#1 粉
佐久間黄央:どんな事件も解決できる敏腕探偵。右目は猫のように黄色い。時々わがままで最低。時々。依頼人の前では愛想が良い。
白鳥優真:黄央についてる探偵見習い。運動神経は世界一と言っていいほど良く、頭もいい。黄央のことを慕っている。ちょっと変わっていて少し怖くてわがまま。怒らせたら怖い。
八尾図恵留:ここでバイトしている。ずっと笑顔で犬みたいに可愛くて、力持ち。コミュ力が異常なほどある。怒らせたら怖い。
菅原現夢:無口。でも美少年。頭が良くて、病院を嫌がる優真の治療をしたりする。働き者。いつもキッチンにいる。いい子。仁科と繋がったことのある唯一の存在。
八木克己:いつも落ち着きがあって、事件の情報を入手したりして色々手伝ってくれている。黄央と同い年で黄央の愚痴をよく聞いている。
仁科美裕:黄央たちが担当するほとんどの事件に関わっている、黄央と優真の敵。
佐久間亜真夏:三年前に誘拐された黄央の妹。
松永沙耶警部:黄央の一つ年上の小さい頃からの知り合い。かっこいい。
新内魔理沙:ものすごく明るい。なんとなくが当たってたりする、すごい人。バカ。
#1の登場人物
橘由香里:今回の事件の依頼人
橘優:今回の事件の被害者
橘晴人:橘由香里の息子
「電話には様々な音が隠れている。話し声だけじゃないなにかが。雑音、時には?」
「何かを叩く音が聞こえてくる。ですね。」
「そうだ。電話では人の今の気分もわかったりする。顔を見なくても声色、強弱、言葉の間などでその人の状況がわかったりする。つまり?」
「その人の状況などを知るため、会話の内容よりもその人の声色などに耳を澄ましたほうがいい。ですね。」
「そうだ。さて、クイズだ。今から来る電話はどんな電話かな?」
「今から来る電話…?」佐久間さんがそう言った瞬間プルルルと電話が鳴った。
佐久間さんは電話機をスピーカーにし、受話器を取った。
「はい、探偵事務所キャットアンサリングです。」
「夫が…助けて…!」
「わかりました、ほんの少々お待ち下さい。」佐久間さんは電話の送話器の部分を手で隠した。
「さて、答えは?」
「声は女性でした。そして弱い声で声に震えが見え、言葉の間に少し間があった。それに「助けて」という単語を結びつけると…」
「結びつけると?」
「電話の相手は夫を殺された女性。殺人事件の依頼ですね!」
「ああ。そのとおり。」
佐久間さんは送話器から手を離した。
「すみません、ご依頼内容を。」
「夫が…刺されて…!」
佐久間さんは依頼を受けて電話を切った。
「…佐久間さん。」
「依頼だ。行くぞ!」
現場に向かうとすでに警察がいた。
「また黄央とメガネ少年。」
この人は松永沙耶警部。
「だから、メガネ少年ではなく探偵見習いの白鳥優真です!」
「そう。ていうか、何しに来たの?」
「決まってるだろ、依頼を受けたんだよ。」
「はぁ。言ってるよね。探偵は殺人とかそういう依頼は受けられな…」
「行くぞメガネ少年」
「メガネ少年じゃないです!!」
「おいお前ら!!」
佐久間さんは家の中にそそくさと入って行った。
僕はそれについて行った。
松永警部は佐久間さんの目の前に仁王立ちして、「ダメだ。」と怒っていた。
「なんでだよ。」
「だから、探偵はダメなんだよ。ダメっていうか、殺人とか調べるのは探偵じゃないの。わかる?」
「わかるけど、この事件は少しおかしい。」
「何が。」
「まずそれに気づけてないなら、俺らにも現場を見せてほしい。」
「…ちっ。しゃーねぇな。許可する。ただし、この事件の謎を解いた時は、私に報告すること。いい?」
「はーい!優真、行くぞ。」
「わかりました。」
僕たちは探偵だけど、殺人事件の謎を解くのは探偵の仕事じゃない。だから、謎を解いてもそれは警察の手柄になる。それが僕たちの世界。
いや、世界というか、ただ殺人事件に手を出さなければいい話なのだけれど。
「被害者は左腹部を刺されて床に倒れていた。これは聞いてる?」
