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13杯目.旅の思い出は永遠に(後編)

どうも、ノウミと申します。

まだまだ作品数、話数としては少ないですが、これから皆様の元へ、面白かったと思って頂けるような作品を随時掲載していきますので、楽しみに読んでいただければと思います。

沢山の小説がある中で、沢山の面白い作品がある中で私の作品を読んでいただけた事を“読んでよかった”と思っていただける様にお届けします。


X(旧:Twitter)でも情報更新しています。

↓是非フォローください↓

https://x.com/noumi_20240308?s=21

滝の音や小川のせせらぎ、木々の揺れる音など。

この場所は、心を落ち着かせてくれる。

先程まで荒れ狂っていた心臓が、今は静かだ。


本城さんも、そんな場所に入り込んでいる。

写真を撮ったり遠くを眺めたり、川に触れてみたりと、全身でこの場所を体感している。


綺麗な人は絵になると言うが、絵になるな。

元々が自然の一部かのように、溶け込んでいる。


「綺麗だな…」


つい本音が漏れた。

口を抑えて見つからない様に顔を伏せる。


どうやら聞こえていないようで、安心する。


十分に堪能したのか、こちらへ駆け寄る。

僕は座っていたベンチから立ち上がる。


「もう、いいんですか?」


「うん!大満足だよ!」


「ここはいい場所ですもんね…」


「自然の一部になったような、そんな感じがするよね。体に入る空気も、気持ちがいいし!」


「確かに、洗われている感じがしますよね」


「それに〜?誰かさんは、綺麗なものを見ていたようだしね?」


「聞こえてたんですか!?」


「さぁね〜、どうだか?」


これは、確実に聞かれていたな。

落ち着いていたはずの心臓が、また荒ぶり始めた。

顔も熱くなって、まともに顔が見れない。


「ね?綺麗だった?」


「はい、とても綺麗な川でした…」


「ふーん?そっか、川が綺麗なのか…」


「そうです、川です!」


「べーっだ!いくじなしー!」


僕を置いていくように彼女は走り出す。

怖くない可愛いいふくれ顔を、僕に見せた後に。


それは「可愛すぎだろー!!」って叫びたくなる。

これ以上、僕の寿命を縮めるのはやめて下さい。

と、言えるはずもなく。

「待って下さいー!」と言いながら後を追いかける。


小川を離れてしばらく歩くと、石階段が現れる。

この上に、お寺が建っているとの事だった。

かなり長い石階段を、一歩一歩登っていく。


頂上に着く頃には、少し息が切れる。

本城さんはまだ余裕があるらしい。

鼻歌まじりに上へと登っていく。


頂上に着く頃には、目の前が広がっていた。

寺の前は広く開かれており、道ができている。


「おっそーい!」


「ごめん、早いね」


中に入る事もでき、美しい庭園が広がる。

石畳や砂紋など、普段見れない景色がある。


「初めて見たよ、砂紋だっけ?どうやるんだろ」


「ホウキみたいなやつで描いてるのを見た気が…」


「雨降ったら消えちゃうね」


「だね…見ることが出来て良かったよ」


続けて寺内を散策する。

ここもまた、静かな世界が残っている。

この世界に僕と二人だけだと、そう感じさせる。


「ねぇ、ここ二人っきりだね」


また本城さんは、僕の心を見透かしたように話す。

その無邪気さは僕にとって凶器に近い。

この心臓が張り裂けそうになるのだから。


「これだけ静かだと、そう感じますね」


必死に取り繕う。

それも見透かされているだろうけど。


「き・れ・い・だ・ね」


先ほどの事を根に持っているのだろうか。

また同じ事を聞かれる。

今度は思い通りに行かないと、腹を括る。


「はい、本城さんは綺麗です」


どうだ、返したぞ…と心の中で意気込む。


「ふーん…ありがと」


そう言うと、彼女は向こうを向いて話し始める。

指を刺しながら、遠くの景色を見つめるように。

こちらを向かない顔は、僕には見えない。


少し、先ほどの発言が恥ずかしくなる。

耳が熱くなっていた、こちらを見ないでくれ。

そう願いながら話を聞き続ける。


二人の距離は近いようで、まだまだ遠くにある。



暫くすると、靴を脱いで上がれる場所を見つける。

この先にお目当てがあるようで、二人で靴を脱ぎ、お寺の中に入る事にした。


木の床が続き、各部屋には畳が敷かれている。

秋の香りと、井草の香りが混ざっていた。

畳の部屋にも入れるようなので、失礼する。


そして、奥には丸い窓が見える。


「あの窓だね…見たかったの」


「はい、これは…」


悟りの窓というらしい。

丸い窓から見た景色は、何にも捉われず、ありのままの自然な心を表現しているとのこと


「悟りの窓…これが…」


「なんか、難しいですね…」


本城さんの方を見ると、涙を浮かべていた。

その場で動かず、ただ真っ直ぐに窓の景色を見る。

その感情が、僕には分からなかった。


「あ、なんか…ごめんね…涙が勝手に…」


悟りの窓の意味も、涙の理由も僕には分からない。

分からないから、何も言えない。


涙の理由を聞いても、何も返せないだろう。

そう考えると、言葉が詰まる。

消えると思いながら、感情のない言葉を出す。

「大丈夫ですよ」とだけ、伝えるしかない。


そこからは、時間が永遠に感じるほど長かった。

悟りの窓がある部屋に、様々な感情を詰め込む。

自分が嫌になる、窓の景色は何も悟らせてくれない。



