(116)神様の存在
無表情の事務員が
事務的な態度で事務を進める。
ここは東京の拘置所。
俺はやり残した最後の事を
解決する為にここへきた。
親への折り合いをつけにきたのだ。
母が面会を拒んだ。
そう言うわけで俺は父と面会する。
父の顔を見る驚きよりも
テレビドラマさながらの面会室に
俺は驚いた。
「大きくなったね」
父は既に涙を流していた。
その理由は俺には分からないし
分かりたくもない。
俺にはそういう感情は産まれなかった。
お父さん。
その一言が言えない。
「アンタのいない間に、色んなことあって、大きくなったんだ」
「迷惑かけたな」
たぶん、違う人を用意しても
分からないと思う。
俺の知ってる父親の姿とは
程遠く、囚人、そんな感じの
ただのやつれたおじさんが
俺の目の前にいる。
「そんな一言で済ますなよ」
「そうだな」
覇気の無い返事。
俺は知っている。
父が首相を殺したことだって
宇宙人に唆されてやった事だ。
父だけが悪いわけじゃない。
でも・・・
俺の人生はこの男とその妻によって・・・
分かってる。
分かっている。
俺はこの人達を嫌いにはなれないこと。
「20になった。だから、会いにきた」
「お前ももう、ハタチか」
馴れ馴れしく
喋るなよ。
「塹江さんって人が、俺を保護してくれた」
「聞いている」
「俺は・・・ずっと辛かったんだ。犯罪者の息子呼ばわりされて、学校ではぶられて」
「悪かったな」
「簡単に済ますなよ。頼むから」
「父さんはな、人を殺したんだ。この事実が覆ることはない。エーテルが導いた結果が、ここにある」
「おい!アンタ!まだそんな事・・・」
どうやら、父の洗脳は解けていなかった。
最悪だ。
存在もしないもの信じて
宇宙人に騙されて
人を殺して
償いの為に今、この場所にいるのに。
なのに、まだ、ありもしない事を
信じているのか?
「神は確かに存在するんだよ」
父は遠い目で
そう言った。
「神様なんて・・・」
いない。
と、言えない。
神に翻弄された父。
そして俺だって・・・
神に翻弄されてきた。
「神はな、お前に試練を与えているんだ。私の行いは世間には評価されていないだろう。だがな、その苦しみを乗り越えた時、お前はもっと豊かになる」
何言ってんだよ
コイツ・・・