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知り尽くした仲



テラスから会場内へと戻った私は、父と合流してガーライル伯爵夫妻の元へ行く。


本来ならば入場してすぐにでも挨拶すべきだったのだけれど、招待客の多さと挨拶の順番待ちのことを考えて父が少し後でと判断したのだ。


その選択が幸いして、ガーライル伯爵夫妻はゆったりとダンスに興じている最中だった。ちょうど曲も終盤で、すぐに話しかける事ができた。








「ああフィル、久しいな。」






私達を見て父を愛称で呼ぶガーライル伯爵に、軽く手を挙げて近づくとそのまま握手を交わして「久しいね。」と再会を喜んだ。


手紙でやり取りしていてもやはり積もる話はあるようで、暫し夫人…エマと苦笑いして見守ることに。









「リリルフィアちゃん、茶会では楽しかったわ。」


「とんでもございません、こちらこそ楽しいひと時でしたわエマ様。」








私がエマを呼ぶと満足そうに頷いて「ふふっ!かわいい!」と笑う。貴女が可愛いです。


そして父を見て「先程お一人だったのをお見かけしたのだけれど、リリルフィアちゃんは何処にいたの?」と問いかけてくる。勿論、名無しの貴公子と一緒にいましたとは言えない。









「昨年の夜会でお会いした方にお声掛けいただいたのです。」


「あら、そうなの。」








一つも嘘は言っていない。ただ、詳細を全て省いただけだ。

私の答えに言及するつもりはないらしく、本日のドレスについて談義は変わる。生地、色、デザイン、針子と事細かに私のドレスに対して問い詰められたかと思えば「メイベルもそのお針子へ頼もうかしら」と今はいない友人のドレスの予定が話に出る。


メイベルはガーライル伯爵が夜会への出席に反対しているため、未だ夜会の経験は無いらしい。私は昨年から出ているので、メイベルからは手紙でも直接会って話しても根掘り葉掘り夜会の雰囲気について聞かれたものだ。


今年も話す内容を考えておこう。








「メイベルったら『リリルフィアが出るなら私も出たい!!』って旦那様に駄々をこねてね。それでもお許しにならなかったから、メイベルからそっぽ向かれたのよ?」


「…エマ、親子の醜聞をこんなところで話すものじゃない。」


「あら、申し訳ありません。ふふふっ!」








何時の間にかエマの傍らには眉間に皺を寄せたガーライル伯爵がいて。こちらを見たかと思えば「フィルもだが、リリルフィア嬢も久しいな。」と声を掛けてくださった。









「お久しぶりにございますガーライル伯爵。」


「メイベルも君と会えて喜んでいた。…夜会の前までは。」








前半は何時ものガーライル伯爵だったのだけれど、後半は落胆した色が見えて大切な娘が不機嫌なのがかなり痛手となっている様子。


隣でエマが『ほらね?』と言わんばかりに伯爵からは見えない位置で彼を指さしていた。








「次お会いするときに、夜会の様子をお話しますね。とお伝えいただけますか?」


「分かった。必ず伝える。」








私の言葉に力が抜けたように頷いたガーライル伯爵はその後に「すまないな。」と申し訳無さそうに目を伏せる。


伯爵とメイベルが喧嘩をしたりメイベルの機嫌が悪くなると、この伯爵はとんと弱くなる。それは母であるエマも笑うほどで、その度に私は伯爵とメイベルが話せるキッカケを作っているのだ。


私にとっては本当に伝えてほしいことなので謝罪や感謝は不要だけれど、気が済まないらしいガーライル伯爵は律儀に父にも「ウチの娘がすまない。」と言っていた。









「ところで、ラングはどうだ。」


「それだよ。その件はマックに直接言おうと思ってたんだ。推薦なんて、どういうつもり?」








詰め寄る父にガーライル伯爵は平然と「お前たちの所に雇われたがっていたからだ。」と返した。







「騎士団へ推薦したときから意思が変わらなければ、クレモナ家へ推してやると元々約束していたからな。」


「それがどうなったらあのお三方の署名まで付くのかな!?」


「俺だけじゃフィルは『騎士団の方が将来を見据えると利になるだろう』とラングのことを考えて渋るだろう。」








流石は長年父の友人であるガーライル伯爵。仰る通り、あの日父はラングが我が家で雇われることに対して反対していました。


父は自分の発言を言い当てられたからか悔しそうに『推薦状にお三方の名前があっても、俺はラングを雇うことは反対していたよ…』と視線を下へ落とす。


確かに推薦状に頭を抱えてはいたけれど、私が賛成を示すまで拒否の姿勢だったことは確かだ。








「それで、どんな入れ知恵したの?あの子がいくら優秀でも、真正面から辞める宣言をしただけじゃ書いてもらえないでしょう?」


「辞めるときに推薦状を書いてもらう用意をして、3人の前でゴネてみろと言っただけだ。面倒事を嫌うあの三人に、その後『良い押し付け先』を紹介した。」








ラングは、そんなことを言っていただろうか。


いや、本人の知らぬ間にガーライル伯爵が動いていてもおかしくは無い。寡黙で定評のある伯爵は『言葉より雄弁な書類』を作り上げてしまうらしいから。





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