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父は落ち着かせるように私の肩を一度叩いてから、国王へ遠慮がちに切り出した。




「国王陛下に申し上げます。我々はハルバーティア伯爵家に属する兵を手助けしようと動いたに過ぎません。そこに忠臣としての義務や忠義などは含まれておらず、このように多くの褒美を頂戴するに相応しい功績であったことは、嬉しく思いますが…」




父の言葉に私は肯定するため頷く。父の丁寧な言葉であっても、聞き手が変われば無礼な言葉になるだろうが、言ってしまえば私達ハルバーティア伯爵家は兵のために動いただけであり、その結果国の防衛の一助となっただけ。


そこまで考えて、私は自身の行動から国王直々に言葉を頂戴している現状に、なんとも強い既視感が湧いた。以前にも同じことがあったではないか。その時、遠慮や謙遜を口にした私に対して国王はなんと言ったか。




「我々が勝手に謝意を示しているのだ。謙虚さは君たちの美徳だが、そう言葉を並べず我々の気持ちを汲むつもりで受け取ってほしい。」




穏やかに紡がれる言葉は、なんとしても我々ハルバーティア伯爵家への褒美を一つでは済ませない、という意志が感じられた。


それに対して困ったと言わんばかりに父は眉を垂らし私を見る。しかし父が解決策を見出だせない以上、私が国王へ返す言葉が見つけられるはずもなく。父は首を振り返すと、「だよねえ。」と力なく笑い、かと思えば私を見つめて「あ。」と声を上げた。




「お父様?」


「ああ、ううん。リリルフィアは気にしないで。」




結われ肩から垂らされた髪を梳くように撫で、父は国王へ視線を向ける。


今の様子だと、何やら思いついたらしい。国王たちもそれが分かったのか、父は視線を向け聞く姿勢になり父の言葉を待っているようだった。


緊張や情報過多で気が回らなかったけれど、目の前に座しておられるのはこの国の頂点に立つお方で、その隣に座しているのは弟君なのだ。ギルトラウに関しては出会いが出会いだったので忘れそうになるけれど、本来であれば伯爵家の令嬢が席を同じくしていることすら信じられない。


更には案内されたこの場所。レイリアーネの時にもそうだったけれど、夜会や謁見に使う場所や茶会のために整えられている庭園以外で王族に会うことは、それだけ彼らに近づくことを許されているという証明となる。


何の疑問も持たなかった自分に今更ながら冷や汗が出そうになるのを堪え、失礼の無いよう改めて姿勢を正した。


父も言葉が整理できたと言わんばかりに、美しい顔に笑みを乗せて口を開く。




「国王陛下、そして王弟殿下。褒美について少し、お願いしたいことがございます。」


「提示した褒美に釣り合わぬ限り、数を減らすことは却下だが?」


「はい。承知しております。」




国王の言葉に少し苦笑いを混ぜた父は、どうしてかザラン騎士へ視線を向ける。


視線を受けたザラン騎士は一度首を傾げ、その後父が「少しお耳を。」と願ったことで席を立った。流麗な所作で父へ顔を寄せたザラン騎士に、父は何事か囁く。声を大きくすることを憚るような願いなのかと思ったけれど、聞き終えたらしいザラン騎士の表情はとても嬉しそうだった。




「シュリ、伯爵はなんと?」


「はい、陛下。」




国王へ耳打ちし、次いでギルトラウへも同様に顔を寄せたザラン騎士はそれぞれの表情に喜色が浮かぶのを見届けてから再び席へ戻った。


そうなると、結果的に私だけが父の願いを聞けないことになるわけで。




「お父様…?」


「ハルバーティア伯爵家の未来に関わることを願ったんだ。…私が望む、これ以上ない願いです。」




伯爵家の未来に関することを国王へ願うのは正しい選択なのだろうか。そう疑問も湧いてくるけれど、願われた相手である国王自身が数度、満足そうに頷いているのだから問題ない、のだろうか。




「令嬢には、伝えなくて良いのか?」


「自己満足のようなものです、断られるのが目に見えておりますので。」


「あー、兄上。想像できます、話さなくていいと思いますよ。」




私に関することなのか。私が断るような内容を王命で実行するつもりなのか。けれど、ギルトラウまで父の意見に加担してしまえば、国王が頷くのも当然と言えた。




「伯爵の言葉、しかと聞き届けた。伯爵の後見する彼の者の叙爵と、伯爵の願ったものを褒美としよう。」


「有り難く頂戴いたします。」




下賜する側と、賜る側。両者の意見が一致して無事に場は収まったことは理解した。けれど、けして拭えない疎外感が私の胸の内を侵食し、不快感が湧いてくる。


表情に出してはいけない。この場で心の内を曝け出してはいけない。令嬢としての振る舞いを思い出し、私は父の横で笑みを貼り付けた。




「…フィルゼント、娘に嫌われないよう気をつけるのだぞ。」




伯爵と国王としての会話を終えたからか、父の名を呼んだ国王が私を見つつ忠告を口にする。


父への、今まで積み重なってきた信頼が一度で崩れるようなことは無いのでそんなことにはならないけれど、焦った様子で私を見る父には胸が少し軽くなる。なので私は否定することなく、言葉を口にすることもなく、ただ笑顔でいることにした。



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