(19)対局
放課後、近付き作戦。
これは僕がテキトーに思い付いた作戦だ。
これを実行する為に僕は久しぶりに
部活動へ行く。
将棋部。
名前だけ在籍していて
ほぼ行ったことはない。
顧問は地歴の教師、国北。
通称ニキータ。
何の運命なのか、顧問は
椎葉さん曰く宇宙人なのだと言う。
僕は久しぶりの部室へ向かう。
放課後の理科室を借りているのが
将棋部だ。
科学部と相部屋で活動しているぐらいで
どちらも部員数は少ない。
将棋部は3人。僕を含めて。
薬品の独特な香りのする理科室。
そこに到着する。
将棋部のメンバーはまだ誰もいない。
理科室に久しぶりに現れた僕・・・
曰く付きの僕を科学部部員達は
見て見ぬふりをしている。
僕はこんな事で
居心地が悪いとは思わない。
慣れっこだからだ。
この隣の部屋が吹奏楽部の使う音楽室になっている。
隣の部屋に吹奏楽部の三依小雨さんがいる。
それだけの事。
これを勝手に放課後お近づき作戦だなんて
名付けてしまった僕。
狙いは単純。
部活が終わる時間は
同じだから、皆が帰る時間に
彼女に会えるかもしれない。
そんな安直な作戦である。
まずは時間を潰す為に
部活動だ。
ガラガラガラ・・・
引き戸が開く音がする。
3年生の飛砂先輩と
角水先輩が現れた。
ふたりはゲイと噂されるほどの仲良しコンビだ。
僕を見るなり
ふたりは驚いて、顔を見合わせている。
「や、やぁ・・・久しぶりだね」
飛砂先輩が恐る恐る声をかけてきた。
「ういっす、先輩」
「げ、元気してたかい?」
僕の事を上辺だけでしか知らない人は。
僕にビビっている。
飛砂先輩も角水先輩も。
「元気でしたよ」
「そ、そうだ!対局しようか?」
「いえ!大丈夫です!」
僕は拒否をする。
じゃあ、何しにきたのだ?
なんて突っ込まれそうな気がしたけど。
ふたりは無言のまま・・・
というか僕を無視するように対局を始めた。
見て見ぬ振りをするように。
僕はふたりの対局の盤面ではなく
隣の音楽室側の壁を見ていた。
さて、放課後お近づき作戦などと言ったけれど・・・
ここからどうすべきなのか迷う。
「おいおい、先生の事待っててくれたのかぁ?」
そう言って現れたのは国北。
折り畳み式の将棋盤とコマのセットを持っている。
「えっ」
そうじゃなかったので
僕は素の反応をしてしまう。
それに少し悲しい顔をする国北。
こんな人間味溢れる先生が
宇宙人だなんて
僕には信じられない。
「よし、やるぞ」
国北は僕が久しぶりに部活に来た理由を
敢えて聞いてはこない。
とにかく将棋するぞ、と言われて
僕はニキータと向かい合う。
宇宙人と、将棋。