「ああ。…あれ、依頼人…」
「あ、今事情聴取受けてる。」
「そうか。じゃあ話は後から聞こう。」
「そうですね。」
佐久間さんは遺体があった床を右手で撫でるように触った。そして右手の人差し指と親指を擦り合わせた。
「佐久間さん、どうかしましたか?」
「…なんか、ザラザラしないか?…よく見たら白い…」
「砂糖でしょうか。」
「…塩とかではないな。そんな硬くないし。」
佐久間さんは近くにあったソファの下を見た。
「佐久間さん?」
「ここまでは広がってない…」
「粉がですか?」
「ああ。死体のところにばらまかれたっていうことか。」
「元々ではなく、計画的なというところでしょうか。」
「だな。…あれ?」
佐久間さんは顔をしかめ、首を触った。
「どうしました?」
「おかしい。この粉は白いから粉は血でほぼ赤く染まっているはずなんだ。だけど、粉が赤くなっているのはほんの一部だけ。」
「確かに…。」
「それに、床はフローリングだが、無垢材だから血液を吸収するはずなんだ。それを依頼人が帰ってくるまでの間に処理するっていうのは不可能…」
依頼人が外出をしていた時間は約一時間。いや、依頼人が言うには一時間も経っていなかったらしい。
「まるで犯人が「どうぞ解いてみてください」って言っているみたいだな。この謎、今までの中でも一番簡単だ。」
「え、もう謎が解けたんですか?」
「少しな。他の部屋も見るぞ。」
「はい。」
佐久間さんは依頼人と被害者の寝室に入った。そして、ベッドの上の掛け布団をめくった。でもそこには何もなかった。でも、シーツの下に変な盛り上がりがあった。佐久間さんはシーツもめくった。すると、ロープと大量の注射器、血だらけのバスタオルが二枚あった。
佐久間さんはなにかに気がついたのか、松永警部のところに戻った。
「遺体の首と手首と足首、腹に縄の跡はあったか?」
「縄…というか赤くなって、かぶれていた。」
佐久間さんは再び寝室に戻って血だらけのバスタオルを二枚重ねて床に敷いた。
そしてリビングの電話を見た。そしてまた寝室に戻って寝室のバスタオル、縄を見た。
そしてまたリビングに戻り、電話の裏を見た。そして電話の下にあった引き出しを引き、引き出しから被害者の薬と思われる袋を出した。
「面白いな。」
「何がですか。人が殺されてるんですよ?」
「優真は感情だけで仕事をするのか。同情してたってしょうがないじゃないか。」
「…そうかもですが、面白がるのは少し不謹慎です。」
「殺されたことを面白がってるんじゃない。トリックだ。」
トリックが面白い?
「…まあ、難しいな。」
「ですね…。」
「近くのスーパー、行くぞ。」
「はい。」
佐久間さんが家を出たのは、ちょうど依頼人の事情聴取が終わった頃だった。
「あ…、探偵さん?」
「あ、はい。橘由香里さんですか?」
「はい。」
「少しお話を聞いてもよろしいでしょうか。」
「はい。」
佐久間さんは橘さんに話を聞いた。
「まず、警察の方にもお話しましたが、私はバツイチで夫は息子の晴人が7歳のときに亡くなっています。」
「つまり、被害者の橘優さんは再婚相手ということでしょうか。」
「はい。そして、今朝の話なのですが、私は午前八時頃に近くのスーパーに買い物に行き、八時四五分頃に帰ってきたときには夫は仰向けになって亡くなっていました。そして左のお腹の部分には刺し傷があって…。」
「なるほど。息子さんがいると言っていましたが息子さんはその頃どこに?」
「バイトです。」
「スーパーのレシートとかありますか?」
「はい。」橘さんは棚から財布を出した。そして財布からレシートを出した。
「これ、少し濡らしてもいいですか。」
「はい。」佐久間さんは印刷部分にアルコールを垂らした。
「偽物じゃないな。」
佐久間さんは「ありがとうございました。」といい、寝室に行った。
「…一旦帰るぞ。」
急に深刻そうな顔になった…。
