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(60)卒業式



「なぁ、結局椎葉さんって帰ってこなかったよな」



きゅぽっ、きゅぽっと音がする。

卒業証書を入れる筒のそれの

フタを小宮が抜き差ししている。


間抜けな音だ。

アホのコイツに似合う音ではある。


僕は今日、義務教育を終えた。


中学2年生の時、あの日。


僕の前に突如として現れた女の子。

いや、破壊の神。

彼女は創造の神、風馬によって封印されてしまった。



僕はあの日、三依小雨さんが

僕の親の人生をめちゃくちゃにした

透明教の教祖、九段下単元だと知った日から



僕の人生が逆転不可能だと



そう悟った日から。

椎葉さんを探す事なんてやめて

ただ、出会う前の日々に戻った。




義務だから、平等に与えられた権利だから

学校に通っていたに過ぎない。

その生活も、今日で終わる。



小宮は最後まで優しい奴だ。

教室で浮いた僕に気を遣って

話しかけてくれたのだ。



周りの生徒達は進学先の話とか

春休みの遊びの計画だとか

いつも通りの話とか


別れの日なのに、楽しそうにしていた。


まるで、僕の存在なんか

無かったかのように。



由依とデートしていたことが

実は裏目に出ていたらしい。

僕はクラスメートの謎の反感を喰らい

元通りのようにハブられて

聞こえるから、裏口ではないのだけれど

殺人犯の子どもである事を囁かれ続けた。



由依は、彼女なりに普通を装って

僕に接してくれたけど

結局僕と一定の距離を保ったままだった。



卒業式も、僕は彼女に声をかけることが

できなかった。


いっときの夢だったんだ。


椎葉さんがいなくなった日。

その日からの距離が遠のくと同時に

僕は現実を受け入れ始めていた。


将来、どう生きるべきなのか、とか。

僕に対する支援は、いつまで続くのか、とか。


あの人たちは、いつ、どうなるのか、とか。



ただ僕は、小宮が発する間抜けな音を

聞きながら・・・


誰に挨拶するわけでもなく、その場を去った。


これが僕の生涯でいうところの

学園生活の終わりだ。



【第一部 完】


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