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もっと早く


メイベルがとても美味しそうに、平均よりも明らかに多いであろう量のデザートを堪能していることに倣って、私も甘くにられた果物を口に運ぶ。


歯を立てれば僅かに果物の食感が残っており、噛めば甘さが口に広がる。少し甘さの強く感じるそれは、リンダが注いだ茶を合わせると香りと甘さが調和していった。




「リリルフィア。食事が終わってから少しでいいから、話せるかな?」




父の提案に、私は来客であるメイベルを見る。彼女は想定していたとばかりに「私は気にしないで。」と笑んでくれ、私は父へ頷いて返した。


ゆっくりと食事が終わりへと近付く中で、私は父の言う“話”について思いを馳せる。


十中八九、話というのは先程メイベルが匂わせたのであろう私の手紙について。そしてそれがアルジェントや私に関わることだということは父も予想していることだろう。


私が手紙についての詳細を語ろうとしないので、人の居ない場で改めて問うつもりか、それとも私の行動から父が私へ何か情報をくださるか。




「リリルフィアが伯爵と話している間に、私は少し書庫を見せていただいてもいいかしら?」


「「…え?」」




自分と重なった声のもとへ目を向けると、慌てた様子でラングが口を覆っていた。けれど私は同じ感想を抱いたであろうラングを責めるつもりは毛頭なくて、寧ろメイベルについて少し相談したいくらいだった。




「メイベル嬢が、珍しいね?」


「私だって読み書きはできますもの。興味が今まで薄かっただけで…絵本なら、読みますわ。」




父もメイベルの性格は把握しているため不思議がっていた。首を傾げる私達


書庫に絵本などあっただろうか。タウンハウスの蔵書を思い起こし、メイベルの言う所謂“手軽に読める本”を探す。メイベルが『絵本なら』と挙げたことを考えると、内容が簡単なものというよりは文字量が少ないものを求めているのだろう。


図鑑や専門書でメイベルの好みに合うものであれば、挿絵があるものもあるし楽しめるかもしれない。




「それでは、案内はリンダに任せましょう。」


「あ、気にしないで!」




リンダへ目を向けた私にメイベルは待ったをかける。流石に客人をこれ以上放って置くわけにもいかないし、メイベルは書庫に足を踏み入れたことがないのだから案内は必要だろう。そう思い「ですが…」と言葉を重ねようとした私に、メイベルは周囲を見回して何かを探す仕草を見せた。




「リオン様にお願いしようと思って!本日はご在宅でいらっしゃるかしら?」


「リオンお兄様?いらっしゃいますが…」




メイベルとリオンが関わる場面など、殆ど目にしたことが無い。それを今日に限って指名してまで会おうとする彼女に、思わず探る眼差しを向けてしまったのは仕方のないこととしてもらいたい。それほど今日のメイベルは予想外な行動ばかり見せるのだ。


私の視線にメイベルは意味深に笑みを見せる。それだけで自身の思惑など語る気配のない彼女に先に言葉を向けたのは父だった。




「リオンはメイベル嬢に気遣って部屋で食事を摂っているから、声をかけておくよ。けど、人付き合いが苦手だから、メイベル嬢の望む話ができるとは限らないよ?」


「リリルフィアからリオン様のことはよくお聞きしていますもの、承知の上ですわ。」




早速、とメイベルは席を立った。トアンを連れて場を離れようとする彼女がどうも気になって、リンダに付いていくよう頼むと、頷いたリンダは足早に彼女たちを追ってくれた。


そうすると、自然と朝食の場に残るのは父と私、そして少数の使用人。父は私の同じことを考えたのか、ジャニアを残した使用人全員を朝食で使用した食器類と共に下がらせる。


空気が籠もらないように開け放たれていた扉が閉められると、広々としつつも人払いのされた空間が出来上がった。




「…余裕がないって、笑っていいよ。」




そう切り出した父に、私は何も言わず首を横に振った。


何も情報が無いことに対しての不安から、他者を頼ることを決めた私。メイベルを放っての形で会話した限り、父はそれを察しつつも情報を齎すことはしなかったのだと知れた。けれど私が動いていることを、私の聞いている場でメイベルから知らされたことで推察は暗に肯定された。


“余裕がない”とは、恐らく自身が隠し事をすることで私が動くことは予想していたけれど、実際に起きたことで私と会話の席を設けている今現在のことだろう。




「お父様の行動の殆どが私に関することで、私を思ってのことですのに、誰が笑えましょうか。」


「けれど、リリルフィアは俺の行動が嬉しくないでしょう?」




情報が少ない現状において父の行動は、過度に思える罰則を独断で実行に移したように見える。それを思えば確かに嬉しくはないし、私を思ってのことと分かっていても“どうして相談してくれなかったのか”という感情は残る。分かっているなら全て話してくれてもいいじゃない、という感情が全く無いといえば嘘になる。


けれど、それは結果を何も過程の無い場で突きつけられればの話で。




「お父様が私になにか隠しているとわかってから、こうしてお話するのは何度目でしょうか。隠し事を話せないと仰るお父様に聞くことを諦めてしまえば、不明瞭な部分は不明瞭なままで、お父様が何をお隠しになっているのかを察することはできますわ。」




一部が欠けていたところで、大部分を目にすることができればその絵画がどのようなものであるかを把握することはできる。


同じように、父の隠し事の内容を知らずとも、褒美を賜った日から今日までの会話や出来事を思い起こせば、私に関すること、それも婚約についてであるということは分かるものだ。


私の言葉に父は「…ごめん」と呟くように謝罪した。それを受け取らないという意志を込めて首を振れば、父は眉を垂らして私と同じように首を横に振る。




「もう少し。もう少しだけ、リリルフィアを困らせるから先に謝っておくよ。」


「どう、私を困らせるおつもりかは…」




話してくれないのだろうか。


最後まで発することができず浮いた言葉を掬うように、父は私へ今回は教えてくれた。




「領地へ戻る前に、夜会を開くんだ。我が家主催で。」




日付は一月後、ドレスは手配してある、私は出席するだけでいい。叱られることを覚悟しているような顔を見せた父に、私が一番に向けたのは率直な疑問だった。




「もっと早くに仰ることは、本当にできなかったのですか?」




その言葉に父が視線をうろつかせたことが、何よりも明確に分かる答えだった。



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