(78)妹
「よぉ、今日も頼むぞ」
僕の肩をそれなりの力で叩く。
コワモテの彼は雇用主だ。
僕はまた狭いビルのエレベーターホール入口で
待機をする。
客が来たら会員証を確認する。
会員証が確認出来たらカーテンの先へ通す。
それだけの事だ。
もし怪しい人間が来たら
ボタンを押す。
それだけの事。
でも、看板もないこんな場所を
目当てに来る怪しい人間なんていない。
仕事を始めてしばらく経つけど
怪しい人が来る気配はなかった。
というか、大層な立場の感じの
大人しか入店してこない。
しかも、決まってひとりだ。
ひとつ、謎に思っていたことがある。
僕は入店する人を別けているだけだが
退店する人を見た事がない。
別の出口があるんじゃないか
そんな気がしていた。
もっとも僕はこの建物の事を
知ろうとら思わないし
知りたいとも思わない。
こうして、夜が明ける頃
僕の仕事が終わる。
家に帰ると
清水さんは顔が死んだまま
眠っていた。
「アスカ・・・」
などと寝言を言っている。
この前連れてきた女の名前だろうか?
僕はこの人に住まわせて貰ってるけど
まだこの人の事を知らない。
アスカって彼女の事なのだろうか?
僕は清水さんにブランケットをかけてあげる。
優しさのつもりでそれをしたのだが
清水さんは目を覚ました。
「よぉ、お疲れ」
「清水さんこそ」
「マジでもう胃が無理だ」
売れないホストの癖に
酒は飲まないといけないらしい。
「清水さん、アスカさんって誰ですか?」
僕が冗談混じりに尋ねると
清水さんはだるそうな目を開いた。
冷や水を浴びせられ、酔いが覚めたかの様に。
「お、お前・・・いまなんて?」
「えっ、いや・・・アスカさんって」
「どうしてその名前を?」
「いや、寝言で言ってたから」
「んだよオメェよー」
分かりやすく肩を落とす清水さん。
「あれ、なんかまずかったですか?」
少し慌てる僕。
「飛鳥は俺の妹だよ」
「へぇ〜、妹なんているんすね」
「行方不明だけどな」
「なっ・・・」
なんて反応すればいいのか分からない。
おもむろにスマホを取り出し
清水さんが写真を見せてきた。
「これが飛鳥な。隣は若い頃の俺だ」
今よりも肌艶があり
茶髪でツンツンの髪の毛の清水さん。
その隣にいる妹の飛鳥さんは・・・
「えっ?」
椎葉さんにそっくりだった。




