(107)大スター
解放されたら、僕は優先順位をつけて
訪問したい場所がいくつかあった。
重要度の低いものが最優先。
重要度の高いものが低優先。
というか、難しい事は遅くまで取っておきたいんだ。
僕はとりあえず、塹江さんのいる
会社の前にいた。社長室に入る。
「お出ましか。大スター」
塹江さんは笑っていた。
そして僕を大スターなどと、呼ぶ。
「大スター?」
「地球を救った救世主だ。ネットは大騒ぎ。あと、俺の会社の株も爆上がりだ」
「ほ、ほんとですか?」
「ありがとう」
結果的に、塹江さんに貢献出来たのなら・・・
「やっぱり、自立したいんです。塹江さんにお世話になった分も、その、株価のやつで恩返し出来たと思うし・・・」
塹江さんはにやけた。
僕の言葉に対して
分かってないなぁ、そんな顔をしている。
「金で恩返しして欲しいつもりじゃない」
「え?」
「世間は売名だって言ってるけれど・・・いや、確かにそうかもしれねえけどさ、俺がお前を保護しているのは、金の為じゃない」
「えっ?・・・じゃあ、なんなんですか?」
「父親になってみたかったんだよ」
「父親・・・」
「お前に拒否されちゃったから、兄弟みたいな感じだけどさ」
そこから塹江さんは身の上話をしてくれた。
仕事を理由に恋愛から逃げ
「俺がタネナシだって分かって、離婚寸前になったんだよ。ソイツは子育てをする事を望んでいたんだ。籍は抜いてないけど、別居婚状態だな」
塹江さんが言ってるのは
子どもを産む為のハードルが高かったと言うことだ。
「俺もまた、子どもを育てたいって思ってた。でも、無理だった。だから、お前を引き取ってみた。でもよ、俺以上に子育てをしたかったのはリコのほうだ」
「リコ?奥さんの名前ですか?」
どこかで聞いたような・・・
あれ?
「ああ。お前を義務教育まで育ててくれた女だよ」
「なんで、辞めちゃったんですか?」
「子育てが思ったのと違ったらしいぞ。難しいよな」
僕は後悔した。
真島さんが距離を取っているがしたけれど
結局・・・
真島さんから距離を取っていたのは
僕の方だったんだ。
あの頃の僕には、
そんな事は考えられなかった。
「あのさ、自立はしないで欲しいんだよな」
「えっ?株価じゃダメですか?」
「俺の子どもになれよ」
塹江さんはそう言った。
たぶん、ちゃんとした
手続きをして。そして
今日みたいな会話が出来る
そんな距離の近い付き合い方。
塹江さんはそれを望んでいた。
「ま、いつまでも待ってるし、親がふたりいたって構わないからな」
ストレートに返事をしない僕に
塹江さんは少しがっかりしていた。
「ま、まずは親と折り合いをつけてこい」
背中を叩かれる。