怒りと本気
丁度、ユイカはカシアの所に着く頃だった。
そんな時聞こえてきた。
「もぅ!うるさいなぁ!そんなに見たいなら見せてあげるよ!よーく見てなさいよ!私の今の本気!」
ユイカは今までカシアの本気を見てこなかった。
滅多にないチャンスと思い、見る事にした。
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「どうなっても知らないんだから!」
大声で男に向かって言い放つ。
「はっ!刀振り回すしか脳がねぇガキに何が出来るんだよ!お前も所詮、殺されるだけの一般人と変わらないんだよ!」
…は?カシアの頭に血が昇る。
もう、理性も残らない程に。
「……そんなに死にたいなら早く殺してあげる」
「『クロノシリア』」
時が止まる。男も。ユイカも。
「『フォレストル』」
突如地面から生えてきたツタで男を拘束する。
「『グラディオス×300』」
瞬間、カシアの結界内に無数の剣や刀が展開される。
数えるのも苦労する程に。
「『ファイアバレット・アナザー』」
カシアがそう唱えると、カシアの前には10個程の
『ファイアバレット』の様なものが展開された。
カシアがそう呼ぶ『それ』は、通常の物とは少し違う。『ファイアバレット』は炎。つまり赤だ。
だが『ファイアバレット・アナザー』は青い。
火力は倍以上に上がるが、速度が落ちる。
相手を拘束していれば問題無いが。
準備が終わった。
「『クロノシリア』解除」
時が動き出す。余裕の表情を浮かべていた男の顔は
一瞬にして曇る。
「…はぁ!?なんだこれ!?…くっそ!動けない!」
「だから言ったでしょ。どうなっても知らないって」
そう言うとカシアは手を前に出す。
「お、おい!情報ならなんでも吐く!頼む!殺さないでくれ!」
男は懇願した。
が、カシアは生かすつもりは無い。早く殺したそうであった。目には光が灯っていない。
「いくらなんでも虫が良すぎだろ。とっとと死ね。」
『グラディオス』が3本男に向かって飛んで行った。
頭、胸、腹。深々と刺さり、男は死んだ。
なんであんなに展開したのに、少ししか射出しなかったのか?ユイカは疑問に思った。
次の言葉を聞き、ユイカは固まった。
「…『死者蘇生』」
男に向かって言った。
すると男はぐったりしていたのに、何かを思い出したかのように、ガバッと起き上がった。いつの間にか拘束は解けている。
「…は?…え?……な、何が起きて…」
「……『グラディオス』」
また、男は死んだ。5本の剣によって串刺しにされ、死んだ。
「『死者蘇生』」
また、起き上がる。そして、『グラディオス』で死ぬ。そして起き上がり、『ファイアバレット』で死ぬ。そして起き上がり、『グラディオス』で死ぬ。そしてまた…
ユイカは絶句していた。何故こんな事をするのか。
見えたのは、何度も男を殺す1人の悪魔と、泣いて懇願する兎だった。
地面は、男の血で池が出来そうだった。
「な、なんでこんな事するんだよ!この悪魔!」
男がぐしゃぐしゃの顔面でそう言う。
カシアは気にせず殺す。
そして、もう1度起こして言い放つ。
「…悪魔だ?お前のがよっぽど悪魔だろ。どんだけ人殺した?その人達に罪はあったか?無かっただろうなぁ!お前らが好きで殺してんだからな!」
怒りに任せた『グラディオス』は、男の原型も残さず、男は肉片になった。そしてまた起こし、話を続ける。
「なぁ!お前らにも育つ時は親がいて!しっかり魔力もあって!真っ当に育てられたのにこんなんになっちまって!恥ずかしいと思わねぇのか!?あァ!?」
カシアは死んだ目で鬼の形相をしている。
「ひっ…」
男は畏怖した。目の前の少女は、本当に人間かを疑う程に。
カシアの話は止まらない。
「…お前、さっき私の事能無しって言ったよな?あぁそうだ。私は能無しだ。無能だ。だから捨てられんだ。魔力も無ぇ。勉強と運動しか取り柄の無ぇクソガキだったんだ。が。私も頑張ってんだ。それをなぁ。
お前みてぇなろくに苦労もしてねぇクズに貶されんのがいっちばんムカつくんだよ!」
また、怒りに任せて何度も殺した。
もう展開していた魔法も使い切った。
「た、たの、む、もう、ころし、て、くれ…」
男はもう生きる気力を感じない程に衰弱していた。
「殺すわけねぇだろ。私はお前をできる限り苦しめてやる。」
そう言うと、カシアは結界を解き、距離をとった。
「ユイカ!私の後ろに来い!」
荒々しく呼ばれ、びっくりしたがカシアの後ろにくっついた。今のカシアは、悪魔そのものだ。
「『深淵より来たりし地の底の使者よ』」
「『我が命に従いその門を開け。』」
もの凄い地響きが起きて、激しく揺れた。
「な、にを、して、んだ…!」
男は死にそうな声で言った。
「何って…お前を苦しめてくれる奴らのご登場だ。」
そう言い終わると、地面には禍々しい門が現れた。
本当に、地獄の入口の様だ。
門が開く。何故か男は浮いている。すると、1人の男…いや、悪魔が出てきた。
「これはこれは…随分と小さなご主人様なことで。」
礼儀正しく挨拶をする悪魔。
「ロストアビスより参りました…」
「使者代表代理のゼストと申します。どう言ったご要件でございましょう。ご主人様。」
ロストアビス…聞いた事もないものが出てきて、ユイカは困惑するが、カシアは表情ひとつ変えず、
「ゼスト。あの男を殺さず、できる限り、苦しめてくれ。期限は3日。供物はこの洞窟に居る私とユイカ以外の人肉の全て。生きてる者から死んだ者までだ。」
「承知致しました…ではこれにて。」
と言うと、ゼストは男の頭を掴みあげ、
「いつか、こちらにお顔をお出しになられて下さい。我等の主はいつでもお待ちしております。」
「わかってる。今年中には行く。」
と会話をし、門は沈んで行った。
………
気まずい空気が流れる。
「あ、あの…カシアさん…?」
さっきまでが恐ろしすぎて、普通に話せない。
いつもどうやって会話していたのか、忘れた。
「…ごめんね。ユイカ。怖かった?」
あぁ。いつものカシアさんだ。
嬉しかった。このまま戻らないのかと思った。
「あの…あの門は一体なんなのですか?」
カシアがブチ切れていた理由については、怖いので聞かない事にする。
「あぁ〜…あの門はねぇ…うーん。どう説明しよう。」
少し困った表情で考えていた。そして思い付いた感じで指を弾いた。
「あれは、地の底の底。まぁ人間で言ったら地獄?みたいな場所。忘れられた土地、『ロストアビス』。」
ユイカは分からなかったが、怖い場所なんだと納得した。
「さて。疲れたし、帰ろうか。」
カシアが言う。が、まだ賊のボスを倒していない。
「カシアさん。ボスはどうするんですか?…あ」
気が付いた。さっき、この洞窟内の人間は全部居なくなったのだった。
「そだよ。もう居ないから、短剣だけ持って帰ろう。」
「わかりました。」
なんか締まらない感じだが、取り敢えずいい事にした。




