事なのか。
「え、それって…」
「ごめんなさい、じゃ…」
「ちょっと待ってください!」
ここで電話を切れば終わりだと思った。
僕の独りよがりかもしれない、それでも本心を聞かない事には、お互いに何も残さないまま終わると感じた。
だから引き留めて、答えを聞く。
なぜ会えないのかと。
「理由を聞かせていただけませんか、私が悪かったのであれば,受け止めますから」
「………」
「これで終わりにしたくないって思うのが本心です」
返答がない、電話が切れたわけではないが。
それでも無言のまま時間だけが過ぎる。
「楽しかったって思っていたのが僕一人だけだったとしても、悲しい終わり方だったとしても、それでも、最後に本当の事を聞いておきたいんです」
「………」
何も帰って来なかった。
本心を伝えたが伝わらなかったのだ。
諦めて、せめてもこちらか電話を切ろうとした。
そこまでさせるのは、酷だと思ったから。
「楽しかったです…」
「えっ?」
「楽しかったのです、私も…」
「……僕も、すごく楽しかったです」
「でも、駄目なんですね」
「駄目とは?」
「見られちゃって」
「親にとか?」
「いえ、学校の同級生に…」
「それの何が問題…」
僕は気づかなかったのだ。
自分の事しか考えてなかった、僕には。
「あの人誰って、お金貰ってるのって」
意味がわからなかった。
そんな事はしているはずもないのに。
手すら握っこともないのに。
「初めて見られたのは、本屋さんから出た時」
「かなり前ですね」
「うん、その後には旅行帰りの時にも、車から降りて帰るところを見られてたみたい」
「それは……」
「初めて見られた時から、ずっと噂にはなってたみたいなんだよ、修学旅行で問い詰められちゃった」
声が震えている。
僕は自分が嫌いになる、そんなにも前から本城さんは、ずっと独りで悩み続けていたのだと知る。
言われてみれば、制服姿とスーツ姿の人が頻繁に会っているところを目撃されたら、誤解されるだろう。
僕はこの時、初めて知った。
周りにどう見られているかを考えないといけないと。
「何もしてないのにね、手すら握らなかったのに、ただただ楽しかっただけなのにね」
すすり泣く声が、スマホ越しに聞こえてくる。
先ほどより胸が苦しくなってきた。
声が出せないほどに、締め付けられる。
「もっと色んなとこに行きたかったな……」
「僕も、同じ気持ちです…」
「だからね、あの旅行で最後にしようって、だから名前も呼ばないようにして、区切りをつけようって」
「そういうことでしたか」
「些細な抵抗だけどね」
一つ一つ明かされていく。
本城さんの秘めていた思い、起こっていたこと。
僕の知らなかった、知ろうとしなかったことが。
それは、言葉の全てが鋭い刃となって、僕の心を切り刻んでいく。
それでも、本城さんは僕以上に辛い思いをしていた。
「だからね、もう会えないんだよ」
嫌だと否定したい、今すぐに会いたいと伝えたい。
この想いを素直に伝えれたらどれだけ楽だろうか。
でも、それはできない。
「あのね、最後のお願いなんだけど」
「なんでしょうか」
「私を遠くに連れ出してくれる?」
抑えろ、これ以上は。
僕には何もできない、お互いに幸せにはならない。
飛び出す言葉を、湧き出る感情を必死に抑える。
震えそうになる声を我慢する。
僕が涙を流すことすらも、許してはいけない。
抑えろ…止めろ…堪えろ…耐えろ……。
必死に自分に言い聞かせ、答えを出す。
「すみません、それはできません」
(はい、僕と一緒に行きましょう、遠くへ)
本城さんの震える声が、止まった気がする。
止まったのではなく、抑えているのだろう。
「うん、知ってた…ありがとう」
お互いに、声を抑えている。
漏れ出す本心を必死に抑えながら。
そして、最後の言葉を交わす。
「それじゃあ、さよならだね」
「はい、さよならですね」
「………」
「短い間でしたが、ありがとうございました」
「あーあっ、こんな綺麗な人もう現れないかもよ?」
「だと思います、惜しい事をしました」
「もうすぐに、ハロウィンやクリスマスもあるのに」
「きっと楽しかったでしょうね」
「ふふっ、きっとね………」
最後は僕の方から答えよう。
最後ぐらいは、大人として、僕がしっかりと…。
「それでは、本城さん…今まで本当に楽しかったです、ありがとうございました」
「うん、お元気でね、真田さん、今までありがとう」
さよならは告げない。
僕の些細な抵抗だ。
終わりのない想いをいつまでも。
一人になったと伝える音が響く。
ありがとうの言葉を最後に、電話が切れた。
不思議と涙は溢れなかった。
言い表せない感情だけが、心の中で渦巻く。
これで良かったと、自分に言い聞かせながら。
重たくなった体を、必死に歩かせる。
俯いたまま、顔を上げることもなく。
家に向かって…そこに戻るしかないから。
家に着き、鍵を開けて入る。
鞄が滑り落ち、荷物が転がる。
気にも止めず、ベットへと向かう。
すると、部屋の隅に目が止まる。
そこには“氷の華”の絵が置いてあった。
それを見た瞬間に涙が溢れ出す。
もういいと、泣いてもいいのだと。
感情を抑える必要はないと。
会えなくなった彼女を想い、涙を流す。
抱えていた気持ちを、流し出していくように。
それは言葉と一緒に流れていく。
「好きだったんだ、初めてだった、ここまで人を好きになったのは、初めてだから気づかずに今日まで」
全て吐き出す、どうせ一人なのだから。
「会いたいな、どこか旅行に行きたい、クリスマスだって一緒に過ごしたい、また笑顔を見たい」
一度溢れたものは止められない。
終わらせないといけない、と分かっているのに。
言葉にするほどに、想いは膨らんでいく。
改めて気付かされた。
本気で好きだったのだと。
「あぁーあ…本当にどこか遠くへいけたら」
そんな事に想いを馳せる。
二人で京都旅行に行く。
寺を巡って、季節を肌で感じるんだ。
写真を撮りながら、絵を描くのを側で眺める。
それだけでも幸せに感じる。
それからは、逃げてきたので同棲を始めたり?
海外旅行に行くのもいい。
海外で感じる風や、空気感。
その場でしか味わえないものを共感して楽しむ。
鎌倉旅行であれだけ楽しかったのだ。
どこにいっても二人なら楽しいだろう。
そう…二人なら……。
僕は絵を眺めながら、眠りにつく。
泣き疲れてしまったのだろう。
色々な夢を見た気がする。
楽しいような、切ないような。
悲しいような、嬉しいような。
そんな感情が、僕の中を巡っている。
“ありがとう”
それだけが残り続けていた。
23話が完読ありがとうございます。
いよいよ二人が話をしました。
お互いに本心で。
最後の最後は本心を隠しましたが。
それでも二人は分かり合えていたのでしょうか。
一人になった瞬間に感情は隠せなくなる。
一人だからこそ色々見えることもある。
そんな事を書ききりました。
あと少しで完結となります。
最後までお付き合い下さい。
また次話でお会いしましょう(^^)