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年上を宥める


だからアニスの茶会へ同行するのはリンダの予定。


それを伝えると、微妙な顔をしたメイベルはラングへ「…それで良いとお思いで?」と何だか試すような言葉を投げかける。







「俺も、驚いてます…」






私を見て、リンダを見て、もう一度ラングは私を見る。








「リリ様の行く茶会、俺が同行しないんですか?」


「貴方には黙っておりましたが、あまりにも貴族として振る舞いが不十分な貴方を見て、ジャニア様が提案されたのです。ゴネられても困るから、黙っていよう。と。」







ラングの扱いがとても成人を終えた男性とは思えないものだ。


まあ可哀想ではあるけれど、悲しいことにジャニアの考えが当たりそうだったので私も賛成した。それを今後悔しているけれども。


驚いているラングは私を見て眉を垂らすと、「リリ様ぁ…」と切なげな声を出す。









「…子爵である貴方が公爵家の夜会へ招かれるのは、とても栄誉なことなのよ。それを万全な準備を以て遂げることは、貴方の今後にも大切なこと。だからジャニアの提案を呑んだわ。」


「俺はリリ様の護衛ですよ!!夜会も出席しますけど、茶会にも…!!」








頑張ってくれるラングは嬉しく思う。


けれどジャニアから聞いているマナー講座の進捗では、とてもではないが茶会の護衛を頼んで平気とは言えない。


女性への声のかけ方で『挨拶の際に女性を褒める』というものがある。


招待を受けた側の例としては『会場の誰よりも輝いて見えます』だとかドレスの色等を見て『貴女のためにそのお色があるようです』だとか。しかしラングから出たのは『新鮮なオレンジのようなドレスですね!!日持ちしそう!』というもの。








「ラング、メイベルを夜会の挨拶だと思って褒めてみて?」


「へ?…レモンみたいな美味しそうな色のドレスですね!!」








ラングの言葉を聞いて、メイベルが額に手を当てる。上を向き、暫くしてから「これは…ダメだわ。」と色々察してくれたようだ。


『日持ちしそう』って何でしょう、ラングにとっては何よりの褒め言葉なのはわかる。けれどそれが貴族として適切ではないことは紛れもない事実で。







「ラング、今回は同行しないのが正しいわ。公爵の夜会に専念すべきね。」


「ええええ!?さっきと言ってること違う!!」


「当たり前よ!!挨拶で相手を褒めるのは第一印象としてとても大切なことよ!?それが満足に出来ないだなんて、私だって予想外だったわ!!!」








気が昂ってかメイベルは立ち上がって叫ぶ。言い合う二人は私を挟んで頭上で言葉を投げ合うものだから居心地が悪い。








「レモン美味しいじゃないですか!!」


「ドレスは食べられないわ!!」


「食べられませんよ!!」


「はあ!?」








内容が変な方向へ行く。メイベルも令嬢としてアウトな言葉使いになっていて、そろそろ止めなければ正気に戻ったときに大変そうだ。


私はリンダへラングを目で示して、ラングを止めるように促す。心得たように頭を少し下げたリンダはラングの傍へ移動した。








「メイベル、落ち着いてくださいな。」


「だってリリルフィア!!こいつ護衛騎士の癖して武力一辺倒!!これじゃあリリルフィアを任せられないわ!!」


「その為のマナー講座よ。だから今回の護衛は任を外しているのよ。」


「そ…!!そう…だったわ…」


「一旦座りましょう?」








努めて声は荒らげずに、メイベルへ向けて座るよう促すとストンと座ったメイベルは未だ不服そうながら深く息を吐いたので、取り敢えずは落ち着いたようだ。


ラングの方を見れば、床に座っている彼を見下ろすリンダがいた。


雇ってから少しは落ち着いたように見えたのだけれど、リンダやアルジェントとの関係性が築かれたから騒ぐことがなくなっただけだったらしい。








「リンダ、ありがとう。」


「いえ。ラングの調教はお任せください。」








言い切った。頭を下げてラングは動物だと断言するように言い切ったリンダをメイベルが「流石だわ」と褒める。


何だかラングが大型犬に見えてきたわ。見えてくると、落ち込むラングをこれ以上悲しませることに負い目を感じてしまう。







「ラング、ごめんなさいね。」


「…お役に立ちたいんです。リリ様の為に。」







床に座ったまま見上げてくるものだから、眉を垂らしたその姿が割増で哀愁漂っている。


ラングの願いを叶えてあげられない事への罪悪感と、マナー講座が斜め下の結果を叩き出しているラングの自業自得と見捨てたくなる自分。2つの反する感情を持ったまま、私はラングに言葉を紡ぐ。








「ラングの気持ちはとても嬉しいの。」


「リリ様…!!」


「だから“次回”、期待しているわ。」








私の言葉に「意外と容赦がないですね…」と呟いた者がいた。


そちらを見れば慌てて目を逸らすメイベルの侍女。手前でソファに腰掛けているメイベルは笑って「これでこそリリルフィアよ。」と何故か胸を張っている。


ラングはというと。








「リリ様が俺に期待…!!次回、頑張ります!!」








単じゅ…素直な彼は納得した様子だった。その直後、部屋に入室したジャニアが満面の笑みでラングを引き摺って行くのだけれど、メイベルは楽しそうにそれを見送っていた。







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― 新着の感想 ―
[気になる点] 次回なんてないよラング、何回やらかしたらいいのこいつ?
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