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第8話 ありがとう


「え、君らもやるの? またおいらが合図すればいいの? あ、そう? 仕方ないにゃあ」


獣人(ファウナ)の人が、僕とエフティアを交互に見る。

「お願いします」

「お、おねがいします」


緊張しているのか、エフティアは声が震えていた。


「エフティア……今朝はごめん」

「そのはなしはいいよ……わたしが悪かったもん。ごめんなさい」


〈今朝ってなんだ〉

〈さあ〉

〈知り合いかな〉


……あまりこういう話は、人前でするべきじゃなかった。


「リゼちゃんとしたみたいに、わたしも真剣(エイドス)できみとやりたい」


エフティアはまっすぐにこちらを見据える。

僕も、それに応えたかった。


「……分かった」


〈へー、あの子剣(エイドス)出せたんだ〉

〈一応素質があるってこと?〉

〈いやー、ないわ〉


「二人とも構えて――剣に想いを馳せよ」


合図ともに、剣を想起する。

彼女の剣も片刃の剣だった。しかし、それは大きく真っすぐ伸びた大太刀で、自分のそれとは正反対に見える。


剣(エイドス)は心そのものを表すとよく言われるけれど、彼女の剣を見るとそれが正しいことのように思えた。


〈まじか、でけー〉

〈振れるの、あれ〉

〈でもエフティアじゃあ……〉

〈まあ! なんて美しい剣ですの!〉


エフティアは、攻めて来ない。ならばこちらから――


「――っ!」


あまりにも簡単に懐に入れてしまった。

剣が飾りのようだ。

棒立ちにもほどがある。


誘われたわけでもない。

けれど、こちらの動きが見えていないわけではない。

唇を震わせながらも、その目は確かにこちらの動きを追っている。


だけど――


「そこまで!」


――剣先が彼女の喉元を捉えてしまった。

さっきのリゼとの試合が嘘のようにあっけなかった。


「も、もう一度お願いします!」

「分かりました」


……


「もう一度……!」

「はい」


ふざけているわけではないのは分かる……だけど――


「やあっ!!」


エフティアは必死に食らいつこうとしているが、動作ごとに無意味な硬直を起こしてしまう。何が彼女をそうさせているのかが全く理解できなかったが、何かが彼女の動きを妨げていた。


彼女は、信じたくないほど弱かった。


……


「ねぇ、もういいんじゃなーい? エフティアばっかり特待生君とやっててずるいし」

「あ……あの……ごめ……なさ……」


エフティア……どうして……。

どうしてそんな顔をするんだ。


「ねえ、今度はあたしとやろうよ。あたしのこと分かる?」

「……あなたは」


彼女は……レディナだったか。優等生――ということくらいしか知らない。


「レディナさん……であってますか」

「そう! なーんだ、別に他人に関心がないわけじゃないんだー。あと、敬語とかやめなよ。同じ学年なんだからさ」

「そう……かな。分かった。そうするよ」

「そうそう! 仲良くやろう!」


それから、彼女と試合をすることになったが、すぐにそのことを後悔した。

レディナは、敢えてエフティアと似たような構えを取り、彼女ができなかった動きをしてみせるのだ。それを見た他の生徒達が、エフティアとレディナの動きの比較をしている。


「ねぇ、エフティアとはっ……どういう関係なの?」


軽く打ち合う中、レディナは小声で話しかけてきた。


「僕は……エフティアを認めているっ」


そうとだけ伝えると、レディナは何かを言うように口だけを動かしてから微笑む。

気のせいだろうか、彼女は「ありがとう」と言っているように見えた。

レディナはすぐに微笑みを消し、真剣な顔をする。

しかし、それからの試合の展開はあっけないものとなった。



「あちゃー、やっぱり強いなー! みんなも彼と戦ってみなよー、すっごく強いから!」


負けたことを悔しがる様子もなく、レディナは笑っていた。

レディナに駆け寄る同級生たちは、彼女を慰めるようなことを言ったり、一緒に笑ったりしていた。


彼女の視線が一瞬エフティアに移る。ほんの一瞬だが、険しい目つきをした後、何事もなかったかのように他の友人と談笑をする。エフティアはというと、うつむいた様子で顔が見えなかった。


「特待生! 次はオレとやってくれよ!」

「私も!」

「あの……おともだちの件はどうなりまして?」

「えぇー、またおいらが立ち合いなのぉ……?」


人が群がってくる。何だか酔いそうだ。


「あ、あぁ……」


結局、上手くさばくことができないまま彼らに流されてしまった。それから何度試合をしたかは分からないけれど、ベッシュ先生が駆けつけて授業を受けに来ないみんなを叱りつけ、それでようやく終わりを迎えたのだ。

ベッシュ先生がわざわざ生徒を迎えに来るような勤勉な人で良かった。


「あれ――」


――エフティアはどこに行ったのだろうか。彼女はいつの間にか、その姿を消していた。

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