一枚の銀貨
雪が降り一段と寒くなった冬の夜、私はその寒さから逃れる様に身を丸め、外套の衣嚢の奥深くで痩せ細った手を固く握りしめ乍ら、街灯の下を足早に進んで行くのだった。
そして街の一角に構えた代書屋を訪ねた。銀貨を一枚支払い、もう直ぐ仕舞いだからという催促を受け、少し白くなった唇を必死に動かして、愛娘への手紙を頼むのだった。
"Dear Mary, I hope you're well. Paul Wotton"
最後に封筒に彼女の住所を書いて貰い、その手紙は鉄道郵便局に出した。生気がまるで感じられなかった私を哀れんだのか、銀貨二枚で引き受けてくれた。
やるべき事を終えた私はよく娘が遊んでいた公園の長椅子に腰掛け、灰の様な雪を仰ぎつつゆっくりと目を閉じた。一枚の銀貨は行方を失って。
聞いたところによると、彼は次の朝には目的地に辿り着いていたそうだ。