(44)見たくない
「由依っ!」
足がすくんだ。
男は由依を下羽交い締めにしながら
淡々とブツブツと語り始めた。
「邪魔すんなよ・・・俺の連続放火記録・・・火って最高。自然って最高だ」
助けなきゃ。
見るからにある体格差。
恐怖で怯える僕。
どうふればいい?
あの太い腕っぷしを
早く取り払わなければならない。
そうだ、僕には
力がある。
対象を意識してその手を
グーして、パー。
そうすれば、対象は爆散する。
でも、由依も被害を受ける。
じゃあ、パーしてグー?
そうすれば、対象はくしゃくしゃに
潰れる。
いや、これも由依が巻き込まれる。
僕は指で銃を作る。
撃つんだ。
由依を羽交い締めにする
この放火魔を・・・
ー〝破壊だけが解決方法だとは思わない〟ー
由依の兄の言葉が
脳裏をよぎる。
破壊がダメなら、
交渉するしかない。
対話だ。
僕は震える声で
男に問いかける。
「やめろ、」
「ふざけんなガキ」
「やめろよ!」
「やめねぇ!次はお前だ!」
「分かった、僕が代わりになる」
「このアマをノしてからだ!」
「金っ!金ならある!」
「ガキぃ〜?舐めんなよ!」
だ、だめだ。
話が通じない。
今出来る、最善手は・・・
アイツを撃って、粉々にする事。
あの放火犯は・・・たぶん人間だ。
僕と同じ。人間。宇宙人じゃない。
そうなれば僕は人殺しだ。
いいのか?
それで?
人殺しの子どもが・・・
結局人殺しだったというオチ・・・
笑える。
笑えるよ。
でも、目の前の由依が
今にも泣きそうなんだ。
涙を流す姿なんて
絶対に、見たくはない。
天秤にかけろって事だよ。
僕の人殺しと
由依の事。
違う。
きっと・・・それが
解決方法じゃない。
僕は指先を変える。
撃つ方向を変えて、それを放つ。
「頼む!」
路地裏。ビルとビルの裏側に挟まれた道。
僕は剥き出しになっていた
ビルの配管に銃を放つ。
配管は粉々になって、その瞬間から、水が吹き出した。
この前、下部楽風馬がやった事の
真似事だ。
男は突如降り注いだ雨に一瞬気が緩む。
その瞬間、由依はかかと落としで
男の金的に蹴りを入れた。
その怯みで由依は離れる。
僕は直ぐにその手を取り
由依を引っ張る。
「逃げよう!」
僕は由依を先に走らせる。
狭い路地、僕は由依の後ろを走る。
一瞬振り返る。
大きな拳が
僕の顔に飛んでくる。




