(2)滑り台のない公園
「みーの名前は椎葉しい」
その女の子は自らを
〝椎葉しい〟と名乗った。
ショートボブ。黒髪。
紫のパーカー。
赤のチェックのスカート。
名字が椎葉で、名前はしい。
彼女は自分の事を〝みー〟と呼称するし
僕の事は〝ゆー〟と呼んできた。
僕は彼女の事を〝椎葉さん〟と呼んでいる。
ただ、彼女の名前なんて
重要じゃなかった。
彼女に曰く、彼女は神様。
日本語の名前なんて取ってつけたものなのさ
と説明をしてきた。
「ゆーに話しかけたのには理由があるんだ」
「理由?」
今、僕は公園にいる。
突如現れた、自称破壊神の椎葉さんに
話しかけられて今に至る。
「毎日つまらない、って顔をしていた」
「うん…え?それで話しかけてきたの?」
神様が?
「みーはね、相棒を探していたんだ」
「相棒?」
「うん。一緒に宇宙人を破壊してくれる相棒」
「は、はあ…」
ショートボブヘアの難解な言葉を
理解するには時間がかかる。
宇宙人?
破壊?
宇宙人って宇宙から来た人?
破壊って壊すって事?
人を壊す、って・・・
殺人って事!?
急に物騒な話になったなと思う僕。
「この地球のとある宇宙人が創造神と恋をしてるのさ」
「へ?なになに?どういう事?」
宇宙人と破壊というワードにさえ
理解が追いつかないのに
今度は〝創造神〟?
宇宙人がいて
創造の神と恋をしてる!?
まてまて、まず、創造神ってなんだよ!
そんな僕の理解度の確認などせずに
椎葉さんは話し続ける。
「みーの目的は宇宙人の破壊」
「破壊って・・・」
「その為に宇宙人と神を破局させるのさ」
次に出てきた謎ワード。
破局。
破局って、芸能人カップルが別れた時とかに
よく使われる言葉?
あの意味の破局?
「ちょ・・・ついていけないよ椎葉さん」
「順を追って話すから、ゆーは聞いてればいいのさ」
そういって椎葉さんはスマホを取り出した。
神様っていっても普通に人間の格好だ。
しかもスマホ持ってる。フリック入力も早い。
回線の契約って神名義でしてるのか?
そんなどうでもいい事ばかりが頭をめぐる。
ほれ、と言いながら
椎葉さんは僕にスマホの画面を見せてきた。
「ゆーはこの顔に見覚えがあるよね」
僕は背筋が凍る。
「え?…」
画面に映っているのは
僕のクラスにいる女の子。
三依小雨さん。
クラスいち、いや学校いち…
いや世界一可愛いと名高い女の子。
「この子、宇宙人なのさ」
「はあっ!?何言ってんだよ!」
俺たちのマドンナが宇宙人!?
「すごくかわいいでしょ?」
「べ、別に僕は可愛いとは…」
「あれはね、宇宙人の特技。擬態」
「ギタイ・・・?」
ついていけない。
突如現れた破壊神がスマホを取り出して
クラスメートを宇宙人呼ばわりしている!
「小雨さんが宇宙人って事は…ええっと、椎葉さんが小雨さんを破壊するって事?」
「そう。みーが地球に来た使命はそれ。小雨さんの破壊」
破壊!?
表現が怖すぎる!
かわいい顔してるのに、破壊!?
「うーん…破壊って…どうやって?」
「例えばさー、あれ見てよ」
そういって、椎葉さんが遠くにある滑り台を指さした。
椎葉さんは右手でパーからグーの形を作ると
それに連動するように滑り台がつぶれていく。
…まるでアルミ缶をつぶすように
折れ曲がり、たたまれていく。
「えっ?」
「ああやってくしゃくしゃに出来るし、丁寧に解体もできるし、爆散させることもできるし、フッと消すことも出来るのさ」
椎葉さんが手を箒に見立ててサッっと払うと
鉄くずと化した滑り台はフッっと一瞬で消えた。
さっきまで僕が座っていたベンチが消えたのも
きっと彼女の仕業だったのだろうか。
破壊神の…椎葉しいの力…
ってあれ…?
僕って
ヤベーやつと手を組んだの?