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18杯目.本心は他人に見えない

どうも、ノウミと申します。

まだまだ作品数、話数としては少ないですが、これから皆様の元へ、面白かったと思って頂けるような作品を随時掲載していきますので、楽しみに読んでいただければと思います。

沢山の小説がある中で、沢山の面白い作品がある中で私の作品を読んでいただけた事を“読んでよかった”と思っていただける様にお届けします。


X(旧:Twitter)でも情報更新しています。

↓是非フォローください↓

https://x.com/noumi_20240308?s=21

昨日、謹慎を言い渡され僕は自分の家にいた。

会社に出勤することは出来ない。


普通の平日に部屋でのんびりしている。

クビになる覚悟ができていた僕にとっては、案外気楽なものらしい、後悔はないのだ。


逆にどんな事をしようかと考える。

転職サイトを見るもよし、漫画を全部読み返すもよし、溜まっていたドラマを観るもよし。


そんな中ふと思い出す、“真っ昼間に飲むビールは背徳的で最高に美味しい”と。

こんな時にしか出来ないのだ、やってみよう。

明日からのご飯も、買い溜めしておきたい。


早速寝巻きから着替え、外へと繰り出す。


外は生憎の雨だが関係ない。

いつもなら雨の日は外出しないが、今日は違う。

部屋にいては、嫌な事を思い出すからだ。


傘を差し、肌寒い空の下を歩く。

そういえば、旅行の最後には雨が降っていた。

そんな事を思い出してしまう。


静かに一人になると、本城さんのことを考える。

楽しかった思い出や、からかわれたこと、笑顔や怒った顔など…短い時間だったが、沢山の思い出が残る。


前に、一人は嫌いって言ってた意味が分かった。


心に抱いてしまった、特別な感情も。


そんな事を考えていると、いつもの喫茶店に繋がる道の前で足が止まる。

そこにはいつもの看板が置かれていた。


僕は、そこに入ることは出来ないでいた。


本城さんがいたらどうしよう、いなかったとしても何を想うだろうか。

少し怖くなり、その道を避けて通る事にする。


最寄りのスーパーに到着すると、買い物を済ます。

数日分の食料と、缶ビールを二本ほど。

お酒はあまり得意ではない、今回も興味本位だから。


かなりの重さになったが、持てない程ではない。

両手に大きな袋を抱えて雨の中、家に帰る。


ふと顔を見上げると、黒髪を揺らしながら歩く前の女の人に目がいく。

後ろ姿だか、面影を感じる。

間違えるはずがない、そう思った時。

体は動いていた。


「あ、あの、本城さん!」


振り返る事はない、無視されているのだろう。

僕の方を気にすることもなく、歩いていく。


僕は駆け出し、通り過ぎる。

そのまま振り返り、もう一度告げる。


「本城さん!僕です、真田です!」


が、本城さんでは無かった。

後姿がよく似た別人だったのだ。

気持ち悪い人を見た目をしながら、去っていく。


よく見ると、その後ろ姿は似ても似つかなかった。

思い返せば今はまだ、授業中だった。


何で勘違いをしたのだろう。

どれだけ未練が残っているのか。

自分からは何も動かないのに、未練だけが募る。


僕は、袋を持ち直して家に帰る。



家に帰ると、足元は絞れるほどに濡れていた。

早速部屋着に着替えて準備をする。

時刻はお昼を指していたので、丁度いい。

ビールの蓋を開け、ご飯を食べようとする。


すると、インターホンが鳴る。


買い物もしていないし、ちょっと疑う。

勧誘か宗教か、まともな訪問ではないだろう。

居留守を使おうと思ったが、万が一のこともあるのでインターホンに答える。


「…はい」


「よう、真田…俺だよ、廣瀬だ」


「へ?なんで?」


「いや、ちょっと…いいかな?」


こんな昼間に、仕事のはずだが。

刈谷部長に何か言われて来たのだろうか。

嫌な予感がするが、部屋に案内する。


「おじゃましま〜お、片付いてんな」


「たまたまだよ…」


「ははっ、昼間っからやってんな」


「背徳的で美味しいっていうじゃん?」


「確かに」


座椅子は一つしかないので、僕がベットに座る。

廣瀬に座椅子を渡して、お茶も用意する。


やはり仕事中なので、ビールはダメらしい。

外回りの間に寄ったそうだ。

何の用事だろう。


「それで、急にどうしたの」


「元気にしてるかなって」


「元気にはしてるよ……ってそれだけ?」


「いや、それだけっつーか、それだけか」


「珍しく歯切れが悪いな、どうした?」


「あの、さ…」


どうやら悩みがあるそうだ。