佐久間さんは十秒間目を瞑って膝から崩れ落ちるように倒れた。佐久間さんはいつもそうだ。一時的に眠ることで推理を整理する。
「わかった。」
「佐久間さん!!」
「早く帰るぞ」
「はい!!!!」
佐久間さんは車に乗り込んで事務所に向かった。
あ、改めまして、この人は探偵の佐久間黄央。21歳の敏腕探偵。右目が猫のように黄色いから普段は前髪で右目を隠しています。
そして僕は白鳥優真。18歳。高校三年生の僕は探偵見習いで佐久間さんについていて、自分で言うのもあれだけど時々すごい謎を解き明かしたりします。
ちなみに佐久間さんが解けなかった謎はないです。
「佐久間さん、なにかわかったんですか?」
「ああ。事件の鍵は電話だよ。まず、この電話を聞いてくれ。」佐久間さんは事務所にかかってきた電話を再生した。
「夫が刺されて…!一時間、いや一時間も経ってなかったんですけど近くのスーパーに買い物に行っている間に夫が!」
「この電話がどうしたんですか?」
「よく聞いていたらわかる。」
佐久間さんはもう一度再生した。
「夫が刺されて…!(ガサッ…)(トントトト…)」
「袋の音…?…よく考えたらこれ…」
「ああ。薬の袋の音だ。粉薬の、な。」
粉薬…。そうか!!
「あの粉は薬だったんですね!!」
「そうだ。後もう一つ。」
「なにかをトントンとノックする音も聞こえました。」
「そうだ。よくできました」
佐久間さんはホワイトボードにまとめ始めた。
「まず、依頼人の名前は橘由香里。被害者はその夫の橘優。この二人には橘晴人っていう息子がいた。でも息子はその頃バイトに行っていた。ここまでは良いか?」
「はい。」
「依頼人が言うには約四十五分の間で殺されたと言っている。でも四十五分の間にできる殺人ではない。ということは?」
「外出中に殺されたのではなく、外出前に殺された?」
「惜しい。外出後だな。電話がかかってきた時間がレシートに書いてあった時間よりも後だった。」
「でも、外出後なら依頼人は家にいましたよね。」
「ということは?」
「犯人は…!」
犯人は…
「そう。」
僕達は現場に戻り、松永警部に知らせた。
「わかったのか?」
「はい。」そして依頼人と一緒に息子さんを待った。
「ただいま。…誰ですか…?」
「はじめまして。探偵事務所キャットアンサリングの佐久間黄央です。」
「あ、どうも…。」
「突然ですが、犯人がわかりました。」
「父を殺した犯人がわかったんですか!?」
「はい。」
佐久間さんは前髪をかきあげて右目を見せた。
「犯人は、あなたですよね。
橘由香里さん。」
橘さんはパッと目をそらした。
「…わ、私じゃないです!!ほら、レシートは本物で…。」
「あなたは、外出後、殺したんです。そこにある電話で頭部を殴って。…ここからは僕がお話します。八時四十五分頃、買い物をして帰ってきたあなたは、被害者と何らかのトラブルでもみ合いになった。その後、トラブルは収まったが、腹の虫がおさまらなかったあなたは被害者がアレルギーの粉薬を飲もうとしているときに近くにあった電話機で頭部を殴った。被害者は粉薬を持ったまま倒れ、粉は散らばってしまった。あなたはその粉の上に電話機を置き、電話機の裏に粉がついてしまった。あなたは粉に血がついてしまうと思い、被害者をなんとか持ち上げ、寝室に運んだ。橘さん、あなた、元から被害者のこと殺そうとしていましたよね。寝室に通販サイトのダンボールを見つけました。シールが剥がされて、何を購入されたのかわからなかったのですが、ダンボールの中に注射器分の袋が入っていました。あなた、被害者が寝ている間に血を抜いて殺そうとしていたんですよね。」
被害者を寝室に運んだ橘由香里さんは、血だらけになっても良いようにバスタオルを二枚敷き、そこで注射器で血を抜いた。
「じゃあ、今度はこいつ、優真が説明します。」
