(109)エンジン
引越しの日。
20歳の誕生日に決めた。
【scene10:エピローグ】
「ま、別に遠くに行くわけじゃないし」
キャリーケースを抱えながら
俺は真鍋さんに挨拶をする。
「とはいえ、離れて暮らすのは寂しいです」
「いつでも連絡するって!」
そう言って、俺は真鍋さんに一瞥をくべて
その場を離れた。
こんな事で泣かなくなったのは
俺がある程度の人生を積んだからだと
そんなことを思った。
ガラガラとスーツケースの音を立てて
バスに乗り、地下鉄に乗って
またバスに乗る。
俺は今、工場で働いている。
今度はモノを創造してみたくなって
就職した。
世界を救ったと言われるネームバリューは
凄くて、それなりのいい会社からも
内定をもらったのだけれど
俺は地場に根付いた企業に就職した。
きっと、適当な事をまた考えて
都市部に行かないようにって思ったからだ。
とはいえ、そんな格好をつけたけれど
賃金は正直、低い。
俺が一人暮らしできる家は
かなり遠い場所の安いアパートだ。
家に到着する。
今日から住むけれど
何度も足を運んで自力で引越しをした。
そして、俺は後回しにしていたことの
ひとつを進める為に
中古で買った激安の原付に乗る。
これで、俺の面倒を見てくれた
ばあちゃんに恩返しに行ける。
「なぁ、そのばあちゃん家ってどこにあるんだの?」
隣からひょこりと椎葉さんが現れた。
椎葉さんは俺の前に時折現れては
俺に意思確認をしてくる。
その意図はよくわからない。
「うーん、国道を走ってれば見つかると思うんだよね」
「みーも行ってもいいのかの?」
「いやぁ〜・・・ふたりで行動してたら、また何言われるか分かんなくない?」
少年Aくんと破壊の神。
この組み合わせは危険だ。
世間的には。
あと、この組み合わせに文句を言う奴もいる。
「じゃあ、留守番してるからの」
「は?留守番?」
「ここをみーの部屋とする!」
「ちょっと待てよ。別に俺ら付き合・・・」
そのワードを放とうとすると
いつも椎葉さんは消える。
俺には先延ばしにしている問題が沢山あった。
20歳になったら、
全て解決させよう。
そう思って動き出した。
エンジンを始動させる。
まずはばあちゃんに恩返しだ。