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19/26

19杯目.秋の雨は寒くて寂しい

どうも、ノウミと申します。

まだまだ作品数、話数としては少ないですが、これから皆様の元へ、面白かったと思って頂けるような作品を随時掲載していきますので、楽しみに読んでいただければと思います。

沢山の小説がある中で、沢山の面白い作品がある中で私の作品を読んでいただけた事を“読んでよかった”と思っていただける様にお届けします。


X(旧:Twitter)でも情報更新しています。

↓是非フォローください↓

https://x.com/noumi_20240308?s=21

目が覚めた時には日付が変わっていた。

ビールを飲んでそのまま寝てしまっていたようだ。

でも、どこか頭は冴え渡っている。


とりあえず、シャワーを浴びる事にする。

身体中からお酒の匂いを感じていた。

このままでは気持ち悪いと思うから。


シャワーから上がると、ベットの上に置きっぱなしになっていたスマホに目が移る。


昨日から悩んでいた、電話をかけようかと。

あの別れ方は嫌だと思っていたから、もう一度だけでいいから話をしたい。


ただ、話す内容は何も決まっていない。

何を話したら、何を伝えたらいいかさえ分からない。

それでも、電話をかけずにはいられなかった。


濡れる髪をそのままに、スマホを持ち上げる。

着信履歴を開き、一番上の名前に目をやる。


[ 本城 百合 ] 


となっている。


画面を触れる指が震えてくる。

緊張か、恐怖か…武者震いでない事は確かだ。


意を決して指を画面に触れる。

本城さんへ電話をかける為に。

即座に耳に当て、神経を耳に集中させる。


コール音が鳴る、コール音だけが鳴り続ける。

電話に出る気配もない、留守電にも切り替わらない。

僕は諦めて電話を切る。


折り返してくれるのを、祈るように待つ事にする。

夜も遅いし、仕方がないと言い聞かせながら。


「今日はこの後、眠れそうにないな…」


そう呟くと、夕食を食べてない事に気づく。

昼もまともに食べていないので、腹が減っていた。


冷凍庫に、今日買った冷凍チャーハンを入れていたので取り出しレンジで温める。

深夜に食べる、こう言った食べ物は美味しい。

昔からそんなことを思っていた。


受験の時や、夜通しゲームをした時など。

深夜に食べる冷凍チャーハンや、カップラーメンなどが妙に美味いと感じる。


カップラーメンを買ってない事が悔やまれた。


おなかが満たされたのか、少し眠気が出てくる。

それでも折り返される事はなかった。

スマホはずっと静かなものだった。


気を紛らわせようとテレビをつける。

この時間だ、碌なものはなにもやってない。

逆に気が散ってくる。



なんとなく、外に出てみる事にした。

外はとても静かだ。

真っ暗で街灯の灯りだけが、照らしている。

雨上がりの夜はどこか幻想的だ。


肌寒く、誰もいない夜道を歩く。

音のない世界に、僕の足音だけが鳴り響く。

アスファルトを踏む音、水が跳ねる音。


人もいなければ、車も通らない。


冷静に色々な事を考えるには十分だった。

近くに公園を見つけ、濡れたベンチに腰掛ける。

雨上がりだと気づいた時には遅かった。

諦めてそのまま居座る。


「何がいけなかったんだろうか……」


本城さんと出逢ってからは、幸せな日々だった。

あの日のコーヒーが今も鮮明に覚えている。


初めての喫茶店に、焦りながら頼んだっけ。

飲めないコーヒーを何も分からずに。

今となっては、コーヒーの苦味が丁度良く感じる。


それも本城さんのおかげだったと思う。

僕と一緒で、飲めないのに無理をして頼んで。


「ははっ…」


思わず笑みが溢れる。

大人になりたいからって言いながら、コーヒーをあたかも好きですよって雰囲気で飲む姿に。


思えば、あの日から惹かれ始めていたのかも。

目が離せなくなり、僕も見栄を張って真似をした。


氷の華の絵を見せられた時、妙に納得した。

初めて会ったあの日から、氷の華ように美しい人だと、そう思っていたからだ。

触れると壊れそうな、想いを込めると溶けそうな。

そんな脆くも繊細で、美しい氷の華に。


本城さんにとっては別の意味らしいが。

氷のように冷たく、華のように美しい。

どこがだ、どこが冷たい要素がある。

冷たくしているのは周りのくせに。


いや、僕も同じか。

同じく冷たくさせてしまったのだから。


でも、僕にとっては氷の華でありながら、花のような咲き誇る笑顔を魅せる素敵な女性だった。

学生でありながら、大人になりたいと願う。

僕よりも大人らしい雰囲気をまとった少女だ。


会えるならもう一度会いたい。

話せるならもう一度話したい。

伝えるならもう一度伝えたい。


たが、時はすでに遅かった。

明日になれば折り返しがあるだろうか。

また“真田さん”って呼んでくれる日が…


「あれっ……」


そういえば旅行の日から名前を呼ばれてない。

呼ばなくても伝わることもあったが、一度だけ呼ばれた時は“()()()”だったような気がする。


いつからおかしくなった?

