とりあえず
キルトと別れて、国を出た。
ちょっと見て帰る予定だったが、結構長く滞在していた。
「いやぁ、なんか短かったのに長く感じたねぇ」
カシアは率直な感想を述べる。
「しょうがないですよ。3日間くらいであれを全部こなしたんですから。」
確かに。カシアは思った。
国に入って3日でこれをやってのけた自分たちは凄いのではないか?と思い、
「私達、結構凄いじゃん♪」
鼻歌交じりに呟いた。
ふと、ユイカがカシアがつけている指輪に気がついた。
「カシアさん、その指輪はなんですか?」
「あぁこれ?なんか1回だけキルトと遠隔でお話が出来る道具らしいよ。いざと言う時は来てくれるようにだって。」
国を出る前、キルトがこれを渡してきた。あの国で何かあるのかもしれないが、私は関係ないので貰うだけ貰うことにした。
「まぁ、使わないだろうけどね。」
そんな他愛もない話をしながら、森の奥に入ってワープであの迷宮まで帰った。ユアが問う。
「ここはどこ?」
「私達の拠点だよ。ここなら多分人に見つからないから快適に過ごせると思うよ。」
カシアが自慢気に言う。
借り物なのになぁ…とこちらをじっと見てくるユイカの視線を押しのけて、ユアに言う。
「だから、ここなら前の話し方に戻してもいいし、慣れたいんだったら今のままでいいよ。」
するとユイカがびっくりした表情で、
「えぇ!?戻しちゃうんですか!?」
と叫んだ。どうやら、今のユアが気に入ってるみたいだ。
「ま、まぁそれはユアが決めることだし…?私には関係ないしぃ…?」
とカシアは曖昧に返事をしたが、
「私はお姉ちゃんに任せるよ!」
満面の笑みで言うユア。
うん。このままのがいい気がする。そんな気がする。
どこまでも尊く感じる。the 妹って感じ。
「ユイカ。私にはこの可愛さを無くす事は出来ん。」
「同感です。」
2人再び胸を打たれ、ユアはこのままにする事にした。
「さぁ、ひと段落ついたところで。」
2人を座らせたところで、ゴホン、と改まってカシアは言う。
「これからの事を話そうと思います。」
ぱちぱちぱち…と2人の拍手が響く。
「まず、第1目標はなんでしょうか。」
「はい。」
ユイカが手を上げる。
「はいユイカさん。意見をどうぞ。」
「影世界やユアについて調べることです。」
「はい違います。それは第2目標です。」
ばっさり切った。
「はい!」
ユアが元気に手を上げる。
「はいユアちゃん。なんでもいってごらん。」
でれでれして言うカシア。ユイカは反応の違いに拳が出そうだったが、ぎりぎりで抑えた。
「みんなで仲良く暮らすことです!」
「はい正解。よくできたね〜」
頭をよしよししながら言うカシア。
一瞬ユアがユイカを見て『ふっ…』と笑った気がするが、スルーしておく。
「ま、待ってください!影世界が優先じゃないんですか!?」
ユイカが立ち上がって言う。
それにカシアは、
「まぁ、それが優先事項ではあるけど、まずは仲良く暮らす所からだと私は思うよ。」
ね〜♪ユアちゃ〜ん♪と頭を撫でながら言う。
「わ、私だって…」
撫でて欲しいです!…とは口には出なかった。
「何か言った?」
カシアがこちらを見る。
「なんでも、ないです…」
と、少し不満げになるユイカであった。
「とまぁ、雑談は置いておいて…」
カシアが話を戻す。
「実際、影世界の研究はするべきだと思う。ユアもその方がいいでしょ?」
ユアが頷く。
「うん。影世界にいる、自分よりも上にいる自分と…ケリをつけたい。」
そこには、さっきの甘える目では無く、覚悟の決まった目をしていた。
「その為にも…」
カシアがいいかけると、
「まずは行くための手段ですよね。」
ユイカがフォローしてくれた。
「そう。最初にして大きい壁になるね。これが。」
向こうから来る手段は確立しているらしいが、こちらは何も分からない状態であり、調べようにも調べられない。
「現時点で行ける可能性を秘めるのは2つ。」
カシアが指を立てて言う。
「1つ。頑張って研究を重ねる。」
「でもこれは相当時間がかかるし、出来るかどうかも分からないからあまりオススメしないかも。」
ユイカも同じ意見のようだ。
「2つ。どうにかして向こうが来るタイミングを待って、その手段を見る、または奪う、利用する。」
「現時点では、これが1番な気もするけど…」
「そのタイミングは分からなければ、手段もワープかもしれない…ということですか?」
ユイカが言う。
「そう。不確定要素が多すぎる。つまりこれは可能性が1番高くて1番低い確率…って事になる。」
2人は悩んだ。
莫大な時間はかかるが方法は分かる『研究』
時間は『研究』よりはかからないが、限りなく可能性が低い『略奪』
どちらにするべきか。
「まぁ、他にも方法がありそうだし、気長に考えてもいいと思うけどね。」
カシアは方法についてはあまり深刻に考えていなかった。どちらかというと、『影世界』へ渡ってからの事を考えていた。
「ユア。影世界ってどんな感じかわかる?」
ユアは少し悩んだ後、
「基本的には、街があって、その中に住んでいる種族もあれば、森とかの中に住んでる種族もいる。こっちの世界に来るのは貴族とか研究者の身分が高い人か、森で迷い込んだ魔獣くらいかな。」
と言った。
そこでユイカは気付く。
「森で迷い込んだ魔獣がこっちに来るのって、どうやって来るんでしょうか…?」
カシアは目を見開く。
そうか、気が付かなかった。そういう事か。と。
「ユイカ!いい視点だ!素晴らしい!」
ユイカは照れている。それを気にせず、カシアは頭を回す。
「そうか。何故森の中や迷宮にしか魔獣が沸かないのかと思ったが…」
ユイカとユアはまだ分からない。
「それどういうことですか?」
ユイカが尋ねる。
「多分だけど…向こうの森に迷い込めば、こっちの森に出てくるんだと思うんだよね。」
「つまり、こっちの森から頑張れば『影世界』へ行けるかもしれないってこと!」
2人から拍手が上がる。
「確かに、その可能性は十分にありますね。」
ユイカが言う。
「魔力が乱れた時にそこに入れれば、あっちの世界へ行けるかも知れない!」
続いてユアも言う。
みんなの意見が固まった。
カシアとユイカは、ユアの為に頑張る、と2人で決意した。




