(113)本質
清水飛鳥さんの事を
知ってしまった時。
俺は覚悟をしていたはずだった。
いずれ悲しみは訪れる。
それが遅いのか、早いのか
それだけの事だ。
そう思っていたはずだけれど
悲しみが訪れようとすれば
俺は引き伸ばしたくなった。
あまりにも、唐突すぎる。
椎葉さんとの別れを突き出された。
「椎葉さん・・・」
「ゆーと出会ったのも、公園だったの」
なんだよ。
別れ際みたいな事言ってさ。
「うん」
「なんだかんだで、みーは学校楽しかったよ」
俺もそうだった。
退屈な日々を破壊してくれたのは
間違いなく、椎葉さんだ。
「うん」
「宇宙人、やっつけたね」
パパ活宇宙人から始まり、
国北や小雨さん、そして小宮。
最後に地球征服を企んでいた
宇宙人も死んだ。
俺が知る宇宙人以外にも
椎葉さんはやっつけたのだろう。
俺はこれについて
答えを出せていない。
命を殺めた事については
その是非を問う必要がある。
でも、それは今じゃない。
「うん」
「理科室でチューして来たこともあったの!」
恥ずかしそうに語る椎葉さん。
もはや懐かしい気持ちだ。
「うん」
「氷漬けになったミーを助けてくれて、ありがとう」
助けなくて良かったと思う事もある。
助けて良かったと思う事もある。
でも、助けてなければ
結果的に地球は終わってたと思う。
「うん」
「ゆーは、どうして、うんしか言わないの?」
「うん」
「ちょっと!どうしちゃったのさ!最後ぐらい」
最後。
俺の前に現れた破壊神と
今が最後の時なのか?
「うん」
「うんしか言わないなら、聞いてやるの。ゆーはさ、みーのこと、好き?」
「うん」
「大好き?」
「うん」
「それが聞けて、みーは幸せだの」
「うん」
言葉が出てこない。
何か言わなきゃ。
そう思った時には、
その身体は地面に伏していた。
そこには清水飛鳥の死体があった。
慌てて駆け寄る兄は
それを抱きしめて
その冷たさを実感して、涙を流していた。
これが本質だった。
これは清水飛鳥さんの身体であり
清水飛鳥さんに関わる者の身体なのだ。
そこにもう、俺が入る余地は
無い気がした。
意図も容易く
破壊神はそこから姿を消してしまった。
俺は指で銃を使ってみる。
それを小石に向けて放った。
その力は残っていて
小石はパラパラと崩れ落ちた。
その力だけが
彼女の・・・いや、神の存在を
感じる事の出来る要素だった。