20杯目.失敗からの学びは自分次第
どうも、ノウミと申します。
まだまだ作品数、話数としては少ないですが、これから皆様の元へ、面白かったと思って頂けるような作品を随時掲載していきますので、楽しみに読んでいただければと思います。
沢山の小説がある中で、沢山の面白い作品がある中で私の作品を読んでいただけた事を“読んでよかった”と思っていただける様にお届けします。
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日曜日にも連絡が来る事はなかった。
憂鬱な気分のまま迎える月曜日。
今日は、謹慎明けの初出勤日となる。
あの先輩も今日から出勤のはずだ。
顔を合わせる事にはなるが、どう思われてるか。
嫌な気持ちに押し潰されそうになるが、逃げない。
僕には、ここに来るしかないのだから。
扉を開け、事務所に入る。
「お、おはようございます!」
全員がこちらを向く。
嫌悪、興味、好奇、無関心といったところか。
返答はない、こちらの顔を見て仕事に戻る。
思ってる以上に何も無かったのだ。
席に荷物を置き、刈谷部長のデスクに向かう。
陰口を言われる事もない、何もない中で。
「刈谷部長、ありがとうございます、本日より出社いたします。大変ご迷惑をおかけしました」
深くお辞儀をし伝える。
また怒鳴られるか、嫌味を言われるのだろう。
「お、おう…体調は大丈夫か」
「へ、は…はい」
「そっか、戻っていいぞ…」
「は…い…失礼、します」
刈谷部長からも何も言われなかった。
少しだけ気味悪く感じてしまう。
“戻ってこなくていい”とか、“また給与泥棒でもしに来たのか”とかそんな事を言われるかと。
席に戻ると、いつも通りの廣瀬が隣にいた。
「おっす、おはよう」
「おはよう」
変わらない挨拶を向けてくれる。
それが、とてもありがたく感じている。
廣瀬のあの日の話しを聞いていたが、特に変わらないように見受けられる。
和田垣先輩も、少し遅れて出社される。
席を再び立って、お礼とお詫びを伝えにいく。
「大丈夫だよ、ありがとうねちゃんと伝えてくれて」
「いえ、情けないところを見せました」
「大丈夫、何かあれば相談してね」
「はい、ありがとうございます。失礼します」
席について、パソコンを起動する。
随分溜まっていたメールを確認する。
大半は、どうでもいいような内容だった。
メールを確認していると、声をかけられる。
頭から消えることの無かった、あの声だ。
振り返ると、嫌味な先輩が立っていた。
事務所に入って来た時には、見当たらなかったが。
「先輩、申し訳ございませんでした」
深々と頭を下げ、表面上の謝辞を伝える。
その返しは意外なものだった。
『こちらこそ、すいません』
向こうも、僕より浅いが頭を下げている。
僕がいない間に、何かあったのだろうか。
それだけを残して振り返り、席に戻っていく。
向こうも嫌々だったのだろう。
自分が思う以上に、表面上ってのは分かるみたい。
僕の謝辞もバレてるなと、心の中で思う。
周りが少しざわつき始めていた。
僕たちのやりとりを見て、何か思うとこがあるのか。
まぁ、暫くは仕方がないだろう。
届いていたメールに再び目をやると、権田社長からのメールが届いていた。
サンプルの進捗状況が知りたいとの事だった。
僕はすぐに確認をし、出来上がっている事を知る。
内容の確認をし、間違いがないかチェックする。
それから、数箇所の間違いがあったので訂正。
権田社長には、今日中に出来上がりますと伝える。
それから数時間して訂正したものが届く。
再び内容を精査をして、問題がないことを確認する。
念の為、刈谷部長にも確認をお願いする。
多少気になるところはあるが、そこは打ち合わせしながら修正する方が良いとの事だった。
僕は、その箇所に印をつけていく。
そして、権田社長に出来上がりを報告する。
メールで先に欲しいとの事だったのでPDFにして、いくつかのサンプルと資料を送る。
しばらくして、会社のスマホが鳴る。
画面を見ると権田社長だった。
内容の確認だろうか、と電話に出る。
「あ、お世話になっております真田で…」
「真田さん、これってどういう事ですか!」
僕は、言われた言葉の意味が分からなかった。
何度も確認して問題ないと送ったはずだが。
「あ、あのすみません、これとは…」
「前に言ってたサンプルと違うじゃないか!これ、最初に提案されてたやつだよね?私は、変えてって言ったよね!?」
心臓が、音を鳴らしながら締め付けられる。
頭が真っ白になる。
全身の血の気が引くとはこの事かと、初めて知る。
確かに言われていた。
明るいポップな感じにしたいと。
最初だからそうして欲しいと。
帰りがけに言われたのを忘れていた。
「ちょ!聞いてる!?」
「あ、あのその…申し訳ございません!」
突然の大声に、周りが騒然とする。
スマホを片手に急に謝っているのだから。
周りも気になるに決まっている。
「謝るだけじゃなくてさ!どうすんのこれ!いらないよこんなやつ!」
「すぐに訂正させていただきます!」
「当たり前じゃない!すぐにやってよ!!」
「は、はい、申し訳ございません!」
「で?いつ訂正するの?明日?」
「いえ、同じぐらいの時間がかかるかと……」
「はぁ!?それなら公開する日が遅れるよね!?周りに自慢しながら言っちゃったんだけど!?」
