(108)二十歳になるまで
ー〝非常事態宣言は未だに発令中です。段階的な緩和を求め・・・〟ー
非常事態宣言とやらは続いていて
僕は父や母に会えない事は分かっていた。
僕は嬉しかったし
そして悲しかった。
塹江さんが僕の親になろうとしていてくれたこと。
そして真島さんの事を知ろうとしなかったこと。
答えは出ている。
僕は塹江さんの子供にはなれない。
僕は、嫌いだけれど
あの犯罪者の子どもとして
生きていくと決めていたからだ。
由依がいつか言ってくれてた
キミはキミと言う言葉。
僕は僕だ。
地球が続いたんだから
僕は僕の人生を歩まなければならない。
その事は、ちゃんと
折り合いをつけてから、塹江さんと話そう。
そう思った。
さて、重要度が低く
優先度が高い僕の行脚は続く。
懐かしい景色のする場所。
僕はそこにいた。
僕の家だ。
真島さんではなく、
真鍋さんがいる家。
僕は何事もなくインターホンを押した。
『はい』
真鍋さんのインターホン越しの声に
僕はこう答えた。
「ただいま」
『おかえりなさい』
場面が切り替わる。
僕はリビングで
真鍋さんのつくるご飯を食べていた。
「やっぱ眞鍋さんの料理は美味いよ!」
僕は懐かしい味が嬉しい。
「あら。煽上手になったのね」
「これは本心だよ」
「なんだか、明るくなりましたね」
「そう?」
ご飯を食べて
自分の部屋で寝た。
久しぶりの部屋は
なんか、色んなことを思い出す。
僕は決めていた事があった。
東京にいれば、僕に付きまとう奴が
多すぎる。
僕は普通に暮らしたい。
だから普通に働きたいんだ。
決心する様に飛び上がる。
この地で生きる。
僕はそう決めた。
「真鍋さん。しばらく、ここで暮らしていい?」
「何を言ってるんですか。ここはあなたの家ですよ」
「2年間だけ。ハタチになったら、僕は家を出るよ」
こうして僕は
この街で再び暮らす事にした。
自分の人生を生きよう。
そう思ったんだ。
そして、2年が経過する。
色んなことを置き去りにしたまま。
【scene09:おわり】