いつから変わってしまった?

僕が変わってしまったのか?


何も分からない。

本心も、心のうちに秘めていたことも、今となってはこの電話だけが繋ぎ止めている。

電話が繋がらなければ、何も出来ないのだから。



すると、声をかけられる。

思わず我に返り、顔を見上げる。


『お兄さん?大丈夫?』


「眩しっ」


『あぁ、ごめんごめん、こんな雨の日に、こんなとこで何してんの?』


警察官に声をかけられた。

ふと周りに意識を向けると雨が降っていた。

全身がずぶ濡れになっている。


「あ、いや…その…考え事を……」


『ほんとに?身分証とかある?』


「あ、はい」


僕は、財布から免許証を取り出し見せる。

雨の中ライトで照らしながら確認をしていく。

念の為と、持ち物検査もされる。


色々聞かれて、問題ないと分かると解放される。


『じゃあ、いくから風邪ひかないように気をつけて』


「はい、すみませんでした」


この時期の雨は体に悪い。

前に体調を崩したばかりだったから。


急いで家に戻り、次は風呂を沸かす。


また熱を出すのは勘弁したい。



「あ、あぁ〜あぁぁぁあ……」


冷え切った体に、温かい風呂は効く。

全身の強張りが解きほぐされていると感じる。


「このままじゃ駄目だ、本城さんも、仕事も」


お風呂に身を溶かし、そう考える。

何もしない事には何も起きない。

何も起きない事は、何も変わらない。


まずは連絡を待つ事にする。

ショートメッセージも送り様子を見る。

これ以上に出来ることは無いのだから。


「明日は喫茶店に行くか…」


風呂から上がり、身体の雫を拭き取る。

湯冷めしないように、髪もしっかりと乾かす。

そして、暖かい布団に身を包み眠りにつく。



翌朝、目が覚めると熱は出ていなかった。

今日は土曜日なのでもしかしたらと期待をする。

いつもの服装に着替え、外に出る。


雨はまだ降っていた。

傘を差し、あの喫茶店へと向かうことにする。


昨日は、足が止まった看板の前に立つ。

深呼吸をし、通路へと入っていく。

慣れた道のはずが、いつもより遠く感じる。


喫茶店の前に着き、扉の取手に手をかける。

いつもの光景が待っていると信じて。


そして、いつものベルが鳴り店内に入る。

迎えてくれる店主はいるが奥には誰もいない。


「いらっしゃい、いつもの席だね?」


「はい、失礼します」


店内を見渡すが、本城さんの姿は見えない。


「ご注文は?」


「あ、ナポリタンと食後にコーヒーを」


「いつものですね、かしこまりました」


いつもの注文だが、いつもの人はいない。

通い慣れた喫茶店がどこか他の店に感じる。

奥の席を何度見ても誰もいない。

不思議と、店内は賑わうのに座っていない。

あの奥の席には、誰も。


「はい、お待たせ」


「ありがとうございます」


僕はナポリタンを食べ進める。

美味しいはずなのに何かが足りない。

そんな気持ちになる。


「あの子、今日は一緒じゃないんですね」


「えっ、あ…はい…」


「なにかありましたか?」


「いえいえ、たまたまですよ、それに待ち合わせしてたわけじゃないですからね」


「そうなんですか?」


「そうなんです」


「何もないなら良かったです…」


「それってどういう…」


「ん?前に話しましたよね、()()()()()()()って」


「また…ですか…」


またここでも聞かせる事になるとは。

()()()()()()()

僕が今、一番聞きたくない言葉だ。


「すみません、何か言いましたか?」


「いえ、なんでもないです」


ナポリタンを食べ終わり、コーヒーを飲む。

苦さが口の中に広がる。

好きになったはずのコーヒーが辛く感じる。

何故か全部飲み干せなかった。

半分ほどの残し、会計にする。


最後ほどの会話と、コーヒーを残した事が申し訳なくなり、下を俯いたまま店を後にする。


外はまだ雨が降っていたか。

落ち込んだ僕に冷たく刺さっていく。

この雨が周りの音を消し、僕を孤独にさせる。


傘を刺しているが、雨が頬を伝う。

穴が空いているのだろう、買い替えないと。


俯いたまま体が起こせない。

視界がぼやけている。


傘を買い換えようが、この雨は頬を伝う。

僕の心から溢れ出しているものだから。

手に握られたスマホは、未だ音が鳴らない。

待ち望んだけど連絡はない、ここにもいない。


もう会えないのかと、話す事も出来ないのかと、押し寄せる気持ちを抑えれなくなっていた。

行き場のない気持ちが、僕の中を乱している。


もう、何もできないのだから。

19杯目ご完読ありがとうございました。


登場人物が基本的に一人だけ、自問自答だけ。

書ききるの大変でしたー…

何回も読み返して,訂正したを繰り返して投稿。


どう感じたのかまた教えてください。


次話でもお会いしましょう(^^)

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