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2杯目.大人と子供の境界線

どうも、ノウミと申します。

まだまだ作品数、話数としては少ないですが、これから皆様の元へ、面白かったと思って頂けるような作品を随時掲載していきますので、楽しみに読んでいただければと思います。

沢山の小説がある中で、沢山の面白い作品がある中で私の作品を読んでいただけた事を“読んでよかった”と思っていただける様にお届けします。


X(旧:Twitter)でも情報更新しています。

↓是非フォローください↓

https://x.com/noumi_20240308?s=21

いつもの朝、目覚ましの音と共に目を覚ます。

寝起きはいい方ではない、スヌーズを数回設定し、3回目ぐらいでようやく目が覚める。


それでも、目が覚めたとはいいがたい。


毎度の事だが朝は嫌いだ、学生の頃なら寝坊しても怒られる事はなく、軽く注意されるだけで済んでいた。

それに夏休みや冬休み、春休みなど、だらだらと過ごせる大型連休が目白押しだ。


社会に出た今となっては、そこまでの連休は無い、年間休日数なんて考えたくもない。


文句を言っても仕方がない、朝日が昇れば起きて働いて、日が沈むと仕事が終わり家に帰って寝る。

その変わらない日々を果て無く続けている。


あれから1ヶ月ぐらいか、変わらない日々の終わりに、少しの彩りを与えてくれた彼女と出逢ったのは。

あの、喫茶店にもしばらく行けてないな。


そう思いながら、会社へと向かう準備をする。

今日も変わらない1日が始まる。


最寄りの駅にはいつも歩いて向かっている。

もう、四年通っている歩き慣れた道だ。

慣れた道を歩んでいると、駅の方が騒がしい。


駅の中へ入っていくと、アナウンスが響いていた。


『只今、上下線共に運転見合わせております』

『復旧の目処は立っていません、今暫くお待ち下さい、ご迷惑をお掛けしております』


近くの人に思わず尋ねる。


「何かあったんですか?」


「人身事故らしいよ…結構かかるみたい」


「そうっすか…ありがとうございます」


僕は、駅の出口の方へと向かい歩いていく。

会社までの通勤ルートは、この電車のみだ。

渋々、刈谷部長に電話をかける。


「あっ、お疲れ様です、真田です」


「お疲れ様、朝からどうした?」


僕は状況を説明した、しばらく出社出来ないと。


「了解、どうせ時間通りに来ても仕事無いんだから、復旧したら出社しておいで」


「はははっ…すみません」


少し棘のある言い方に、作り笑いで返す。


電話を切り、これからどう時間を潰そうかと考える。

家にいてる時に、情報アプリを見ておけば、とスマホの時計を見ながら、頭を掻く。


目線を上げると、柱の近くに目が止まる。

あの時の、喫茶店にいた彼女…本城さんがいた。

どうやら、同じく足止めを食らっているらしい。

声をかけるような間柄では無いので、気にしないようにし、駅の出口へと歩き出そうとする。


『ねぇー?ねぇー?こんにちはっ』


「………」


『君も足止めなんでしょう?俺と一緒に時間潰さない?その方が楽しいよ?』


ナンパだろうか?学生らしくない茶髪に、制服姿の男の子が声をかけていた。

思わず、声をかけたくなるその気持ちは分かる…。


『お互いに電車来るまで暇じゃん?カラオケでもいかない?もち!おごっちゃう!』


「……結構です、お一人でどうぞ」


何とも冷たい返答だろう。

男の方も気付けばいいのに、可能性は無いぞ。


『じゃあさ!カフェでもどう?お洒落なとこ知ってんだよねー!」


彼女の眉間に力が入る。


「しつこいです、私はどこにも行きません」


『…あのさぁ?俺がここまで言ってんだよ?』


おっと、何やら雰囲気がよくない。

助けた方がいいのか?でも、変に顔見知り程度だし、逆に迷惑だと思われないだろうか。


そうこう考えていると、僕と目が合う。

どうやら助けて欲しいらしい…と思う、思うのだ。

僕は勇気を振り絞り、二人の間に入る。


「やぁあやぁ、ごめんね待たせたね!百合」


「もぉー、待ってたよ!おかげで変な人に声かけられるし、お兄ちゃんいつも遅すぎ」


これで大丈夫だろうか?

