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(83)サッカー好きの兄


結局、何もできなかった。

劇を見た足で僕はそのまま職場へ向かう。


「今日もよろしくな」


肩を強めにポンと叩かれて

僕はその場所に立つ。


今日も偉そうな格好をした

スーツ姿の男が会員証を見せた。

僕はそれを確認して、中へ通す。



スーツ姿の人達の多くがつけている

そのバッジが政治に関わる人間だと

言う事に気付いたのは最近だ。


だからといって、何がどうなのだと

僕は思う。

きっと、密談的な場所に使われるのが

ここなのだろう、そんな気がした。



仕事のことは意識の外で

僕は小雨さんへ近づく方法を考えていた。

彼女の芸能人的な人気は加速していて

そこに一般人の僕が近づくのは

難しいのだろう。


地下アイドルとか、若手お笑い芸人なら

なんとか繋がれたかもしれないけど・・・


でもさっき、僕は確かに

彼女と目があったと思

間違いなく、僕を意識してくれた

そんな気がした。



そもそも、小雨さんと

下部楽風馬の関係って

まだ続いているのだろうか?


僕はスマホを取り出して

久しぶりに由依にメッセージを

送ってみる事にした。


戦わずにして、フラれた。

由依に。



ー〝久しぶり。お前の兄貴ってまだ小雨さんと付き合ってんの?〟ー



日付が変わりそうな時間だというのに

すぐさま返信が来る。



ー〝たぶん。最近のにいちゃんの事、よく知らない〟ー


ー〝仲悪いの?〟ー


ー〝兄貴が東京行ってから、疎遠って感じ〟ー


ー〝へぇ〟ー


由依の話によれば

兄・風馬は高校中退後

役者を目指すなどと言い出して

上京したのだという。



ー〝あんなにサッカーが好きだったのに〟ー



由依のそのメッセージに

僕の胸は痛んだ。


椎葉さんがそうであるように

きっと・・・由依の兄貴も・・・

一度死んでしまっていて

中身は神様が動かしているに過ぎない。


だからきっと

由依の知っているサッカー好きの兄は

もう存在していないんだ。


なんとなくだけど

僕は思う。

兄は由衣から

少しずつ距離を置いて

きっと・・・そのままどこかへ



・・・いや、今考える事じゃないか。



その瞬間、エレベーターのドアが開く。



客が来た。



・・・えっ?



「えっ?」



僕は思わず口を出す。

思わぬ客が現れた。




「小宮?」


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