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隠し事は夜のヴェールに包まれて


ふあ、とメイベルから漏れた愛らしい欠伸によって、私は随分と話し込んでいたことに気付かされた。手紙から続いて父たちの話になれば大いに盛り上がり、愚痴から自慢から互いに話が尽きず今に至る。







「今何時かしら?」


「先程十の音が鳴っておりました。」







私の問いかけにリンダは答えてくれた。因みにメイベルのトアンもずっといる。メイベルが「二人だけでは味気ないわよね。」とトアンを留まらせ、リンダも呼んだのだ。


勿論二人の職務が私達の就寝の世話を残すだけであることを見越しての招集で、主従の線引がしっかりしつつも一緒にお茶を飲んでくれるようなリンダは素直に頷いてくれた。


メイベルの侍女トアンも「え?良いんですか?」とニコニコとメイベルが座っているソファに近づいていた辺り、ノリの良さがある。


というわけで4人集っていたのだけれど、私はまだ寝る時間ではない。何時もはあと一時間のんびり過ごしている。一方メイベルは目元に指を軽く触れさせて、擦らないようにしてはいるけれどトロンとした目は眠そうだ。







「リリルフィアは、平気そうね…」


「ええ、何時ももう少し遅くに寝ているので。」


「あまり遅くは肌に良くないのよ…?」







コクリとメイベルは船を漕ぐ。


その様子を微笑ましげに見ていたトアンは、メイベルから私に目を向けて「メイベル様のご就寝は九時なのです。」の苦笑い。


以前泊まりに来たときは二人で時間なんて気にせず話し、メイベルの「そろそろ寝ようかしら?」という言葉でお開きにしていたものだから、彼女が早寝の体質だと気づかなかった。







「そろそろ寝ましょう、メイベル。」


「ええ…そうね…」







促すように声をかけるけれど、既に半分夢の中に居るらしいメイベルは頷くだけで立ち上がる気配がない。


ソファは大きいからメイベルの体を受け止めるくらいなんてことないが、座るためのソファと寝るためのベッドでは寝心地に差があるのは当たり前で。


私はトアンに目配せしてメイベルを私のベッドへ移動させてもらった。







「ありがとう、もう下がっていいわ。」






メイベルに布を掛けながら言えば、二人とも一礼して退室する。


微かな寝息と、消していない蝋燭の揺らめく音と、4人で話していたときとは全く違う静寂の一時に私はベッドから降りて部屋の隅に置かれた机へ向かう。


何時ももう少し起きているからかまだ眠気は無い。蝋燭を机に置いて、栞の挟んである本を手に取り私はゆっくりと開こうとした。







「リリルフィア…?」







ベッドの方を見れば、体をこちらに向けて瞼を薄く開いているメイベル。夢と現の間にいるようなその姿に、私は「起こしてしまいました?」と聞く。


首を横に振って気にするなどでも言いたげな彼女は、不意に少し体を起こして自身のトランクが置かれた場所を見た。







「…私の、お気に入りの、トランクがあるでしょう?」


「ええ。あの素敵なトランクね。」






私の返事に頷いたメイベルはポスンとベッドへ体を預け直して、私を見つめる。


何時もの元気な姿とは異なる雰囲気に、彼女の新たな一面を見ているようで不思議な気分になる。そういえば、あのトランクを見たときにもメイベルの知らない一面があったと同じ気持ちだった。


私の心情もに気付くはずも無いメイベルは、物語を語るように話し出す。







「見せてはいけないと、言われているの。リリルフィアには。リリルフィアに隠し事、してるのよ。」







パパから。そう言って呼吸を置いたメイベルに私は向き直る。



夢現の状態だからか言葉は拙いが、何かを話そうとしているのはわかる。そしてそれは言ってはいけないことだと、それを今言っているのだけれど、彼女は気づいていないのだろう。








「私が苦しくないように、パパは約束を作ってくれたの…でもね。リリルフィアなら、きっと、“カッコイイ”って、言ってくれるわよね…?」








願いにも聞こえる問いかけに、私は親友に対しての答えを探す。


細身で軽く見えるトランクの中身を、ガーライル伯爵は私に見せてはいけないと言った。それはメイベル自身が苦しくならないように。








「貴女がまた話してくれたときに、考えることにするわ。」







何を隠しているのかをメイベルは話していないもの。それを聞かないことには彼女の隠し事に対して何かを言う権利はない。


だから私は半分寝ているメイベルへガーライル伯爵とは別の約束をする。








「私は話してくれるその時まで待っているわ。どんな隠し事でも、全部聞く。約束するわ。」






苦しくないようにガーライル伯爵との約束があるのなら、メイベルにとってその隠しごとは苦しいものだということ。


隠すことが苦しいのか、隠していることを知られるのが苦しいのかはわからないけれど、誰だって隠し事はあるものだ。私だって大きな隠し事をしているのだから。


私の言葉を聞いていたか否か分からないが、メイベルは瞼を閉じて気持ちよさそうに寝ていた。


読もうとしていた本を再び閉じて、私は何時もより早いけれどメイベルの横へ寝転ぶ。







「お休みメイベル、良い夢を。」







親友の夢が、良いものでありますように。


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