こんな状況の、こんな僕に言われても正直困るが。


「今の会社を辞めようかと思ってる…」


「僕に言うか、それ」


「確かに、前に話そうとしたんだが、タイミングが合わなくてな……」


「あ、この前昼食べた時か」


「そう、その時にな」


「理由は?」


その理由は意外なものだった。

僕をこんな状況にした先輩が原因らしい。

後から入って来て、成績を追い抜かれたのが気に食わなかったのか、陰でいじめを受けていたと。

初めはイタズラメールを送られたりと、そんなに困るものでは無かったが、次第にやることが過激になる。


上司へのありもしない陰口、噂話。

ひどい時には書類を捨てられたりなど。


そんな状況に耐えれなかっただそうだ。


「でも,昨日のお前を見て少し気が晴れた」


「なんだそれ」


「だから、“ありがとう”って言いに来た」


「いらないよ、勝手にやったことだ」


「それでもありがとうを言いたかった、それに…苦しんでいるのに気づいてやれなくてごめん」


「いいよ…」


「俺たち、同じような境遇にいたのにな…」


僕にしてみれば意外だった。

勝ち組の、成功街道を一本道で歩んでいる奴だと思っていたからだ。

いつも明るく、こちらを気にかける余裕がある。

周りとも上手くやれているように見えていたし。

悩みなどなく、何事も上手くいく奴だと。


話してみないとわからないもんだと思う。


本城さんも抱えていたものがあったのだ。

僕には、本城さんも廣瀬も、抱えて苦しんできた事に何も気づいていない。


気づこうとすらしていなかったのだ。

何も分かるはずがない、理解できないからと思い。

僕とは違うのたがらと。


「なんか、ごめんな、こんな大変な時に急に押しかけて来てしまって」


「いいよ、ありがとう、気分転換になったよ」


「こちらこそ、変な話を持ち込みました」


「今は辞めたい気持ちは?」


「正直、完全になくなったわけじゃない、ただ前よりかは無くなったかな」


「そっか、それなら良かった」


「お互いに頑張ろうな」


「会社に復帰して、席があればな」


「それは大丈夫だよ」


どうやら、和田垣先輩がかなり庇ってくれたそうだ。

その勢いに刈谷部長も、たじろいでいたと話す。

意外なことではあった、何故なのかとも考える。


とりあえず復帰次第、最初にお礼しないとな。

廣瀬とそう話している。


「そろそろ、戻るわ」


「おう」


鞄を手にもつ、僕は玄関まで見送る。

革靴を履き、立ち上がって扉を開ける。


「また会社で」


「また会社で」


そう言い交わすと扉が閉まっていく。

一人になったが、少し気持ちが軽い。


廣瀬の悩はみは、僕にとっては同じことでもある。

成績を上げた廣瀬と、成績が上がらない僕とでは、標的にされた原因は違えど、同じだったのだ。


会社での居場所がわからなくなり、誰にも相談できず、ただただ自分自身の中で消化していこうとする。

そうして、消えるはずもない黒い感情が残る。

それはやがて積み重なり、自分を潰してしまう。

本城さんや廣瀬が、そうだったように。


幸いな事に、僕には本城さんがいてくれた。

彼女と過ごす日常は、明るく暖かかった。

抱えていた黒い感情を消し去るほどに。


そんな日常が壊れてしまったのだと、改めて感じる。

あの日々はもう戻らないのか。

戻したとして、どうありたいのか。

ずっと考えてはいるが、答えは出ない。


ぬるくなったビールを片手に、呑み干していく。

買った二本はそのまま一気に呑み尽くす。

元々酒に弱いからか、急激に眠たくなる。

これで忘れられたらどれだけ楽だろうか。

そう考えながら、ベットに横たわる。


深い眠りの中では、何も見えない。

ただただ、真っ黒な景色が僕を埋め尽くす。

寝てる自覚はあるのに、真っ暗なまま。

その黒さが、何も入り込む隙がないと思う。

そう思うと、少しだけ楽になる。


これ以上は入る隙間もなく、色も入らない。

ここだけが自分だけの世界なんだと。

誰に邪魔されることもなく、静かに漂うと。

18話ご完読ありがとうございます。


今回の話は一人語りが多かったですね。

自分の中の葛藤と向き合い、同じ事を考える。

結論は出ぬまま時間だけが過ぎていく。

一度忘れても、また同じ事を考える。


そう言った事を書きました。

私も結構あります。

忘れていた悩みが、ぶり返してまた悩む。

されど、解決策は見つからず。

深い迷宮へと迷い込んでいくような。


そこが伝わればいいかな。


また次話でもお会いしましょう(^^)

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