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第23話 悪夢が追いかけてくる

「――ソーニャ、一緒に訓練しよう!」

「えぇ~、にゃんでー?」

「もっと強くなりたくて」

「それって、なんのためにゃ」

「……僕のためだ」

「ふにゃふにゃ、分かる。分かるにゃ」

「じゃあ――」

「でもだめにゃん」


――そう言われると、思っていた。思っていた以上に、ショックだ。

そもそも彼が一度も剣を振るっている姿を見たことがなかった。誘ったとしても、断られる可能性については想定できたし、こうしたことが何となく好きではなさそうだとも思っていた。


彼が強いのかも知らなかったが、それでも、ソーニャと剣を重ねてみたいと思う自分がいる。


「そんな顔するにゃあ~……」


けれど、珍しく申し訳なさそうな表情をするソーニャを見て、まだ希望は残されている気がした。


「どうしたら、いいのかな」

「気が向いたらかにゃぁ……」


僕は一応疑念の視線を送るが、「いいにゃ、そういう目」などと彼を喜ばせるだけだった。


「そうか、じゃあ他を当たるよ。特に思い当たらないけど」

「にゃ……」


すっかり肩を落とした僕の背中を、ソーニャが見つめているように感じた。


「見学くらいなら――」


え……。


「――してあげてもいい……にゃ」


聞き間違えじゃないよね――


「――ほんと!?」

「にゃあ……そんなに喜ぶなぁ」


ソーニャに駆け寄ってその肩を組まずにはいられなかった。


「あはは!! やったぁ!!」

「おぃ~、見るだけだぞぉ~……んにゃぁ」


強くなりたいとか、そういう次元ではない。

ただ、友達として彼と一緒にいられることが嬉しかった。




特別寮に併設された、特待生用の訓練場――そこに集まる学生たち。


元落ちこぼれであり、未来の剣使――エフティア。

「えへへ……こういうの、なんかいいね」


エフティアの剣を受け止めた優等生――レディナさん。

ソーニャ(あんた)がこういうの、好きだとは思ってなかったよ」


僕の友達――ソーニャ。

「見学するだけにゃあ」


本当はリゼさんも誘おうと思ったのだけれど、上手くタイミングが合わなかった。


「エフティア、リゼさんはどうだった」

「声をかけようとしたんだけど、他のみんながどっかに連れて行っちゃって」


だよね……と、エフティアと顔を見合わせる。


〈あんた、どう思う〉

〈あんまし好みじゃない感じにゃ〉


一方で、レディナさんとソーニャは何か訳知り顔のように見えた。エフティアもそう感じたようで、二人に詰め寄る。


「ねえねえっ! 二人だけでわかってるのやめてよぉ……!」

「にゃはは……別においらだってにゃんもかんも分かるわけじゃ無いにゃ」

「あたしも……でも、ひょっとしたらあの子たち――」


レディナは何かを言いかけて口をつぐんだ。

エフティアにふくれっ(つら)で迫られても、顔を押さえのけて拒絶した。


「レディナさん、僕達にできることはあるのかな」


レディナが何を考えているのかまではよく分からなかったが、もしもできることがあるなら、それをしたい。

彼女は意外そうな表情でこちらを見てから、からかうように笑う。


「へぇー、レディナ《《さん》》なんだあ」

「あっ……いやその、なんというか」

「《《レディナ》》でいいって言ったのにねぇ」


近寄るレディナから思わず左に顔をそらす。と、獣人ファウナ独特の笑みを浮かべたソーニャと目が合う。何だか腹が立ったので、今度は右に顔をそらすと、エフティアのきょとんとした顔があった。


「アル君が年下ってぇ……ほんと?」


忘却の箱にしまわれていたはずの記憶が、何かのきっかけで彼女の中で蘇ったらしい。しかし、二人きりの時でも何となく答えたくなかったこの質問に、ソーニャやレディナの前で答えるのはなおさら嫌だった。


幸いにして、前、右、左にしか阻むものがないなら……よし、後ろに逃げよう――



――逃げる?



叫び

落ちた

血が

父さんの

笑う影

僕は――



「アル君」

「――えっ」


手に伝わる硬い感触。

その奥からにじみ出る温もり。

ああ、エフティアの手か……。


「今日は、訓練やめとこっか」

「エフティア、なにを――」

「やめとこっか」


――急に何を言い出すんだ。これからみんなで強くなろうとしていたところなのに。

有無を言わさないエフティアの笑顔から逃れるように、ソーニャとレディナに助けを求める。


「二人もなんとか言ってくれないか。せっかく二人が来てくれたのに――」


――本当に申し訳が立たないよ。


「おいらは元々見学係だから気にしてないにゃー」

「あたしも……あっ、そうだ! ていうか、あんたたちさー、こういう珍しい集まりをするんだからさ、まずはすることがあるんじゃないの?」


レディナが人差し指を立ててくるくると回した。


「……そうなの?」

「そうに決まってんじゃん。都合のいい場所もここにはあるし――」


そう言って、レディナは特待生寮を振り返った。


「――特待生寮って台所あるんだよね?」

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