14杯目.体の不調 =(は)心の不調
どうも、ノウミと申します。
まだまだ作品数、話数としては少ないですが、これから皆様の元へ、面白かったと思って頂けるような作品を随時掲載していきますので、楽しみに読んでいただければと思います。
沢山の小説がある中で、沢山の面白い作品がある中で私の作品を読んでいただけた事を“読んでよかった”と思っていただける様にお届けします。
X(旧:Twitter)でも情報更新しています。
↓是非フォローください↓
https://x.com/noumi_20240308?s=21
鎌倉旅行から帰ってきた。
翌朝は寂しい気持ちに襲われ、目が覚める。
外は雨音が止んでいなかった。
昨晩から雨が降っている今日は、少し肌寒い。
布団を出しそびれていたのもある。
体を起こそうとするが重い、咳もある。
視界がおぼつかなく、寝返りを打つので精一杯だ。
どうやら、熱を出したみたいだ。
寝汗がひどく服が気持ち悪い。
急な温度の変化と、昨日の疲れが出たのか。
こんな時一人暮らしは辛い。
ご飯の用意すら満足にできないのだから。
孤独と病に心を蝕まれる。
情けなく涙が溢れそうにもなる。
辛いな…
そう考えていると、スマホが鳴る。
音の方へ意識を向けるが、かなり重い。
なんとかスマホに手をやるが、音は消えた。
着信を見ると本城さんだった。
最後の気力を振り絞り、折り返す。
「あ、どうも、折り返し早いですね」
「……いえ…ごほっごほっ…」
「あれ?大丈夫ですか?」
「大丈…ごほごほっ…夫…」
「…熱、出してます?」
ここで嘘をつく頭は回らなかった。
正直に話す。
「家の人はいないんですか?」
「一人ぐら……ごほっごほっごほっ…」
「なんと!一大事じゃないですか!」
「…ようけん…は?」
「そんな事より住所下さい!」
「…へっ?…」
「早くっ!」
なんとか声を絞り出し、家の住所を伝える。
部屋番号まで伝え、そこで意識が消える。
目を覚ましたら、本城さんがいた。
まだ寝ているのだろうか?
家の中にいるはずもないのに。
「あ、目が覚めましたか?」
「……あれ?ほんもの?」
「はい、正真正銘本物の本城さんです」
「…どして……?」
「どうもこうもありませんよ!心配させるし、不用心だし!本当に大人ですか??」
「…なにが、なんだか……」
「熱出して心配させて、鍵をかけずに寝て」
「…ほんとに?」
「だ・か・ら!私がここにいるんです」
「ごめん……」
「いえ、私も責任を感じてますから…」
そういうと部屋の掃除を始める。
キッチンからは、美味しそうな匂いが漂っている。
意識がまだ朧げな中、奥さんがいるとこんな光景を見る事になるんだろうと思う。
そんな事を考えると、また意識が落ちていく。
今度は、心地よく落ちていける。
きっと本城さんのおかげだろう。
次に目を覚ました時には、夜になっていた。
熱もだいぶ下がったのか身体は動く。
綺麗に片付いている部屋に、不思議な感じを覚える。
「あれ、こんなに綺麗だったっけ…まだ寝てる?」
机の上に目をやると、一枚のメモが置かれていた。
メモを手に取ると、綺麗な文字と絵が描いてある。
〔ちゃんとお風呂に入る事、ご飯は作って冷蔵庫に入れたので、起きたら食べてください。鍵は閉めてポストに入れたので確認したください。あと、元気になったら電話すること!〕
怒っている女の子の絵が、本城さんに似ている。
どうやら迷惑をかけてしまったようだ。
今日はメモに書かれた通りに、言う事を聞く。
これ以上怒られたくないからね。
明日にでも電話をしようと考える。
僕は風呂に入り、冷蔵庫を開ける。
優しいお粥や果物が置かれていた。
ここにもメモが貼ってあり、
〔食材の事は気にするな!〕との事だった。
つい笑ってしまう。
メモだけで本城さんの顔が浮かぶからだ。
まだ、身体は治っていないのだろう。
ご飯を食べると眠気に誘われる。
そのまま抗うことなく、ベッドに入り眠る。
何故か敷かれていた布団に、身を包みながら。
翌朝は、寝坊をしてしまった。
大慌てで仕事の用意をし、家を飛び出す。
電車にも間に合わず、乗り遅れてしまった。
遅刻が確定する。
焦って走りながら会社に着く頃には、朝礼も終わりかけの頃だった。
「遅れてすみません!寝坊しました!!!」
全員の視線が突き刺さる。
とりあえず、自分の席に着くように言われる。
遅刻したことに変わりないのだ、朝礼が終わると刈谷部長に呼び出される。
別室に呼ばれると、開口一番から大声で怒られる。
昨日、熱を出していた事など言う暇も無いほどに。
「なんやお前!案件一個取れただけで自惚んな!」
「はい!申し訳ございません!!」
「気が抜けてんだよ!仕事を舐めるなよ!」
「はい!申し訳ございません!」
「謝るだけなら誰でも出来んだよ!取り返せよ!」
