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愛の奏者は優しさに怒る


「リリルフィア…!!」






泣きそうな顔で、それでも安堵に笑みを見せて、優しい抱擁をくれた父に私も背に腕を回す。服を掴めば、不安を散らすように呼吸を繰り返す父が私の身をどれだけ案じていたのかが伺えた。






「ご心配、おかけ致しました。お父様」


「うん。本当、だよ…」






鼻を啜る音を聞かないふりして、私は父の背を擦る。


父は、失う恐怖を知っている。


そんな父に今回私がした行動は、どう映ったのだろう。愛してくれていると確信しているからこそ、父の目の前から居なくならないようにと思ってこれまで生きていたけれど、どこにも行かないようにと力の強まるその腕に、改めて父の脆さを知る。







「生きてます。こうして、お父様の前にいますわ。」


「うん…」






暫く抱き締められていたら、喉が痛くて呼吸するのも辛い今、長時間肺を圧迫されて苦しくなってきた。


トントン、と父の胸を叩いても動かない。服を引っ張ってもビクともしない。


あら、ヤバいんじゃないかしら。






「旦那様、お嬢様の息が上がっております。」






ジャニアの声がけに腕が緩む。離れた父によって空気を十分取り込めるようになった私を覗き込んで「大丈夫?つい安心してしまって…」と言われてしまっては、責められない。


私は口角を上げて父に怒っていないと示し、話題を変える意味も含めて単刀直入に今回の話を切り出した。







「お父様、キステイン子爵令嬢はどうなりまして?」


「…はあぁぁぁ…。順を追って話そう。まず、リリルフィア自身のことが先だよ。」






遠い目をした父は私が半身を起こしているベッドの傍らに座り、私の手を取ってゆっくりと話してくれた。


まず、私はなかなかに危険な状態だったらしい。


毒物を排出しなければならないから、と吐き出すための薬が用いられたものの毒の作用が不味かった。どうやら『眠り薬』とされていた“サグタニス”は体の機能を止めるような作用を持っていたらしく、体内の器官が弱体。その上に薬を用いた結果が過剰な嘔吐だったらしい。


薬によって毒は出せたがそれ以降にも症状は続き、一度だけ言葉を発しこそしたものの、その後は私の意識がハッキリしないまま長時間経過。







「強い眠りは生きる術すら止めるらしいと聞いた。そんな危ないものを口に入れても、リリルフィアは他人の心配をするんだから…」







聞いていたら、前の人生で存在した『麻酔』や『麻痺』の症状に近い気がした。それならば毒を口にした量によっては、最悪の場合が予想されるのも頷ける。


疲れた表情のリンダ、今も泣きそうな顔の父、父と私を安堵の表情で眺めるジャニア。私がどれだけ危険な状態だったのかを、彼らは物語っていた。


肩を落とす私を撫でた父は、話を続ける。







「騎士は令嬢二人を拘束。軟禁した上で事情を聴取したところ…どうやら彼女、パルケット公爵子息を慕っていたようでね。それを聞いたのか気づいたのか、彼女の祖父である侯爵が“美味しい果物”について教えたようだよ。」






公爵子息への恋情が大きな理由なことは知っていた。けれど、その裏にある侯爵のことまでは考えもしなかった。自分の予想していた以上に大事になりそうな事情に、私は閉口する。


侯爵は何故私を害するような手助けをしたのか、それをキステイン子爵は止めなかったのか、今回の件に関わった貴族はどれだけ、そして何処までの者達がいたのか。







「リリルフィアには教えようか迷ったけれど、話した上で改めて聞くよ。キステイン子爵令嬢に、罪は無いと思う?」


「無いとは言いません。“彼女だけの罪ではない”と言ったのです。」







断言する私に、父は私の手を握る力を強めた。


私がこの言葉を発した事の意味を、私以上に父は理解していることだろう。だからこそ、意識が曖昧だった時の発言を今問い質したのだ。







「全てを詳らかにすることを望んでいるのではありません。同じことが起きないよう、可憐な花が手折られないよう、今回の件が周りの貴族に対する布石となればと思っています。」






私の言葉に父は表情を険しくする。父の後方、私の視界の先に控えていたジャニアは私の言葉を正しく読み取ったのか目を見開いてから父と同じ表情になる。


リンダの顔は、ちょっと今は見る勇気がないわ。






「リリルフィア、知っていたね?」


「何をでしょう。」






言い逃れではなく、答え合わせをするために父と目を合わせた。私が考えていることを、父が正しく察しているのなら、一番怒りを見せるのは父だろうから。


案の定、キツく唇を噛んだ父は私の手を折らんばかりに握って、瞳に抑えきれない怒りの色を宿す。






「キステイン子爵令嬢が、リリルフィアを害することを。それが公爵子息に関していることを。“フラティ”と“サグタニス”を、共に口にする事が危険なことを。


…知っていて毒を煽るような真似をしたのか!!」






父の怒りを受け止める。


そして、私は一度深く頷いた。

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