(6)踏まれた花
地球の命運は僕にかかっている。
地球の為に!全人類の為に!
僕はまず三依小雨さんと
お近付きにならなければならない。
とはいえ。
直ぐに何かを出来るわけもなく。
僕は放課後を迎えていた。
虚しいチャイムが鳴る。
僕はいわゆる幽霊部員。
部活動なんて行ってない。
入らなきゃならないから将棋部に入っている。
席だけ空いている感じだ。
これから教室の掃除をするのだけれど
三依さんと掃除の班が一緒というわけでもないし
もちろん同じ部活でもないから
今日は三依小雨さんに近づく事は無い。
僕に地球の命運がかかってるっていうのに・・・
僕は呑気に教室の机を移動させて
掃き掃除をしていた。
バレないように意識して、三依さんの机に触れてみる。
別に何の変哲もない。ただの机。
宇宙人仕様でもなんでもない。ただの机。
別に他の奴らと変わりないのに
良い匂いがしそうだ。
なーんて、無駄な妄想をしながら。
僕は掃除を終えて帰る。
下駄箱で靴を履き替える。
「おーい、今日は来ないのか?」
僕らの学年で1番人気の先生、国北。
通称ニキータ。
彼は将棋部の顧問だ。
帰ろうとしている僕を見つけて
声をかけてくれたのだ。
「すんません、用事あるんで」
「そっかー」
ニキータは忙しそうに去っていく。
気には掛けてくれるけど
そこまで深入りはしない。
先生達も僕と適切な距離を保っている。
玄関口からは校庭が広がっていて
サッカー部が走っている姿が見える。
「あの一番身長の高い奴」
「うわぁっ!」
サッカー部の走りっぷりを見ていた僕の横に
知らぬ間に椎葉さんがいた。
なぜこの場所に!?
今日は白のパーカーに黄色のスカート。
やっぱり謎センスだ。
「よ」
「よっ!って!椎葉さん!?どうしていきなり!?」
椎葉さんの顔は幼い。
年齢は聞いてないけど中学生と言われても
納得出来る。
でも、制服を着てないから、この場所では浮いている。
そんな浮いた子と僕のコンビに近づく生徒はいない。
「対象の観察さ」
「観察・・・」
「ところでゆー、今日の成果は?」
「なんの・・・成果も・・・」
「ふむ。簡単じゃない事は分かる。引き続き頑張るのさ」
「うん」
そんな会話をしている間に
僕の視界に映る世界である出来事が起きていた。
きっと椎葉さんも見ていたはずだ。
玄関口から見える景色。
サッカー部が校庭をランニングしていた。
一周目、部員のふざけた奴が花壇に足を入れた。
その花の名前は僕には分からないが
それが踏まれたのだ。
踏まれた花は折れた。
僕は人間について思う事は少ないのだけれど。
その花のあっけない散り際に胸が痛んだ。
でも、その後、校庭を周回して
それなりの距離を走って
サッカー部が再び花壇に来た時。
僕は確かに見たんだ。
ランニングをしながら。
創造神の下部楽風馬が
魔法みたいに指を振った。
こっそりと、皆には見えないように。
指先にあったのは、踏まれた花。
それが姿を取り戻した。
「ねぇ、椎葉さん・・・今のって」
「うん。創造神の力なのさ」
「花を治してあげたの?」
「厳密に言えば、創っただけ。治してはない」
「よく分かんないよ」
よく分からないけど・・・
僕にはあの人が敵には見えなかった。
折れた花を
咲かせてあげる人。
そんな人が悪者には思えない。
創造の神か。
破壊よりは良いと思う。
「ゆー、放課後は暇なのか?」
「うん。部活行ってないし」
「デートするかの」
「うん」
「宇宙人の事、教えてやるのさ」
「宇宙人のこと?」
「うん」
へぇ・・・宇宙人ねぇ・・・
って、デート!?
デートですか!?