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侍女への手紙


【親愛なるリンダ


寒さも和らぎ窓の外が賑やかになる昨今、私は部屋から出ぬまま父の帰りを待っています。メイベルと毎日お茶しているのに外へ出ないから、貴女に会う頃には大きくなっているかもしれないわ。


そうそう、アルジェントって弟さんがいるらしいの。彼と同じ髪色の、よく似た子らしいわ。きっとアルジェントの後ろを付いて歩いていたのでしょうね。


彼の話を聞いていたら、屋敷の近くの村に居た猫を思い出したの。その子は今何処に居るのかしら?猫は皆人が多い街へ行くと聞くし、きっと何処か良い場所でも見つけているかもしれないわ。餌を持って会いに行ったら、お仲間が案内してくれたりしないかしら?


もしも手が空いていたら、屋敷の人たちで試してみてちょうだい。あなた達は街でも知り合いが多いし、もしも猫が見つかったら我が家で飼ってみるものいいかしらってお父様と話しているのよ。知り合いの人たちも巻き込んでみると良いかもしれないわね。


ではまた。


貴女の帰りを待つ、リリルフィアより】








「少し正直すぎかしら?」


「そんな!素直なのはリリ様の長所ですよ!待ってるって書かれたらリンダさんもきっと喜びますって!」








ラングへ手紙を見せて感想を聞くと、ニコニコと読んで「領内に猫って珍しいですねえ」と猫について聞きたがる。


私は彼の反応に少し不安を覚え、手紙を次はメイベルへ渡した。彼女はザッと読むとラングへ呆れた視線を向けてから「大丈夫でしょう」と手紙をテーブルに置く。








「冒頭が現実になってはハルバーティア伯爵家が大騒ぎになりそうですけれど、中盤はアルジェントを知らねば理解のしようもないですし。猫の例えは特に勘付かれにくいと思うもの。」







リンダへ宛てた手紙には私が知り得る情報を他者に分からないよう綴った。メイベルからのお墨付きも得られたので、私は手紙を丁寧に折り畳んで封筒に仕舞う。


あとは封蝋を垂らして印璽を押せば、届けてもらうのみだ。


そもそも何故、こんなに回りくどい手紙にしたかというと…












「ハルバーティア伯爵令嬢、準備はできましたか?」


「はい。お待たせいたしました。」







しっかり封をしたことを確認して、私は手紙を先程入室した目の前の人物へ手渡し…はせず、近くのラングを手招きする。彼は手紙を渡すと意味深に深く頷いて、心得たとばかりに目の前の人物へ渡してくれた。








「申し訳ありません、父が作法に厳しいものですから。」


「いやいや!我々も礼儀知らずで申し訳ない!」







眉を下げて口を扇で覆う。


目を伏せれば目の前の人、子爵家のレッグという方はパタパタ手を振って気にしていないと笑った。貴族の作法は厳しいのは本当だけれど、目の前にテーブルを挟んでもいない相手へこんな遠回しの受け渡しをすることはまず無い。


これは『警戒している』と示すサインであり、同盟締結前の交渉の場であったり、裁判の場であったりと、対する相手が味方になりきらない場である時に用いられる。当然このような私的の場でするのは『貴方には触れたくありません』という意味合いとなる。


ラングでも知っているそれを笑って受け入れる辺り、この作法を知らないか余程の狐狸か。







「お預かりいたします。伯爵令嬢は暫くこちらに滞在なさると伺いました。必ずやこのレッグ、侍女様に手紙をお渡ししましょう!」






胸を張って笑顔を見せるレッグ。


こんなに軽い態度ではあるけれど、マルデイッツ子爵家では執事長補佐だというのだから驚きだ。補佐であるのにこんな他家の領地に派遣させるのか、子爵に近い筈の執事がこんな礼儀作法に疎くて大丈夫なのか。


私まで心配してしまうほどに目の前のレッグという方はなんというか、庶民的だった。







「レッグさん、確かにリリルフィアの手紙を届けてくださいね。」


「勿論ですとも!」


「そのお手紙は侍女だけでなく、ザッと見積もって十二人は手に取って読みたがるものですの。失敗は許されなくてよ?」






ニコリと笑うメイベルに、一瞬レッグの瞳が細まった。


レッグはメイベルと同じく笑みを見せると「そのようなお手紙を我々に託して、よろしいので?」と少々突っ込んだ問いかけをしてくる。







「私やお父様は行かないし、私の侍女と貴方は顔を合わせておいたほうがいいとお父様が仰っていたので。屋敷の皆によろしくお伝えくださいますか?」






柔らかく、柔らかく、こちらが警戒していると思わせないように。私の努力は功を奏したようで、レッグは恭しく礼をすると警戒を滲ませることの無い笑みで返した。







「伯爵の仰せとあらば、謹んでお受けいたします。」






そう言ったレッグは手紙を改めて眺め、私が押した眠る羊の封蝋を撫でていた。



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