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小鳥囀る幕開け


「ラングは大丈夫かしら…」






既に馬達に引かれて進む馬車の窓に寄りかかって呟く私に「お嬢様が心配なさることは何一つありません。本当に彼は、手を焼きますが。」と溜め息を吐いたリンダ。というのも数分前、ダメ押しと言わんばかりにラングが玄関先で駄々を捏ねたのだ。








『やっぱり俺も行きます!!お護りすることが俺の役目なのに!!』







ウズウズしていたラングは挙手して叫んだ。今まで散々ジャニアやリンダ、他の使用人たちにも宥められて納得したかに思えていたのに、出る直前のダメ押しのような発言は誰もが頭を抱えて唸るほど予想していたけれど起きて欲しくないものだった。


それを止めようと頑張ってくれたのが御者で、厳しいように思えて一方では世話焼きな一面のある使用人たちの父、ジル。








『コラ坊主!!護る云々以前に、こうしてお前が我儘言ってお嬢様を困らせてんじゃねえか!!』







その怒声は思わず私やリンダが肩を揺らすほど。


自身で望み、それが叶ったことで与えられている役目を全うしたいというラングの気持ちは分かるが、先程に限ってはジルの言葉に軍配が上がった。ラング自身も心の奥では思っていたようで、気まずそうに、そして不服そうに口を尖らせて引き下がったのだ。


その後は笑顔のジャニアに引き摺られて、私達が出発する前に視界から消されていた。








「でも、ジャニアの教育の賜物と言うべきよね。私の茶会へ本当は同行しても問題無いくらいに進歩はあるのでしょう?」


「はい。ジャニア様が『つけ上がらせるのは全て終わってからにしましょう』と仰ったので、本人には絶対申しませんが。」








本当にラングの扱いがハルバーティアの使用人たちは雑だなあと思う。小さな頃から知っているというのもあるし、彼がどれだけ雑な扱いをしても嫌わないと我々は知っているからだけれども。


これも一種の信頼だろうか。








「お嬢様、見えてまいりました。」


「本当ね。相変わらず雰囲気のあるお屋敷だわ。」








リンダの声に意識を窓の外に向けると、石造りの屋敷が鋭利な鉄柵と木々に囲まれた向こう側に見えた。


屋敷の周りを回るようにして、馬車は正面に停止する。


開かれた扉から手を伸ばすのは、先ほど怒声を響かせていたとは思えないほど落ち着いた礼を見せるジルだ。シャツにズボンというラフな格好は本来茶会などに我々を送るには不向きなのだけれど、彼が『堅苦しいのは勘弁して頂きたい』と言うものだから質でどうにか補っているものだ。


彼の手を取って馬車から下りると、待っていたであろう燕尾服の男性が恭しく礼をする。








「ようこそおいでくださいました、ハルバーティア伯爵家の皆様。早速ご案内いたします。」


「よろしくお願いするわ。」







見覚えのある人だけれど、直ぐに案内するために先を行ってしまうので世間話は出来ない。ハルバーティア伯爵家やガーライル伯爵家では、まず見られない振る舞いだ。


このような振る舞いはけして不敬にはならず、寧ろ分を弁えていると高評価を受ける場合が多い。主を差し置いて使用人が招待客と話すことを良しとしない者も多いのだ。貴族家に招かれたときにそれを踏まえて使用人を観察するのも、中々面白いものだわ。


そうこう考えている間に使用人は前を歩く。玄関から屋敷には入らず、石畳に導かれて薔薇で飾られたアーチを潜ると直ぐに会場の庭に着いた。曇りなのが勿体無いほど花々が咲き誇る美しい庭園だ。








「あら、ハルバーティア伯爵家のご令嬢ですわ。」







耳に入った高い声は、内容こそ私のことだったけれど、私に向けられたものではなかった。本人は声を落とそうとしているのかいないのか、扇で口元を隠して他の令嬢たちと距離を詰めている。







「聞きまして?珍しい毛色の使用人が二人、彼女の周りに居るのですって。」


「先日ガーライル伯爵夫人の茶会でお見かけしましたわ。とても絵になる方々で。」


「それに夜会ではハルバーティア伯爵とのダンスが話題でしたわ。」


「その後のどこぞの子爵令嬢の件も、見ものでしたわねえ。」






事実しか言っていないようなので、本人たちも聞こえて問題無いからこの音量なのだろう。聞き取れる大きさで会話しながら、こちらを見る彼女たちの視線は私の後ろで背を伸ばして歩くリンダへ向けられた。








「まあ…何処のご令嬢?」


「あら嫌だわ、ハルバーティア伯爵家に仕えている侍女じゃないの。」


「お母様、あのドレス、見覚えがない?」


「確かハルバーティア伯爵邸で見た姿絵が…」







令嬢や同伴している夫人たちの間で囁かれる会話が、事実を探り当てていく。居心地悪そうなリンダを一度振り返って「人気者ね。」と言えば「…この類は…」と嫌そうな表情を見せた。


庭園の中ほどまで来ると、前を先導していた使用人は体を横へズラしてから深く礼をする。これは案内が終わったことと、主に対して案内した人との会話を妨げないための動き。前を向けば、満面の笑みを浮かべる薄い茶色の髪のご令嬢がいた。







「リリルフィア!!お久しぶりだわ!!」


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