「僕のターンですね。では説明します。頭部を女性の力で一度殴るだけでは死なないとわかっていたあなたは、起きないように麻ロープで首、手首、足首をきつく締めた。でもその時、被害者は起きてしまった。被害者は麻、というか繊維アレルギーだったため被害者は首などを痒がり、締められ、意識を失った。だから被害者の首などがかぶれていたんです。そこであなたはまた起きないようにとロープで腹をベッドにくくりつけ、注射器で血を大量に抜き、左腹部を刺し、恰も短時間で殺したかのように見せた。その後、ナイフを洗い、凶器は何者かが持ち去ったかのように見せた。そして、再び被害者をバスタオルごと床に置き、血のついた粉薬を隠すように粉薬を大量にまいた。そしてその上に遺体を運び、電話機を棚の上に戻した。あなたは受話器を取り、警察に電話をかけようとしたが、コンセントが外れたことに気がついたあなたはコンセントを挿し直した。」
「だからコンセントだけ埃被ってなかった。そしてあなたはなぜか我々に電話をかけた。その裏には仁科がいるんじゃないんですか?」
仁科。殺人事件の裏にはいつもこいつがいる。そして犯人は顔を青くし、いつも佐久間さんを見てこういうのだ。
「猫神様…!」と。
「…まただ…!佐久間さん…。」
「…ああ、確定だな。…橘さん、電話でこんな暗号を残しましたよね。棚をノックして。」
佐久間さんは棚をノックし始めた。トントトト、トトントトント、トントトント、トトントトント、トントトト、トントトン、トント、トントントトント。と。
「これはモールス信号です。モールス信号は仁科がいつも犯人にやらせる行為です。そしてこれは「はんにんはわたし」と示すことが出来ます。そしてそれと同時に、薬の袋の音も聞こえました。息子さんはバイトに行っていたのでアリバイがあります。ということで犯人は橘由香里さん、あなたですよね。」
「…はい。」
「母さん…なんで。」
「あの人が、息子の、晴人のことを馬鹿にしていたんです。「バカで、いじめられっ子。だからクラスの最下層なんだ」って。それ以上に酷いこともたくさん。だから、殺しました。」
「…母さん。」
「…橘由香里さん、殺人の容疑で逮捕します。」
「はい。」
橘由香里は逮捕された。
「ふぅ…疲れたー!!!」
事務所に戻った佐久間さんは事務所にあるベッドにダイブした。
「それにしても、佐久間さん、今回も猫神様とか言われてましたね。」
「ねー。今回もまた仁科のこと探れなかった。」
「ですね。あと、もうそろそろこの事務所の名前変えませんか?ちょっと恥ずかしいです。」
「我慢して。」
「…はい。」
二人でベッドに寝っ転がっているとピンポンとインターホンが鳴った。
「はい。」
ドアを開けると晴人くんがいた。
「先程はありがとうございました。これ、お金です。1万円。」
「いいよ今回は。殺人とかは本来、僕らは担当しないんだ。」
「でも…」
「いいの。ありがとね。」
「じゃあここで働いていいですか?」
「え?」
「ここでバイトさせてください!!」
晴人くんの真剣な眼差しとキラキラの顔面を見ると断る事ができなかった。
「…良いよ。」
「やった!!!」
新しい仲間が増えた。
「改めまして、八尾図恵留と言います。」
「ん?君は橘晴人くんだよね。」
「あれ、言ってなかったですか?実は、母と父はもう離婚していて、父の名字が橘、母の名字が八尾図で。僕は母の連れ子なので八尾図と。」
「あー。なるほどね。え、恵留っていうのは?」
「父が酷い人で。前の父がつけた名前を嫌い、我が家では晴人という名前で…。本名は恵留です。よろしくおねがいします。」
「なるほど、よろしく。あ。僕は白鳥優真。探偵見習い。そしてあそこのベッドで寝っ転がっている人がさっきも言ってたけど佐久間黄央さん。この人は凄い探偵で、この人が解けなかった謎はないんだ。敏腕探偵。」
「そうなんですか!よろしくおねがいします!佐久間さん!」
佐久間さんは寝っ転がったまま手を挙げた。
