(110)ばあちゃん
ばあちゃん家は
国道を走っていれば
簡単に見つけることが出来た。
「ありゃあ〜」とばあちゃん。
「ばあちゃん!?覚えてる?」
「誰だっけ?」
そんな事を言いながら
ばあちゃんは俺を家に招いた。
「ばあちゃん。あの日、ばあちゃんが休ませてくれたお陰で、俺は・・・」
「友達が見つかって良かったじゃないの」
「うん」
「友達とはどうなったの?」
ばあちゃんは、何の気なしに
話しかけてくる。
ばあちゃんはテレビの中継を
観ていたのだろうか?
何も知らないような口ぶりだ。
「友達には、会えたよ」
「あら、良かったね」
「うん」
「何だか元気ないんじゃないの」
「うん、いや・・・」
俺は、ばあちゃんが理解できない事
分かっていながら
想いを打ち明けた。
「ばあちゃん。友達はさ、死んでるんだ。死んでるんだけど、生きてるんだ。俺には恩師がいて、その人はその友人を探しているんだよ。恩師には、友達が死んでるなんて言えないし・・・今だに色々分からないし」
自分でも、何を言ってるか分からない。
俺を東京で助けてくれた
清水さんの妹。
彼女は死んでいた。
その瞬間に、椎葉さんが憑依しているだけで
清水飛鳥さんはもう死んでいる。
俺はそれを言えないでいたし
言わなきゃならないと思っていた。
けれども、椎葉さんがどうなるのかも
分からないし、俺がどうするべきなのか
わからなかった。
ばあちゃんは
俺の意味不明な悩みをニュアンスで受け止めた。
「何だか分からないけどねぇ。世の中は事実だけが残るんだ」
「事実だけ」
「世間様にはねぇ、その事実しか分からない。でも、その事実に至った理由を知っとるのは当事者だねぇ」
ばあちゃんの言いたい事は
分かるような、分からないような・・・
「んだからねぇ。事実しか知らない人には、理由を教えてあげる必要があるんだと、わたしゃ思うね」
ばあちゃんはそう言いながらお茶を飲む。
俺の意味のわからない質問に
ばあちゃんから求めていた答えが返ってくるとは
思っていない。
でも、俺はそれを聞いて
清水さんに会いに行かなきゃならないって
そう思った。
俺は清水さんから逃げていたんだ。
椎葉さんのこと・・・妹さんのこと。
ちゃんと言わなければならない。