「すみせん!すみません!!」
「いや、すみませんじゃなくてさ!どうすんの!?」
頭が回らない。
謹慎明けという事もあるが、初めての取引に、こんなミスをしてしまっただ。
何をしたら良いのか、どう挽回したらいいのか。
なにも考えが思いつかない。
「もういらないからね!これ!破棄だよ!破棄!」
「いや、すぐに作り直し…」
「もう君はいいよ!別をあたるから!」
ブチッ ツーッー ツーッー ツーッー
「も、もしもし!もしもし!」
やってしまった。
後悔が体を駆け巡る。
時間が戻せれば良いのに、そんな事を思う。
我に帰ると、周りがこちらを見ていたのに気がつく。
最初に廣瀬が声をかけてくれた。
「おい、なんかトラブルか?」
「この前の案件、取引しないって言われた…」
「え?なんかあったの?」
「僕のミスだ…」
すぐに和田垣先輩と刈谷部長を呼んできた。
取り敢えず、別室に移動し説明をとの事だ。
別室に入り、僕と和田垣先輩、刈谷部長だけになる。
「それで、なにがあった?」
僕は二人にことの経緯を説明する。
当初提案していた案ではなく、別のでいきたいと。
それを忘れていて、最初の提案で進めたこと。
それを今日の日まで気づかずにいた。
そして、それを送ってさっきの話に繋がる。
もう君はいいと、取引しないと。
「なるほどな…おい、和田垣これ訂正するのに最短でどれぐらいでいける?」
「そうですね…もう一度からですからね…」
「だよな…よし、俺がやる」
「えっ?」
僕は何をするのか分からず、気呆けている。
もう終わったのだからと。
僕の一つの大きなミスでこの案件は。
「会社の資料はこれだけか?」
「あ、はい…」
「和田垣、午後の会議頼んだ」
「かしこまりました」
そう言うと和田垣先輩は部屋を出ていく。
この部屋には刈谷部長と二人だけになる。
「あ、あの…」
「なんだ」
「申し訳、ございません…」
「………」
資料に目を通し、こちらを見ない。
相当、怒っているのだろう。
一から作り直すと言っていた。
そのための仕事をしているにすぎない。
それが終われば、またこの部屋で。
「謝るのは後だ」
「えっ…」
「こんな事になったのは、俺にも責任がある」
「いや、これは僕のミスで…」
「違う、そうじゃなくて……いや、いい」
そう言うと、何かを言い残し作業を続ける。
次第に、広告のサンプルが出来上がっていく。
見事なものだった。
いつも威張り散らすだけの人だと思っていたのに。
「昔はこうやって自分で何でもやってたものだ」
「僕に何かできますか?」
「車回して、出る準備をしてこい」
「は、はい!」
僕は急いで営業車の鍵を取りに行く。
鍵の場所は、事務所の奥の扉を開けたとこにある。
万が一があってはならないので、鍵をしまうボックスがあり、そのボックスが置かれた部屋に入る。
すると、またあの先輩が絡んできた。
『おい、勝手に潰れてくれてありがとよ』
「どいてください」
『はっ、気に入らねぇ、さっさと辞めちまえよ』
「関係ないですから」
『その態度がうざってえんだよ!』
僕を殴りかかろうとする。が、腕が止められる。
覗くと、廣瀬が先輩を止めてくれたのだ。
「いい加減にしろよ、謹慎明けてすぐこれか」
『てめぇも気に入らねぇんだよ!離せ!』
「離さないよ、これで終わりだからね」
「あぁ!?」
廣瀬がスマホを取り出し、画面を見せる。
そこには、僕が殴られそうになる映像があった。
『てめっ!渡せそれ!』
「よせよ、言ったろ!もう終わりだって!俺だってずっと我慢してきた!あんたにな!!」
『ひぃっ…』
「真田、いけ、後はこっちでやっとく」
「ご、ごめん、ありがとう」
僕は鍵を握りしめ、部屋を出ていく。
部屋の外には人が集まっていた。
どうやら、先程の声が筒抜けだったらしい。
僕は人の隙間を通りながら、会社を出ていく。
駐車場にむかい、営業車を探す。
手前にあった営業車に乗り込み、会社の前につける。
それと同時に刈谷部長が降りてくる。
車に乗り込み、鞄を抱えていた。
「取り敢えず、権田社長の会社に行け」
「は、はい!」
僕はアクセルを踏み、走り出す。
「焦らなくていいから、安全運転で」
「わかり…ました」
先ほどから様子がおかしい。
今までのと全く違うので違和感を覚える。
だがそれは、今は聞かない。
「事務所が騒がしかったが、何かあったか」
「あ、先輩がまた絡んできて…」
「また殴ったりしたのか?」
「いえ!今回は廣瀬が助けてくれました」
「そっか……そうか…」
そこからの車内は会話が無かった。
静かに安全運転で目的に向かっていく。
僕は言われるがままついていくだけ。
ただ、車を走らせてるだけだ。
一度諦めたこの状況、何もできないと思っている。
すでに他の会社が入ってたのでは?
向かっているのも無駄では?
そんな事ばかりが頭に浮かぶ。
刈谷部長はどうなんだろう。
何を考え、何を思いながら向かっているのか。
僕には、聞き出すすべを持っていない。
話してもらえるような状況でもない。
気まずい雰囲気の車内。
ただただ、アクセルを踏んでいく。
20話ご完読ありがとうございます。
学生であれ、社会人であれ大きな失敗は犯してきたかと思います。
そんな時、一人で何とかできる人もいれば、誰かに助けられた人もいるかと。
助けてもらえる人のありがたさは、かなり後になって気づくものだと思います。
また次話でもお会いしましょう(^^)