「そういえばなんですけど、仁科って一体?」
「簡単に説明すると僕達の敵だよ。」
「敵?」
「そう。」
遡ること三年前。まだ探偵見習いだった佐久間さんは4歳離れた当時14歳の妹、佐久間亜真夏と二人で母の日のプレゼントを買いに行っていた。妹さんは少し、いや結構大人びていて、いつも大人と間違えられていた。
「無難にお花とかは?カーネーション。」
「カーネーションだけ?なんか寂しくないか?母さんなんか欲しいとか言ってなかったか?」
「…あ、今流行ってる口がプルプルになるリップ!あと、靴下がほぼ穴空いてるから靴下って言ってた気がする。」
「靴下とリップな。」
佐久間さんと妹さんは買い物を終え、外に出ると辺りは暗くなっていた。
「もう暗いな。」
「ずっと探してたもんね。帰ろっか。」
「おう。」
家までの通りは街灯も少なく、人気も少ない場所だった。
「お母さん喜ぶかなー!」
「だな。」
二人は手を繋いで仲良く歩いていた。でもその時間は長くは続かなかった。
黒い車が二台、二人を挟むように止まり、覆面を被った奴らが妹さんを連れ去ろうとした。
「亜真夏!!!!!」
「お兄ちゃん!!!!」
佐久間さんは妹さんの腕を掴もうとした。でも覆面を被った奴らが佐久間さんのことを抑えつけ、手は届かなかった。佐久間さんは悶えながら妹さんの名前を何度も叫んだ。
「仁科さん、こいつらどうしますか。」
「この女だけ連れてけ。」
「はい。」
佐久間さんはその時、ナイフのようなもので目を刺された。
だから佐久間さんの目は黄色いのだ。
…なぜ黄色かはしらないが。
そしてナイフのようなもので右腕を刺された。だから佐久間さんの右腕には長い傷がある。
痛さに苦しみながらも妹さんを連れ去った車を追いかけた。でも流石に追いつけず、警察に連絡した。
三年経った今も、妹さんは見つからない。
「…なるほど。…それにしても、なぜ仁科と言う名前を?」
「あの時覆面の奴らが言ってたかららしい。仁科って。仁科は、僕たちが担当する事件に絶対関わっている。」
「なぜそれが?」
「その誘拐事件から一年後、19歳になった佐久間さんは立派な探偵になったんだ。探偵は浮気調査とかが本来の仕事。でもこの事務所に一件の殺人の依頼が来たんだ。」
「はい、佐久間探偵事務所です。」
「…姉が覆面の奴らに連れ去られて…刺されて…」
「え…?…あ、すみませんが、そういう依頼は受け付けておりませんので…」
「犯人は仁科です!!覆面の奴らがそう言ってたんです!!」
佐久間さんは受けてはいけないはずの依頼を『仁科』という名前を聞いてすぐに受けた。
「…黄央??」
「松永の姉ちゃんじゃん!」
「松永警部補と呼べ。」
「あ、はい。」
現場に行った時、松永警部が捜査をしていた。
実は佐久間さんと松永警部は小さい頃からの知り合いで、ご近所だったそうだ。
「どうしてここに?」
「依頼を受けたんだ。」
「依頼…?」
「俺、探偵やってるんだ。」
「探偵!?というか、探偵のあなたが、どうして。殺人とかそういうのは受け付けられないでしょ?」
「…俺の妹、いるだろ?」
「うん。亜真夏ちゃんでしょ?元気?」
「いや…亜真夏は誘拐されたんだ。一年前に。」
「は…?嘘でしょ?」
「嘘じゃない。…誘拐犯の名前は、仁科。…この依頼人、「犯人は仁科だ」って言ってたんだ。」
「…じゃあ特別に今日だけ、許可する。この事件の謎を解いて。」
「わかった。」
この事件は殺人未遂だった。そして犯人が四人いた。四人のうち三人は黙秘し続けたが、一人が仁科の名前を出したことで解決した。
「仁科美裕です。僕たちはこの男に命令されて動いてました。…他の三人の一人、結城龍樹が龍樹の彼女、被害者を殺したいと言っていて、僕と他の二人はその結城龍樹に手伝わなかったら殺すと脅されました。このことを喋っても殺すと脅迫されて僕たちは彼女を殺そうとしました。でもやっぱり…僕にはできなかった。殺されそうになった僕は…女の子の手を刺しました。手を刺して、「お腹に手を当てて痛がってるフリをしてくれ」と彼女の耳元で頼みました。僕は女の子にスマホを渡して結城達と逃げました。」