冷や汗をかきながら、つたない演技を始める。

とっさに返した本城さんも見事だと思う。


『ちっ、連れがいんのかよ』


そう言い残すと男は去っていく。

僕は後をにごさないように、軽く挨拶を交わし、その場を立ち去ろうとする。


「あっ…」


振り返ると、何か言いたげな顔を向けている。


「あの、喫茶店にいきませんか?…いつもの」


「え?いいの?大丈夫?」


「はい、私も時間を持て余していたので、真田さんさえよろしければですが」


二つ返事でOKをする。

2人はそれから、何も話さずに、喫茶店へと向かう。

なんとなく少しだけ、気まずい。


ベルを鳴らし、扉を開けて彼女を先に入らせる。


「おや、お二人同時とは珍しいですね」


いつもの店主が笑顔で迎える。


「いやー、電車で足止めくらいまして…それで」


「あぁ、なるほど…それで人が多いのですね」


「かもしれませんね」


私は、席をどうするか尋ねる。

どうやら、カウンター席がいいらしい。

いつもは座る勇気がなく、憧れていたとの事。


私はいつもの席に、彼女は隣に座る。

店主はこちらを詮索する事なく、注文を聞く。


二人は答える「「ブレンドコーヒー」」で、と。


お互いに話す事なく、コーヒーを作る音と心地よい音楽が混ざり合うように、店内に耳を傾け楽しむ。

この音が、少し心地よく感じてきている。


すると、二人の間にコーヒーが置かれる。


「お待たせしました」


隣に座る彼女は、カップをそのまま口へと運ぶ。

ミルクも砂糖もなくそのまま飲んでいる。

僕もそのまま飲む事にする。が、やはり苦い。


不意に彼女が笑う。


「ふふっ、コーヒー苦手なんですか?」


不意の笑顔と言葉に、また脈打つ。


「いや、好きですよ?このコーヒー」


無理して取り繕い、もう一度口へとカップを運ぶ。

だが、彼女はこちらを見ながら、変わらずに微笑む。


「実は、私…苦いコーヒーが苦手なんです。飲めたら、大人だなぁって、それで飲んでるんですよ」


彼女はこちらに合わせるかのように、カップへ砂糖とミルクを入れていく。

それを聞くと、少しだけ恥ずかしくなる。


「実は、僕もなんです…最初は、なんとなくで入ったこの店の雰囲気に押される形で頼みました」


「やっぱり、一緒ですね…私たち」


彼女は、こちらを見透かしてるかのように見つめる。

また恥ずかしくなった気持ちを、苦くほんのり甘いコーヒーで流していく。


それから2人は、ほどけたかのように色々な話を始めた、なぜこの店に入ったのか、コーヒーが大人の飲み物だと思っている事とか。


「私は、周りにうまく馴染めないんです。流行りの音楽や、映画。趣味の話など何も共感できなくて」


「そういう事もありますよね」


「大人になれば、色々自由になるじゃないですか?自分で好きな事を選んで、好きに遠くまで行って、好きにお金を使って…そうなりたいと思うんです」


「…そうでも…ないよ」


つい、呟いてしまう、そんな事はないと。

声が小さかったのか、彼女には聞こえてなかった。


「だから、思ったんです…どすれば大人になれるのかって、どうすれば大人と認められるのかって」


「それが、苦いコーヒー?」


「はい!苦いコーヒーを飲んだり、お酒を飲んだり、車で遠くに行ったり、欲しいものを悩まなかったり、好きな人と結ばれたり…」


彼女の言葉が、分かるようでわからない。

今の僕はどうだうか、胸を張って大人だと言えるような、自分でいられているのか。

どれも出来るが出来てはいない、彼女の“大人になる”の意味が、今は分からないでいる。


「でもまず!学生であるうちは大人ではないと思うんです!年齢のせいで、出来ない事も沢山あるので…でも少し背伸びをしたいなーって思うんです」


そう話しを続けている彼女の瞳は、輝いていた。

僕の濁った目とは違い、未来が明るいものだと、そう信じている人の目をしていた。


「だからこうして、大人になる予行演習のつもりで、今の私に出来る、風情ある喫茶店でコーヒーを嗜んでいるのです」


「大人になるってどういう事なのか、考えた事もなかったな…」


そう呟くと、スマホに通知が届き震える。

彼女も同じタイミングで通知が来たようだ。

お互いにスマホを取り出し、画面に目をやる。


「あっ!電車、復旧したみたいですよ」


「そっか、じゃあ行かなきゃね。今日はありがとう、とても楽しかったよ」


少し名残惜しい気持ちを抑えながら答える。


「いえいえ、こちらそご清聴ありがとうございます」


つい吹き出してしまった、つられて彼女も笑う。

こんなに楽しいと思ったのはいつぶりだろう?

久しく忘れていた気持ちが、戻ったようだ。


「ちなみにー?財布って忘れてたりします?」


「大丈夫、ちゃんとあるよ。またの機会に」


「ちぇっ、またの機会に…ですね」


そう言うと彼女は財布を取り出し会計を済ませる。

僕も後に続いて会計を済ませる。

2人で店主に、騒がしくした事を謝りながら、ベルを鳴らしドアを開ける。


駅までは一緒なので、並んで歩いていく。

不思議と、来た時の気まずさはないものの、あまり話す事なく、お互いに別々のホームで分かれていく。

彼女は大きく手を振りながら、僕は小さく返す。



20歳を過ぎれば、大人になる。

ただそれだけの事だと思っていた。

彼女の言葉が、頭にずっと残っていた。

揺られる満員電車の中で、周りに聞こえないかと心臓の鼓動を気にしながら、会社へと向かう。


子供と大人の境界線。

はっきりしてそうで、とても不透明なこの境界線は、学生である彼女には辛いものなんだろう。

僕は学生時代には考えた事もなかった。


当たり前に過ぎる日々に、何も考えず、何も起こさずに生きてきたのだ、それが楽だった。

変わりゆく周りの変化に、見ないようにしながら。

2話も完読ありがとうございました。

学生時代に大人になりたいなーって思っていませんか?

大人になる意味もわからずに、ただいい部分を切り取って考えてたんだなと、今となっては思います。


そんな2人の物語はまだまだ続きます。

次話で是非、お会いしましょう(^^)

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