(112)想定していた、最悪の言葉
連絡をしないまま、とりあえず
東京に来た。
俺はいないだろうな、そんな事を思いながらも
清水さんと暮らしていたアパートにたどり着く。
「いないみたいだの」
いないというか、
もう住んでいないようだった。
仕方がなく、俺は電話をする。
久しぶりに清水さんに。
『よぉ』
「清水さん。会って話したいことが」
『その前によ、無事だったのかお前』
「はい」
『そっか、捕まってるって聞いたからよ』
「今、清水さんと住んでいたところにいるんですけど」
『あー?何言ってんだ俺はもう地元に帰ったよ』
「えっ?」
『キンキュー事態宣言とか言うやつで、ホスト業は廃業だ』
「清水さんの地元ってどこでしたっけ?」
『いいよ、わざわざ来なくて』
「いや、そうもいきません」
そんなやり取りをしても
清水さんは住所を教えてくれなかった。
けれども、椎葉さんは
清水家の場所を知っていたので
俺たちは椎葉さんの力で
すぐさま清水さんの地元に移動した。
『おい、また用事あんのか?』
「いや、今、お家の前に」
『おい、冗談よせよ』
そう言いながら、清水さんの家の二階の窓が
開いた。
「マジか・・・」
俺がいると言うことより
椎葉さんがいる事に驚いている。
少し離れた公園で
3人で会話することになった。
清水さんは何かを察しているのか
椎葉さんにはよそよそしい。
「清水さん・・・黙っていたことがあって・・・」
「妹のことか?」
「はい・・・」
俺は清水さんに説明を始めた。
清水飛鳥は死んだと言うこと。
その身体に破壊神が憑依して
今の姿を保っているということ。
それが目の前にいる
椎葉さんである事。
破壊神という概念が
憑代である清水飛鳥さんから
離れれば
死んでしまうということ。
「悪い。理解が追いつかなかったが、何となくはわかった」
「清水さん・・・」
俺は清水さんの回答を待つ。
「破壊神よ。妹の身体から、出ていってくれ」
想定していた、最悪の言葉が出てきた。
「分かったの」
簡単に応じる、椎葉さん。
思わず俺は意見する。
「ちょっと待ってよ!」
「待てねぇよ」
静かにそう語る清水さん。
「清水さん、破壊神がいなくなったら、妹さんの身体は・・・」
「分かってるよ。分かってるけどなぁ。妹が乗っ取られてるってのも意味が分からねーしよ、それによ、飛鳥は死んだんだろ?ならもう、眠らせてやってくれよ」
妹だけじゃない。
きっと、兄も、家族も
疲れたんだ。
ずっと行方不明だった飛鳥さんの事
毎日、毎日、想っていたんだろう。
俺は自分のエゴを反省した。
それでも、椎葉さんがいなくなるのは
嫌だ。
「みーはいつでも、大丈夫だの」
「早く出ていきてー所だが、お前ら、話すことあるんじゃねーの?」
清水さんが猶予をくれた。