犯人は普通の少年達だった。そしてこのことを教えてくれた犯人が菅原現夢くん。まだ16歳の少年だった。
そして被害者の証言でこんな話も出た。
「覆面を被った少年がスマホを渡して「すぐに警察と救急車に電話して。…こんなことをしてごめんなさい。すみません。あと、今から僕はあいつの名前を呼びます。動画を回してください。」と少し潤んだ瞳でそう言いました。目しか見えなかったけど、悲しそうな目をしていて…。」
被害者はその瞬間に録音をし始めた。
「結城くん、逃げよう。…もう殺せたから。龍樹くん。」
これが録音の内容。そしてそこにはモールス信号も。
トントントントトン、トトントトトト、トントトン、トトト、トントトントントト、トトントトント、トン
(すがわらげんむ)と残されていた。
そしてその後にトントトント、トントトントントト、トトントトントン(逃げて)とも残されていた。
実は被害者はモールス信号や、点字などを覚えているそうで、現夢くんはそのことを知っていたのかモールス信号で彼女に伝えたのだ。
そして現夢くんのスマホからは脅迫されていた時の録音も残っていた。
現夢くんと他二人の罪は無罪判決となった。
被害者も、依頼人もそのことを納得している。
「そういうことが…で、現夢くんは?」
「あ、そこにいるよ!」
「…は?」
僕が指を差したキッチンを恵留くんは恐る恐る見た。
「いる!!!!!」
「ずっといましたよ。掃除してたんです。ていうか、やっぱり僕、存在感ないですか?」
「ごめんないわ!!!」
「失礼ですね。」
「ていうか、とんでもないイケメン!」
「ありがとうございます。」
「あと敬語じゃなくて良いよ!現夢くん十七歳でしょ?高二?」
「うん。」
「じゃあ尚更敬語じゃなくていいよ!僕もだから。」
「わかった。」
なんか、恵留くんはすごいんだなー。一瞬で打ち解けた。
いや、現夢くんもすごい。ある意味。
「黄央さん、キッチン綺麗になりましたよ」
「あー、ありがとう。」
佐久間さんはそう言いベッドから立ち上がってキッチンに立った。
「佐久間さん今から何するんですか?」
「料理だよ。佐久間さんはいつも、謎を解いた後とかは綺麗なキッチンで料理をするんだ。」
「ほぇー!器用なんですね!」
「まあ、佐久間さんだからね。」
佐久間さんが袖をまくり、冷蔵庫を開けた瞬間電話が鳴った。
佐久間さんは冷蔵庫を閉めて電話に出た。
「はい、探偵事務所キャットアンサリングです。」
「あの、浮気調査を頼みたいんですけど…」
「かしこまりました。詳しくお話を聞かせてください」
数分後、インターホンが鳴った。
「じゃあ僕は向こうのソファで見学してますね!」
「わかった。現夢くんも恵留くんと一緒にいて。いろいろ教えてあげて。」
「はい。」
僕はドアを開けた。
「こんにちは、先ほど電話した仙崎です。」
「お待ちしておりました。どうぞ中へ。」
僕はそう言い、依頼人を招き入れた。
そして椅子に座らせた。
「じゃあ、依頼内容を。」
佐久間さんがそういい、僕はパソコンを開いた。
「…夫が最近帰ってくるのが遅くて、ただの残業かと思っていました。でも頻度が多くて、休みの日でも「ちょっと急用ができた」と家からいないことが増えて、身だしなみにも気遣うようになって、ついには家に私ではない茶色い髪の毛が落ちていたんです。」
「なるほど。それで、浮気調査を。」
「はい。」
「わかりました。その依頼、お受けします。では、契約書にサインを。」
「はい。」
「…佐久間さん、ガラリと雰囲気変わったね。」
「そりゃそうさ。黄央さんと優真さんは巷でも有名な愛想がいい素晴らしい探偵さんたちなんだから。あ、これが本来の仕事ね。」
「そうなんだ!」
「じゃあ、早速調査を開始します。」
