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禁忌魔法使いの世渡り旅  作者: 青薔薇
出逢い
1/22

新たな人生の始まり

「……え?」


今カシアは、アルム王国郊外の深い森の中にいた。なぜ森なのか。近くにあるアルム王国の領地内ではないのか。それはカシア自身に理由がある。


この世界には、魔法が存在する。魔法が使えるのか

どうかは、生まれつきの魔力量によって決まり、

魔力が多ければ王国直属魔術師になるために

王国学院魔術師科を目指し少なければ学院を出て

冒険者や一般国民となり生活をしている。


10歳になり、魔力測定を行った。

しかしカシアには、魔力が無かった。

魔力測定器が全く反応しなかったのだ。

これは極めて珍しい事であり、この魔法の世界では魔力無しは『無能』と蔑まれ続けてきた。


そしてついに、カシアは12の時、親に森の中へ捨てられた。森の中なら遭難したと言って死んだ事に出来るからだろう。


カシアは混乱していた。目を覚ましたら森の中だったのだ。だが、予想はついた。自分はとうとう捨てられたのだ。最近、親が異様に冷たかった。

捨てる事は前から決まっていたのだろう。

夜の森は暗く、魔獣の呻き声も微かに聞こえてきた。


「……うっ…ぐすっ…」


少女は今にも泣き崩れそうだった。

自分は何の罪も犯していない。出来るだけ良い子でいた。本も読んだ。勉学にも励んだ。運動だってした。

人一倍努力していた。他の子よりも良い子なはず。

だが、魔力が無い。その事だけで、捨てられたのだ。

…だが。


「……泣いちゃだめだ。泣いてちゃだめだ。こうなるのは分かっていたはずでしょ。私。」


涙を浮かべた目を必死に擦り、そう決意した。


そこからの生活は、過酷だった。

まだ本でしか読んだことがない世界。スケールが違った。でも、その1人の少女は決して諦めなかった。

必死に環境に慣れようとした。


「この草は…確か毒は無いはず。こっちの草は薬草に使う。」


「この木、ユスダケが採れるはず。…あった。」


「この木は枝が太いから夜はここで越そう。」


「ここに本で見た簡単な罠を仕掛けて…よし。」


………


「よーし。初日にしてはいい感じなんじゃないかな。」


カシアの前には、食べられる草、栄養価の高いキノコ、小動物の肉が置かれていた。

これらの事が出来たのは、魔力が使えない彼女なりの

努力の成果であり、少女自信も無駄ではなかったと実感する。


「でも…お肉が少ないなぁ…いや、文句をいっちゃだめだ。」


カシアは自分を律し、目の前の材料を軽く調理し、

腹を満たしたところで木に登り、就寝の体制に入る。


「これから、毎日この生活が続くのかぁ。」


そんなことを呟き、慌てて口を塞いで目を閉じた。


と、そんなときだった。木が揺れ始めた。

地震などではなく、明らかに生き物によって揺らされていた。


「な、なんなのこれ!」


必死に木にしがみついて難を逃れたカシアは、恐る恐る下に目線を向けた。


「……っ」


下には、狼の形をした魔獣が三匹いた。

その魔獣は、木に向かって爪を立てていた。


「なんで…出来るだけ跡は消したのに!」


カシアが読んだ本では、跡を消す事が大事だと書かれていた。しかし、焼いた時の匂いは、そうそう消せるような物では無い。肉を焼いた隣の木の上で寝ていた為、気付かれれた。


「なんで気付いてるのっ」


カシアはとても焦っていた。向こうは人とは気付いていないようだが、上に何かがあると言う事は分かっていた様だった。


「どうしよう、どうしよう……!」


と、焦ってポケットに手を入れていたカシアは、

捨てられる前に家で入れてあった隠れて食べる用の

木の実を手に乗せた。


「これでどうしろって言うの…!」


瞬間、カシアはある事を思いつくがあまりにも不確定要素が多く、綱渡りだった。


「…これしかない。」


カシアは覚悟を決めた。

木の実を魔獣に投げつけた。幸い、カシアはまだ小さいので、木の枝に隠れられている。

そして、魔獣がこちらを向いた瞬間、残りの木の実を

自分から離れた所に一気に投げ放った。


「よしっ釣れた!」


魔獣が木の実に夢中になっている間に、彼女は素早く木から降り、その場を去ろうとした。

だが。


パキッ


「…あっ」


カシアは木の枝を踏みつけた勢いで折ってしまった。

魔獣はその音に気が付いたのか、こちらを見た。

その後、こちらへ一斉に向かってきた。


「うわぁぁぁぁぁ!!」


必死に逃げるカシアだったが、魔獣の方が早かった。


「来ないで!」


咄嗟に投げた石が先頭の魔獣に当たり、一瞬距離ができた。その間に、カシア程の少女が一人通れるくらいの道に逃げた。


「はぁっ…はあっ…げほっ…」


咳き込みながらも間一髪で逃げ切り、安堵していた。

だが、逃げるのに必死で、ここがどこなのか分からなかった。


「…ここは何処なの…まさか迷宮?」


この世界には、迷宮という物が存在している。

冒険者を生業としている者は、迷宮探索や魔獣討伐などをしながら生活している。

カシアはここが迷宮なのではないかと思い、少し迷ったが進んでみる事にした。


「何ここ…何も無い…」


その迷宮らしき所には、なにもなかった。

人工的に作られはいないものの、明らかに人為的に掘られた穴が続いていた。途中の道は、土から石に変わっていた。


「…あ、何かある…けど」


奥に進んだ所で、カシアは本らしき物を見つけた。

石の柱に浮かんでいて、少し怪しげな雰囲気だ。


「こんな所に本?なんで…」


少し興味が湧き、読んでみることにした。

本を手に取り、本が浮いていた柱に腰をかけた。


「題名は……禁忌魔法?」


カシアは固まった。禁忌魔法というのは、大昔に一人の魔術師が生み出した魔法の呼称の一つで、禁忌魔法は多岐にわたって存在する。だが、そのどれもが使用を禁止されている。

それほど禁忌魔法は危険だと昔から言われている。


「これ…読んでもいいのかな。」


最早好奇心が抑えられないカシアは、その本を1ページめくった。1ページ目には、1文だけがぽつんと書かれていた。




『魔力持ちし者、この本開けず。』




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