「ありがとう…行こっか」


「……はい」


そこから階段を歩くまでは静かだった。

来た時とは違う嫌いな静かさだ。

階段を降りていき、来た道を戻る。

会話もなく、ただただ歩いている。


「今日はありがとう…連れてきてくれて」


不意に話す言葉に驚く。


「こ、こちらこそ、ありがとう」


「どうして?何もしてないよ?」


「一緒にいてくれて…楽しかったから」


「変なの、何もしてないのに」


こちらの目を見て話している。

目の奥の感情を見られているようで、緊張する。


「もうすぐ、夕方になるね…」


「えぇ、最後にお茶でもしませんか?」


そいうとお寺の近くにある、お茶屋さんに向かう。

実は、ベンチに座っている時に調べておいた。

ここも昔ながらの建物で、お茶や団子などを提供している。時代劇ものなどでよく見るようなお店だ。


「わぁ、何これ」


「帰る前にどうかなと」


「タイムスリップしたみたいだね」


まだ天気もいいので、外の赤い布のベンチに座る。

隣の赤い傘が日除けにもなり、涼しい。

昼を過ぎて暫く経つが、気温も下がり始める。



注文したお茶と団子が運ばれてくる。

三色団子に、よもぎ団子、あんこ団子。それぞれ3種類づつの団子を注文した。

一緒に置かれたお茶がまたいい香りを立たせる。


甘く、しっとりとした団子が口の中に広がる。

程よい甘さは、何個でも食べたくなる。

口の中に残る甘さを、苦いお茶で調和させる。

この二つがあって成り立つ美味さに感動する。


「これ、おいしいね!」


「何個でも食べれますね」


「それに、この環境もいいね…喧騒から離れて…」


「はい、帰りたくなくなりますね」


「えー?それ本気?」


「それぐらい、楽しい時間って事ですよ」


「確かに,分かるよ…」


僕たちは団子を完食し、お茶をすする。

戻りたくない世界、時間を思いながら。

この瞬間を噛み締めて…飲み切る。


「「 ごちそうさまでした 」」


手を合わせて、お辞儀をする。

ここに来れたこと、場所や時間全てに感謝をするように、お互いに想いを抱えながら。


車に戻り、車内へと乗り込む。

辺りは夕陽が顔を出しつつある。

曇り空まで見え始めていた。


「せっかくの夕陽が見れそうにないね」


「降水確率50%でしたからね、雨降りますかね」


「帰りに降って良かったね」


そう言うと、閉じた窓の外を眺めている。


「せっかくの旅行でしたから、雨に打たれなくて良かったですよ、本当に」


僕は、エンジンをかけアクセルを踏む。

目的地は家の近くの駅に設定してある。

ここからは、家に帰るだけだ。

旅の終わりは、この秋空のように暗く切ない。


本城さんは、今日一日で撮った写真を眺めながら、色々話してくれている。

“楽しかった”、“綺麗だった”、“大人の世界って感じがした”、“色々な感情が溢れた”、など。

どれも楽しい思い出ばかりのようで、安心する。


ここに来れて良かった、本城さんと一緒で良かった。

僕の中にも楽しい思い出ばかりが募る。

また一緒にどこかへ行きたいと、隣で眠りにつく顔を見ながら、そう願わずにはいられない。




目的地に近づくにつれ、車に雨粒が当たり始める。

次第にその音は大きくなり、打ち付けるような音に変わる、その音に目覚めたようだ。


「あれ?ごめん…寝ちゃってた……」


「大丈夫ですよ、それにもう少しですから」


「本当だね、戻ってきたんだね」


雨の音は変わらない。

長く降りそうな雨が続く。


駅に到着したが、雨は変わらない。

家まで送ろうかと提案するが、断られる。

それならと、車を止め傘を買いに行く。


傘を持ちながら、車を降りる際に雨が当たらないように、外からドアを開ける。

降りたら、手首にかけていたもう一本の傘を渡す。


「すみません…何から何まで…」


「とんでもない、気にしないでください」


「また、お礼をさせて下さいね」


「気にしなくていいのですが…」


「お礼、しますから…」


「分かりました、楽しみにしておきます」


そう伝えると再度お礼を述べられ、別れる。

その姿が見えなくなるまで、降り頻る雨の中、ただ一点を見つめながら立ち続けた。


乱れる傘の中に消えていく本城さんをみていると、心がざわつく。

楽しかったはずなのに…。

楽しかったのだから大丈夫だ。

本城さんも楽しかったと…。


僕は再び車に乗り込み、車を返しにいく。

辺りはすっかり真っ暗になっており。

返す時間もギリギリになっていた。


帰りの道、傘を刺しながら歩いて帰る。

急に一人になったこの時間は、少し苦しい。

雨のせいか、気持ちが落ち込む気がする。


また会えるだろう。

いつもの喫茶店で、奥の席に座りながら。

絵を描いているだろうか?勉強をするだろうか?

考えるだけで、笑みが溢れる。


会いたい気持ちは、会えない気持ちを産み出す。

そのバランスに揺られながら、家に帰る。


こうして、生涯忘れる事のない旅は終わりを告げた。


13話完読ありがとうございます。


いよいよ、鎌倉旅行が終わりました。

旅の終わりは寂しいものですよね。

旅が終わる事が寂しいのか、現実に戻る事が寂しいのか、好きな人と別れるのが寂しいのか。


様々な気持ちが入り乱れる真田さん。

本当の気持ちは、と悩む事となるでしょう。


また次話でお会いしましょう(^^)

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