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82/119

(82)舞台女優



ついにその日が来た。

チケットは残りわずか!なんて言ってたくせに

簡単に手に入った。


僕は街中の少し有名な劇場にいた。

今日は三依美雨さんが主演の舞台の日だ。



〝タイムリープは1日1回5分まで〟という

しょうもないタイトルの舞台だった。

時間を巻き戻せるなら、僕だって戻りたい分岐点は

いくらでもある。



満員の観客。

暗くなる照明。

ブザーが鳴り、幕が上がる。



学校を舞台に物語は展開していた。



そして、彼女が現れた。

高嶺の花、絶対的な美女役の女。

三依美雨。



僕は、心を奪われそうになる。



久しぶりに生で見るその姿は

とても綺麗だった。

宇宙人じゃなければ、

その事を知らなければ

僕はきっと、心を奪われていただろう。



周りの観客達は、

きっとそうだ。




こうして舞台が終わる。

僕は帰って行く客の最後尾で

事前に調べた通りの建物の裏口へ向かう。

警備員が制しているのに

出待ちの客達で溢れていた。



・・・これじゃあ

全然近づけないぞ!


キャストが続々と手を振りながらタクシーに

乗っていく。


そして、1番の歓声が聞こえる。

それがすぐに美雨さんである事は

分かった。



手を振りながら、彼女はタクシーに向かって

歩いて行く。僕は何度かジャンプしなければ

それを確認出来ない位置にいた。



これじゃあ・・・

中学の時と同じだ。

近づけやしない。



僕は意を決して

駆け寄る。

人混みに割り込んで、

最前列に向かって

走り出す。


そしてめり込むように顔を出した。

視界に映る、近距離の三依美雨さん。



彼女と目が合った気がした。



「小雨さんっ!」


思わず僕は昔の名前で彼女を読んだ。

小雨さんは少しだけ、変な反応を見せて

そのままタクシーに乗ってしまった。


あのタクシーを足止めしようか

僕は悩む。

あのタクシーのタイヤをひとつ

破壊すれば良い話だ。



でも僕にだって想像力がある。

事故になる。罪のないタクシー会社の人が不利益を被る。


出来ない。

かといって・・・

このチャンスを逃していいのだろうか。


遠のくタクシー。




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