佐久間さんと僕はそういい事務所から出た。
「僕たちも追うぞ。黄央さん達。」
「うん。」
「あそこが私の家です。…あ、夫が出てきました。」
僕たちは依頼人を隠すように近くの物陰に隠れた。
「結構ラフな格好をしていますね。」
「だな。多分どっか行くんだろ」
「…。」依頼人は落ち込んでいた。
「大丈夫です。とりあえず旦那さんについていきましょう。」
「はい…。」
依頼人の夫は徒歩で数m進むと、おしゃれな家に入って行った。
家からは可愛らしい女の子が出迎えていた。
「家から出るまで待ちますか?」
「はい。」
数十分、隠れていると上半身裸の旦那さんが二階の窓から見えた。
「…!」依頼人は拳をぎゅっと握りしめて家に向かった。
「ちょ、仙崎さん!!」佐久間さんは依頼人のことを引き止めた。
「手、離してください!」
「引き止めたわけではなくて、電話繋いだまま行ってください。」
「あ…。はい。」
佐久間さんは依頼人にイヤホンを渡した。
「これからはあなたの戦いです。好きな事を言ってきてください。」
「はい。」
依頼人は家に向かって走った。
そしてインターホンを押して正体がバレないように俯いた。
「…すみません、町内会の者です。」
「あ、はい今出ますー。」
ドアからは女の子と服を着た旦那さんが出てきた。
「…久美子…!?」
「このもやし野郎!!そんなぶりぶりしたクソ女のどこがいいんだよ!よく見たら不細工じゃねぇか!!」
依頼人はそういいビンタをした。
「このババア誰。」
「流美ちゃん、この人はね…」
「このクソ野郎の妻ですどうも。」
「妻?は?私、この人の彼女なんですけど。」
「でも私の方が先に付き合い、籍を入れています。とりあえずお前はこっち来い。」
依頼人は旦那さんの手を引っ張って家から出し、ドアを無理矢理閉めた。
そして僕たちの方に向かってきた。
「この人たち、探偵さん。」
「え、あ、…どうも。」
「こんにちは。仙崎さん、今後どうするかはあなたたちが決める事です。どうしますか?」
「とりあえずもう浮気しないで欲しいです。あと慰謝料が欲しいです。」
「わかりました。詳しくは事務所で話しましょう。」
二時間後。
「久しぶりでしたね。浮気調査。」
「ああ。最近はストーカーとか、嫌がらせ調査とかが多かったからな。」
「あと…殺人事件。」
「本業じゃないけどな。」
「そろそろお金やばくないですか?殺人事件の時だけもらわないのは。」
「まあ…な。」
その事を聞いていたのか、恵留くんがお財布を出してきた。
「恵留くん…。だから大丈夫なの。」
「せめて五万円だけでも受け取ってください。家には二百万はあります。」
「え!?」
「貯めてるので。」
「佐久間さんどうしましょう…」
「…受け取れ。」
「はい!ぜひそうしてください!」
「佐久間さん!?…わかった。受け取る。」
「ありがとうございます!」恵留くんは笑顔で現夢くんの元に走って行った。
翌日。
「おはようございます…。」恵留くんが眠そうに事務所に来た。
「あれ、恵留くん学校は?」
「何言ってるんですか白鳥さん。夏休みですよ今。」
「あれ?そうだっけ。あ、そうだ、僕もだ。仕事しながらだから全然実感ないや。」
「はい。え、僕も…?」
「あ、言ってなかったっけ。僕、18歳。高校三年生。」
「え!まさかの真実!先輩!?」
「うん、だから別に敬語じゃなくてもいいよ!」
「いや、先輩なので敬語で。」
「そっか。」
現夢くんがカウンター席で頬杖をつき、眠そうに挨拶をした。
「おはよう。」
「おはよう!」恵留くんはその挨拶に元気よく挨拶をし返した。
佐久間さんは相変わらず寝っ転がっている。
寝てはいない。
すると
プルルルルと電話が鳴った。
佐久間さんは起き上がって電話に出た。
「はい、探偵事務所キャットアンサリングです。」
「お姉ちゃんが!助けて!」
「佐久間さん。」
「…ああ。依頼だ。
行くぞ。」