「はい!申し訳ございません!」
「今日の朝の損失分を取り返せよって!」
[はい!申し訳ございません!」
「分かったらさっさと出てけ!!」
「はい!申し訳ございません、失礼します!」
扉を閉め、別室から急いで離れていく。
あの状況では謝る以外のことは何もできない。
席に着くと、廣瀬が心配そうに見ている。
「大丈夫か?顔色悪いぞ」
「あ、あぁ…大丈夫、昨日熱出しただけ」
「病み上がりかよ、無茶すんなよ」
そう言うとそれぞれの仕事に戻る。
今日は仕事にならなかった。
書類は間違えるし、会議の内容も頭に入らない。
営業計画書を作れと言われたが、何も作れない。
気がつくと定時を過ぎていた。
仕事はやり残しているが、今日は家に帰る。
荷物をまとめているとまた呼び出される。
「なんだお前、帰んのか?」
「はい、すみません…体調が悪くて…」
「体調整えんのも仕事のうちだ!ぼけ!」
「すみません…」
「ちっ、明日はその腑抜けた顔を見せるなよ!」
「…はい、すみません…」
「こっちまで滅入るわ!さっさと帰れ!」
「すみません、お先に失礼します」
言いたい事はあるが、何も言えない。
こっちだってわざとじゃないんだから。
病み上がりで出てきた僕を褒めて欲しい。
怒鳴り散らすだけしかしないくせに。
そう考えながら、会社を出ていく。
今日は辛かった、病み上がりには堪える。
帰りの道すらいつもより遠く感じる。
幸運は俺を見放したのかと思う。
…見放されたようだ、電車が運休になっている。
なんとついてない日なんだ、今日は。
大回りになるが、振替輸送で家に向かう。
帰りの電車の中で、箱詰め状態になる。
それもそうだ、運休になって電車に乗れない難民達がここに流れ込んでいるのだから。
最後の最後まで、ついてない日だと思う。
家に帰る頃には疲弊しきっていた。
昨日の残りがあるから、ご飯は大丈夫。
ただ、何もやる気が起きない…。
「あ、電話!」
電話をしないといけないと思い出す。
急いでスマホを取り出し、着信履歴を確認。
一番上の名前に触れる。
しばらく着信音に耳を傾ける。
「あ、もしもし?」
「こんばんは、夜遅くにごめんね」
「いえいえ、体は大丈夫ですか?」
「うん、おかげさまでなんとか…」
それから、鍵をちゃんと閉めてから中に入るとか、しんどいならちゃんと言う、ご飯もちゃんと食べる。
そんな事を言われている。
怒られているはずだが、嫌な気はしない。
こんな風に怒られるなら、今日の刈谷部長の激しい怒鳴りも少しは……いや、この喋り方なら気持ち悪い。
「聞いてますー?」
「ごめん、ちゃんと聞いてますよ」
「ならよろしい、体には気をつけて下さいね?」
「そういえば、昨日はなんの電話?」
「あ、そうでした、先日のお礼に絵をと思い…」
「無理しなくてもいいよ?」
「いえ、受け取って貰います!まずはこの前の“氷の華”をお渡ししたいと思い、あの喫茶店にどうかなと思い連絡しました」
「いいけど、いつがいい?」
「できれば明後日ですね、それ以降は修学旅行が挟むので忙しくしますからね…」
「お、また旅行だね?」
「はい、修学旅行ですが……」
「ちなみにどこに…」
旅行先を聞こうとするとスマホが切れる。
電波が悪くなったか、充電が切れたか…。
うん、こちらは問題無し。
少し待っていると、またスマホが鳴る。
「すみません急に、また明後日にお会いしましょう」
そう言い残して電話を切る。
突然の事に驚くが、明後日の楽しみができた。
定時で帰れば問題なく向かえる。
そう考えると少しだけ元気が出る。
先程言われた、ご飯をちゃんと食べよう。
そう思い、冷蔵庫から取り出し温める。
温かくなったご飯は、傷んだ心も治していく。
そんな気がする。
ちゃんと食べて、ちゃんと寝る。
生活環境も整える。
これがどれだけ大事かと思う。
毎日できるかと言われれば、無理だが。
それでも、今日だけはちゃんとしようと思う。
また体を崩して心配をかけるわけにはいかない。
明後日を楽しみにしているのだから。
今日も明日も、体調を整えるよう眠りにつく。
不思議と夢見も良かった。
本城さんが、エプロンを着てご飯を用意する。
怒りながらも、笑い合う。そんな夢をみる。
所詮は夢。
現実では無いと思いながら、夢に浸る。
何度も見たくなる、そんな夢を。
14話ご完読いただきありがとうございます。
タイトルにもある通り、体の不調=(は)心の不調。
皆様も、調子悪いなって感じると、嫌な事があったり、不幸なことがあったりしませんか。
体を整えれば心も整う。
心を整えれば体も整う。
皆さんにとって整える手段はなんですか?
その手段の中に私の作品でなくても、“小説を読む”があればいいなと思います。
また次話でもお会いしましょう(^^)